支払済みなのに強制執行されたときの対処法(弁済の証明・請求異議・執行停止)

判決や和解にもとづいて支払いを済ませたはずなのに、突然、預金や給与が差し押さえられてしまうことがあります。
このページでは、そのような場合に差し押さえを止める手段である、請求異議の訴えや、執行停止について解説します。

強制執行とは

強制執行とは

強制執行は、債権者の申立てにより、裁判所が債務者の財産を差し押さえ、換価・配当などを通じて回収させる手続です。差押えの対象は、預金や給与などの債権、家や土地などの不動産が主です。

強制執行に必要なもの

強制執行を行う場合には、判決や和解調書、強制執行認諾文言付きの公正証書などの債務名義が必要です。債務者の承諾は必要ありません。
債務名義の成立後に支払いがされていないことの証明も特別には必要ありません。

裁判所が支払を自動で確認してくれるわけではない

執行手続は、債務名義にもとづく債権者の申立てに基づいて進行します。支払いの有無を裁判所が積極的に調査することはありませんし、差し押さえの着手前に裁判所から債務者に問い合わせられることもありません。
このため、支払いを終えて安心していたら突然差し押さえを受けるという事態が発生し得ます。

支払い済みなのに差し押さえがされる理由

支払い済みなのに差し押さえがされる理由は様々ですが次のものが考えられます。

  • 単なる嫌がらせ
    債権者が支払いを認識しながら嫌がらせで強制執行を行うものです。さすがにめったにありませんし、そのような行為自体が不法行為になります。
  • 弁済の認識の齟齬
    支払ったお金が何のお金かの認識が異なっていた場合です。
    例えば、債務者は不貞慰謝料の支払いのつもりで100万円を振り込んだが、債権者は別の借金の返済のつもりで受け取っていたなどの場合です。
  • 見落とし、忘却
    取引履歴から見落としていたり、支払いを受けていたことを忘れていた場合です。日々の入出金数が多かったりすると起こり得ます。
  • 支払い名義の不備
    例えば、債務者が個人なのに会社名義の口座から振り込んでしまい、債権者からは誰から振り込まれたのかが認識できない場合です。

いずれの場合でも、差し押さえを止めるためには適切な対応を取る必要があります。

請求異議の訴え

強制執行を止めるには請求異議の訴え

強制執行を止める手段として請求異議の訴え(民事執行法35条)というものが用意されています。
これは、債務名義(判決などのこと)が成立した後に、債権が消滅した場合などに、債務名義の効力が無くなったとして強制執行をできなくするための訴訟です。
支払済みなのに強制執行が行われたり、強制執行をされそうな場合には、この請求異議の訴えを提起することで強制執行を止めることができます。

主張できるのは判決後の事情だけ

請求異議の訴えで主張できるのは判決後(厳密には事実審の口頭弁論終結後)に発生した事実だけです。本当は債権は存在しなかったなどの、判決前の事実を主張して争うことはできません。
典型的なのは、判決後に支払ったというような弁済の事実です。

一時的に執行を止める手段は執行停止

請求異議の訴えは、提起しただけで自動的に差押えが止まるわけではなく、請求異議の訴えの判決が出るまで差し押さえ手続きが進行します。
そこで、請求異議の訴えが終わるまで、差押えの進行を止めるために、執行停止を申し立てます(民事執行法36条)。

強制執行手続が終わってしまったら不当利得返還請求or損害賠償請求

差し押さえ、換価など強制執行の手続きが完了してしまった場合には、請求異議の訴えを行っても財産を回復することはできません。
そのような場合には、不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起して、失った財産の回復を求めることになります。
なお、請求異議の訴え継続中に強制執行が完了してしまった場合には、訴えの変更によってこれらの請求に移行することができます。

弁済の主張には証拠が必要

弁済を証明するためには証拠書面を提出することが必要です。銀行振り込みであれば振込履歴、現金振り込みであれば領収書を証拠提出することになります。
このような、争いになった際に証拠を確保するためにも、振込での支払いとしたり、領収書の発行を受けておくことが重要です。
※詳しくはこちらのページで解説しています。

まとめ

支払済みなのに強制執行をされた場合、または強制執行をされそうな場合には、急いで請求異議の訴えを行う必要があります。それ以上に、振り込みや領収書など、支払いの証拠が残るようにすることも重要です。
請求異議の訴えや執行停止の申立ては、通常の訴訟と比較しても複雑な手続きになります。時間的な猶予も短いため、支払い済みなのに強制執行が開始されたり、強制執行をされそうな場合には急いで弁護士に相談しましょう。

※不貞慰謝料請求のページはこちら。

この記事の執筆者
 寺岡法律事務所
 弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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