取引先から一方的な値引きを要求された際、中小企業においては、納得できなくても受け入れてしまうケースが少なくありません。もっとも、一方的な値引き要求は、契約上の問題だけでなく、取適法(旧下請法)や独占禁止法上の問題になることがあります。
このページでは、中小企業向けに、一方的な値引き要求を受けた場合の対応ポイントを解説します。
目次
一方的な値引き要求で確認すべき法律の全体像
一方的な値引き要求とは
ここでいう「一方的な値引き要求」とは、取引先が、十分な協議をしないまま、相手方の同意がないのに、又は実質的に断りにくい状況を利用して、代金額を引き下げようとする行為をいいます。
典型例は、①既に発注済み・納品済み分の代金を減らす、②今後の発注単価を説明なく据置き・引下げする、③協賛金・歩引き・手数料等の名目で代金から差し引く、という行為です。
取適法(旧下請法)とは
取適法は、正式には「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」といい、旧下請法(下請代金支払遅延等防止法)が改正されて2026年1月1日に施行されました。法律名・用語も見直され、「親事業者/下請事業者」は「委託事業者/中小受託事業者」へ、「下請代金」は「製造委託等代金」へ変更されています。
用語が変更されたのは、「下請」という用語が対等な取引当事者ではないという語感を与えること、取引当事者間でも「下請」という用語を用いていないことが理由とされています。
発注後の減額は許されない
取適法では、契約後に委託代金の額を減額することが禁止されています(5条1項3号)。慣習で減額が一般化している場合はもちろん、契約書の中で値引きの合意が記載されている場合であっても違法とされる場合があります。
※詳しくは公正取引委員会のQ&Aページに記載されています。
協議に応じない一方的な代金決定も許されない
さらに、取適法は協議に応じない一方的な代金決定も禁止しています(5条第2項第4号)。中小受託事業者から価格協議の求めがあったのに協議に応じないこと、必要な説明をしないまま一方的に代金を決定することは取適法に違反することになります。
相手方の要請額を受け入れないこと自体が直ちに違反というわけではなく、実質的な協議を行わず、理由や根拠の説明をしないまま一方的に価格を決定することが違法となります。
取適法の対象外でも独占禁止法の問題は残る
取適法の要件に当てはまらない場合でも、取引先との力関係が強く、断ると取引停止等の不利益が現実的に想定される場合には、独占禁止法の「優越的地位の濫用」が問題になる可能性があります(2条9項5号ハ)。
例えば、取引上の優越的関係を利用して、減額を強制するような場合には、取適法の適用がない場合でも、独占禁止法に違反する場合があります。
取適法の対象となる取引
中小企業の取引であればすべてが取適法の対象になるわけではありません。また、義務や禁止事項、対象となる取引をすべて理解するのは大変です。
自社の資本金と従業員数をもとに、どのような相手であれば取適法の対象になるのかを整理しておきましょう。
一般の取引の場合
- 自社の資本金が3億円超
委託するとき:資本金3億円以下 - 自社の資本金が1億円~3億円
委託するとき:資本金1千万円以下
受託するとき:資本金3億円超 - 自社の資本金が1千万円以下
受託するとき:資本金1千万円超 - 自社の従業員が300人超
委託するとき:従業員300人以下 - 自社の従業員が300人以下
受託するとき:従業員300人以上
情報成果物作成委託等の場合
- 自社の資本金が5千万円超
委託するとき:資本金5千万円以下 - 自社の資本金が1千万円~5千万円
委託するとき:資本金1千万円以下
受託するとき:資本金5千万円超 - 自社の資本金が1千万円以下
受託するとき:資本金1千万円超 - 自社の従業員が100人超
委託するとき:従業員100人以下 - 自社の従業員が100人以下
受託するとき:従業員100人以上
対応のポイント
法令を提示して交渉を行う
取適法に違反する減額などの申し入れは、実際には、担当者の無知や認識不足によるところが少なくありません。このため、まずは取適法の条項を示して交渉を行うことで解決する場合が多いです。
公正取引委員会への相談を行う
条項を示しても取引先が一方的な減額等を強要する場合や、そもそも減額要求への反論ができないような力関係の場合には、公正取引委員会への相談(通報)を行うことが考えられます。
※相談窓口はこちら。
まとめ
取引先からの一方的な値引き要求は、単なる営業交渉に見えても、取適法や独占禁止法に違反する場合があります。取引先と長期的なパートナーとして事業を行う以上は、しっかりと交渉を行うようにしましょう。また、普段から自社がどのような相手と取引をする場合に取適法の適用対象になるかを踏まえておくことが重要です。
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この記事の執筆者
寺岡法律事務所
弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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