業務委託契約だからといって「労働者」に該当しないとは限りません。
労働組合法では、経済的従属性が高い場合、直接雇用でなくても「労働者」と認定される可能性があります。労働者と認定されると、企業は団体交渉に応じる義務を負い、労働者はストライキ権の行使も認められます。
本記事では、労働組合法における「労働者」の定義、認定基準、企業が取るべき対策について解説します。
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法律における「労働者」の定義|労働基準法と労働組合法の違い
労働基準法や労働組合法は「労働者」に対して様々な保護を与えています。このため、「労働者」に該当するか否かは重要な要素になります。
「労働者」としての認定基準は法律によって異なります。労働基準法と労働組合法では適用範囲が異なるため、注意が必要です。
⑴ 労働基準法上の「労働者」
労働基準法や労働契約法などの労働条件を定めることを目的とする法律では、「指揮監督されて労務を提供する者」が「労働者」に該当するとされています(労働基準法9条、労働契約法2条1項など)。
名目上は委任や請負契約であっても、「指揮監督」が行われている場合には「労働者」に該当し、残業代の支払義務などが発生することになります。
詳しくは労働契約と業務委託契約について解説したこちらのページもご参考ください。
⑵ 労働組合法上の「労働者」
労働組合法では「賃金(またはそれに準じる収入)を得て生活をする者」が「労働者」に該当するとされています(労働組合法3条)。これは、使用者に対する経済的な従属性を重視するものです。
基準が異なっているため、労働基準法では「労働者」に該当しない者が、労働組合法では「労働者」に該当する場合があります。
有名なところでは、プロ野球選手は労働基準法上の「労働者」には該当しませんが、労働組合法上の「労働者」に該当します(東京地方裁判所:平16(ヨ)21153号)。
より詳しくは次のような基準で判断されます(最高裁判所:平21(行ヒ)473号など)。
基本的な判断要素(経済的従属性)
- 労働者が事業組織に組み入れられているか
- 契約内容が使用者により一方的に決定されているか
- 報酬が労務に対する対価としての性格を持つか
これらの要素が認められる場合には、労働組合法上の労働者性が認められます。
補充的な判断要素(人的従属性)
- 業務の依頼に対する許諾の自由がない
- 時間や場所などの拘束性(指揮監督要素)
これらが認められる場合にも労働者性を認められやすくなりますが、あくまでも上記3つが主な判断要素であり、こちらは補充的な判断要素になります。
特別な考慮要素(事業者性)
- 独立的判断で経営判断をして収益活動をしている
一見すると経済的従属性や人的従属性が認められても、明らかに独立した事業者というべき特段の事情があるような場合には労働者性が否定されます。
分かりやすい言い方をすると、従業員に仕事を配転するのと同じような感覚で業務委託をしているような場合には「労働者」と認定される可能性が高くなります。
労働組合法上の「労働者」と認定された例
プロ野球選手(東京地方裁判所:平16(ヨ)21153号)
ウーバーイーツの配達員(東京都労委令和2年(不)第24号)
労働組合法上の「労働者」に該当した場合の効果
労働組合法上の「労働者」に該当する場合には主に次のような効果が発生します。
①組合加入を妨げることができない | 労働組合に加入したことで不利益に取り扱ったり、加入しないことを条件に契約を締結すると違法となります。 |
②団体交渉の席に着く義務がある | 労働組合として団体交渉を申し入れられた場合、交渉を拒絶すると違法となります |
③労働者はストライキを行う権利がある | ストライキ(履行の拒絶)によって生じた損害の賠償請求をできなくなります |
企業が取るべき対策|リスク回避と適切な対応
「労働者」と認定されないようにする
一つ目の対応は、「労働者」と認定されないように注意しながら業務委託などを行うことです。
この場合次のような点を注意します。
- 契約の独立性を明確にする(業務内容や報酬内容を、対等な事業者として個別に交渉する)
- 業務委託先に裁量を持たせる(指揮監督を行わず、独立の受託業者として裁量に基づいて業務を行わせる)
一方で次のような場合には「労働者」と認定されやすくなります
- すべての委託先に一律の契約を一方的に適用する
- 委託を拒絶した人を不利益に扱う(一度断ると依頼をしなかったり報酬が下がるなど)
「労働者」として団体交渉などに対応する
上記対応を徹底すると、事業の実態や必要性と乖離する場合があります。
ウーバーイーツなどが「労働者」と認定されているように、労働組合法上の「労働者」の範囲はかなり広く認定されます。建築や内装業界で一般的な一人親方の場合には、労働者性を否定できるような契約形態とすることが困難な場合もあります。
そこで、労働組合法上の「労働者」であることを前提に団体交渉などに応じることも考えられます。
団体交渉には、組合加入者全体との取引内容を一括で交渉することができたり、ある程度知識がある人が代表して交渉に来てもらえるなど、会社側にとっても一定のメリットがあります。
まとめ
いずれの場合でも、労働組合としての交渉などを申し込まれた場合には、法的な観点からも経営戦略的な観点からも専門の弁護士に相談して対応するようにしましょう。