不貞慰謝料請求を受けている最中に、相手方(配偶者など)「会社に知らせる」などの脅しがされることがあります。実際に会社に連絡をしたり押しかけるケースも見受けられます。
合理的な理由なく私生活上の不貞トラブルを職場に伝える行為は不法行為になり得ます。このページでは、職場に伝える行為の違法性、会社による懲戒処分の限界、実際に連絡された場合の対応を解説します。
目次
法律上の仕組み
不貞行為とは
不貞行為とは、配偶者以外の人と性交渉を行うことを言います。
夫婦は互いに貞操義務を負っており、不貞行為を行った場合には、離婚原因になったり(民法770条1項1号)、不法行為に基づく損害賠償(709条)の原因になったりします。
また、不貞行為の相手方(要は浮気相手)も同じく損害賠償義務を負います。
この不貞行為による損害賠償義務を一般に「慰謝料」と呼んでいます。
職場に連絡する行為は不法行為になり得る
私生活上の行為である不貞行為を、合理的な理由がないのに職場に伝える行為は、プライバシー侵害、名誉毀損などとして不法行為が成立する場合があります(709条)。
また、職場に押しかけて業務を妨害したりした場合には、会社に対する不法行為が成立する場合もあります。
交渉において、支払わなければ職場に連絡すると脅される場合がありますが、そのような行為は簡単には正当化されません。
不貞行為を原因に懲戒や減給をすることはできない
職場に知られたからと言って懲戒処分ができるとは限りません。
懲戒は就業規則等に根拠が必要で、かつ客観的合理性と社会通念上の相当性が必要になります(労働契約法15条)。
私生活上の行為は通常は会社に影響を与えません。このため、私生活上の行為について懲戒処分を行うためには、会社の業務や信用に影響が及んだことが必要になります。
このため、通常は、私生活上の不貞行為が会社に知られたからといって、懲戒処分を行うことはできません。減給についても懲戒処分で行う以上は同様です。
連絡した相手に損害賠償請求できる
職場に連絡をされ、それが不法行為に該当する場合には、名誉毀損で損害が発生したものとして損害賠償請求をすることが可能になります。
双方が損害賠償請求権を有することになるので、合意相殺を主張して不貞慰謝料の減額交渉をすることも可能になっていきます。
実際に職場に連絡された時の対処法
- 職場への説明
あくまでも私生活上の紛争であること、対応は適切に行っていることなどを説明します。
弁護士に依頼して適切に対応していることを伝えると、会社としてはより安心できます。 - 証拠の保存
着信履歴、録音、電話連絡メモ、メールや郵便などの書面を会社で保存しておいてもらいます。
一般的な会社であれば、これらの履歴はなんらかの形で記録していると思いますので、それらを消さないようにお願いしておくことで十分でしょう。 - 相手に警告する
相手方に対して、内容証明郵便などの記録が残る方法で、職場への連絡が不法行為や犯罪に該当することを明示して、職場への連絡をやめるように警告します。 - 業務妨害に対しては警察対応も考えられる
職場に強引に立ち入ったり、しつこく電話を繰り返す場合には、その行為自体が不法侵入や業務妨害に該当することがあります。その場合には、会社として警察通報を行うことが可能です。 - 懲戒等の可能性がある場合には適切に防御
私生活上の不貞行為を理由に懲戒処分を行うことはできません。職場から懲戒処分をされそうな場合には、あくまでも私生活上の行為なので懲戒処分はできないことを明示します。
不安な場合や実際に処分をされてしまった場合には、弁護士に依頼して対応することも考えられます。
具体例でイメージしましょう
請求者が実際に会社に連絡をしてきてしまった事案
Xは既婚者Yと交際していたとして、Yの配偶者Zから不貞慰謝料請求を受けています。Xは適切に対応していましたが、Zは「支払わないと会社にばらす」と言って慰謝料額を釣り上げてきます。
ある日、ZがXの会社に電話をしてきて、Xの上司に「Xが不倫をしている。慰謝料を支払わないので、会社が代わりに払ってほしい。」と伝えてきました。
会社に説明し、相手には警告
Xは上司から説明を求められたため、「私生活上の行為であること」「不貞相手が会社や取引先の関係者ではないこと」などを伝え、Zの要求に取り合わないように依頼しました。あわせて、さらにZからの連絡があった時にはその内容を記録してもらうように依頼しました。
また、直ちにZに対して、会社に連絡したことが不法行為であり損害賠償請求の可能性があること、連絡が繰り返される場合には業務妨害や名誉毀損として刑事告訴を行う可能性があることを伝えました。
相手からの連絡が継続し、会社からの警告と弁護士に依頼
Xから警告を送ったにもかかわらず、Zは会社に毎日数回電話して「会社が代わりに支払え」などと連絡をしてきます。
そこで、会社では顧問弁護士を通じて「業務妨害であるので連絡をやめるように」「継続する場合には業務妨害で刑事告訴をする」と警告をしました。
上司からXに対しても、このような相手方であれば自力での対応は困難なので弁護士に依頼した方が良いとアドバイスがありました。
そこで、Xは上司の知り合いの弁護士を紹介してもらい依頼をしました。
会社とXが依頼した2人の弁護士から警告を受けたことで、Zから会社宛ての連絡は止まりました。
以降は弁護士とZの間で法律にしたがった交渉がされ、職場に連絡したことによる名誉毀損の損害賠償と相殺する形で、Zに支払う慰謝料額を減額する内容で合意が成立しました。
まとめ
合理的理由なく私生活の不貞行為を職場に伝えることは不法行為になり得ます(民法709条等)。一方、職場が私生活上の不貞行為を理由に懲戒・減給することはできません。
職場とも協力して、証拠を確保しつつ、連絡停止を求め、必要に応じて損害賠償も含めて交渉を組み立てることがポイントです。
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この記事の執筆者
寺岡法律事務所
弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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