既婚者だと知らなかった場合、慰謝料は支払う義務がありますか?

相手が未婚者だと思って付き合っていたら、突然相手の配偶者から不貞慰謝料請求をふけることがあります。
結論から言えば、相手が既婚者であることを知らず、また知ることもできなかった場合には、不貞慰謝料の支払義務はありません
以下では、既婚者だと知らずに付き合っていた場合の慰謝料について解説します。

不貞慰謝料の支払い義務者

不貞慰謝料とは、配偶者のある人が第三者と肉体関係を持った場合に発生する精神的損害に対する損害賠償です。
慰謝料の支払義務者になり得るのは、次の者になります。

  • 配偶者がいるにもかかわらず肉体関係を持った本人
  • その不貞行為の相手方

もっとも、不貞慰謝料は不法行為責任に基づくものなので、不貞行為についての故意または過失が必要です。

不貞相手が慰謝料支払義務を負う条件

不貞行為が不法行為と評価されるためには、相手方に「配偶者がいると知っていた、または通常であれば知り得たのに肉体関係を持った」という事情が必要です。
そのため、以下のような場合には、原則として慰謝料支払義務は発生しません。

① 無理やり肉体関係を持たされた場合

暴力や脅迫などにより肉体関係を強要された場合は、被害者が不貞行為として慰謝料請求を受ける立場になることはなく、加害者に対して不法行為責任(不同意性交や強制わいせつ)を追及する問題となります。
これは犯罪被害者の問題であるため、本ページでは詳細な解説は行いません。

② 職業的な肉体関係の場合

売春など、職業として金銭を対価に肉体関係を持った場合には、不貞行為の相手方に慰謝料責任が生じないと判断されることがあります。これは売春自体の違法性とは別に判断されます。
ただし、配偶者がいながら不貞行為を行った本人については慰謝料責任が生じます。
この点についても個別の事情による判断が必要となるため、本ページでは解説を省略します。

③ 既婚者であると知らなかった場合

不貞行為とは、「配偶者がいることを前提として、その配偶者以外と肉体関係を持つ行為」を指します。
そのため、不貞行為の相手方として慰謝料支払義務を負うのは、相手が既婚者であると知った上で肉体関係を持った場合に限られます。
このため、相手が既婚者であると知らなかった場合には慰謝料の支払い義務は生じません。

実際の争い方と立証のポイント

もっとも、「既婚者だと知らなかった」ことの立証は容易ではありません。裁判や交渉では、客観的な証拠に基づいて判断されます。

有力な証拠となるのは、次のようなものです。

  • メール、SMS、LINEなどで「結婚していない」「独身である」と説明されていたやり取り
  • 将来の結婚や同居を前提とした会話内容

一方で、次のような事情がある場合には、「既婚者であることを認識していた、または認識できた」と判断される可能性があります。
いずれも独身同士であれば起こらないはずの現象や、独身だと信じていればやらないはずの行動です。

  • 人目を強く気にしながら会っていた
  • 自宅を一切教えてもらえなかった
  • 休日や夜間に連絡が取れない状況が続いていた

この他にも、慰謝料請求を受けた後に不合理な弁明をしていたことなども間接証拠になることがあります。
安易な説明や同意、不用意な発言は避け、事実関係を丁寧に整理することが重要です。