不貞慰謝料(不倫の慰謝料)について、相手から「公正証書にしてほしい」と言われることがあります。公正証書を作成することは、紛争の蒸し返しを防ぐ点で支払者側にもメリットがあります。他方で、裁判を経ずに強制執行が可能になるなどの効果も生じます。
このページでは、公正証書作成の効果と注意点を解説します。
目次
公正証書の効力と強制執行
公正証書とは
公正証書とは、当事者の嘱託により、公務員である公証人が権限に基づいて作成する公文書であり、極めて強力な証拠力が生じます。
強制執行認諾文言
金銭の支払いを内容とする公正証書に支払が滞ったときは直ちに強制執行に服する文言(強制執行認諾文言)が記載されている場合には、裁判を行うことなく強制執行を行うことが可能になります。
公正証書のメリット
公正証書にすることで、支払う側にとっては、合意内容が明確になり、後から蒸し返されたり二重払いをさせられる危険を、大きく減らすことができるというメリットがあります。
請求者側にとっては、強制執行認諾文言を入れることで、支払いが滞った場合に裁判を経ずに強制執行を行うことが可能になり、確実に支払いを受けられるようになります。支払う側にとっても、強制執行が可能となることと引き換えに、分割払いなどの譲歩を得やすくなるというメリットがあります。
対応のポイント
公正証書にすると、強制執行が可能になったり、非常に強い証拠力が発生します。このため、次の点を必ず確認するようにしましょう。
- 納得した支払内容か
支払金額、支払期日、支払方法が合意した内容になっているか、勝手に違う内容にされていないかなどをしっかりと確認します。 - 強制執行認諾文言
強制執行認諾文言があると、裁判を経ずに強制執行が可能になります。本当にそれでよいのか、裁判にしてでも反論したい事項がないか改めて確認します。 - 蒸し返しをされないか
清算条項などが入っているか、合意の対象が過度に限定されていないかなどを確認します。
ストーリーでイメージ
慰謝料を請求されて分割払いで基本合意
Xは既婚者Yとの交際が発覚し、Yの配偶者Zから不貞慰謝料300万円を請求されました。Xが一括で支払うのは無理であると伝えると、Zから分割でよいから公正証書を作成してほしいと回答がありました。
公正証書の原案が作成されて精査
Xが分割払いにしてくれるのであれば公正証書の作成には応じると答えると、Zから公正証書の原案が送られてきました。
内容を確認すると、「●月●日の不貞行為について慰謝料として300万円を支払う」「毎月10万円ずつ300万円を支払う」「支払いが滞った場合には残金全額について直ちに強制執行をできる」と記載されていました。
懸念点を抽出して修正提案
Xは、この内容では他の日付の不貞行為について再度請求されるのではないか、分割は合意したが300万円とは合意していないのではないか、強制執行が可能であるなら対価として減額すべきではないかと考えました。
そこで、Xから改めて「XY間の不貞行為について200万円を支払う」「毎月10万円ずつの分割払いとする」「他に債権債務がないことを確認する」「強制執行認諾文言を入れる」という内容でZに提案をしました。
相手からの主張について強気の交渉
Zからは、そのような変更を主張するということは他の不貞行為があると自白しているのではないか、やはり300万円を支払ってほしいと反論がありました。
しかし、Xは、訴訟では不貞行為を否認する可能性があること、不貞行為が真実だとしても100~200万円が妥当であると主張し、合意ができない場合には訴訟でも構わないと強気の交渉を行いました。
その結果、Zも同意し、Xが提案した内容での公正証書を作成することになりました。
公証役場で公正証書を作成
Zの気が変わらないうちに、Xにおいて公証役場に連絡をして、公正証書作成の予約をするとともに公正証書の原案を提出しました。
公正証書作成当日、公証人が原案の内容を法律的に整理して文章を作成したものを、XとZの前で読み上げました。XとZが内容に納得したことを確認すると、公証人が公正証書を作成しました。なお、公正証書の作成に必要な証人は公証役場で用意をしてもらいました。
これによって、無事公正証書が作成され、Xは不貞慰謝料の分割払いを開始しました。
まとめ
公正証書は強い証拠力を有し、訴訟を経ずに強制執行を可能とするため、一般的には支払者側には不利となります。しかし、支払者側にとっても蒸し返しの防止などが可能になるほか、強制執行認諾と引き換えに分割支払いの合意を得られる可能性があります。
公正証書を作成する場合には、条項の内容を十分に確認して単に不利になるだけではなく、対価として有利な条件を付けられるような書面を作成するようにしましょう。
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この記事の執筆者
寺岡法律事務所
弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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