不貞慰謝料を現金手渡しで支払うことの注意点|領収書・示談書で証拠を残す方法

不貞慰謝料を現金で手渡しするよう求められた場合、どのように対応すればよいのでしょうか。現金手渡しによる支払いは法律上禁止されているわけではありませんが、振込と比べて「支払った証拠」が残りにくいという大きなリスクがあります。証拠が不十分なまま支払いをしてしまうと、後日「まだ受け取っていない」と主張されて再度支払いを求められる危険もあります。
このページでは、不貞慰謝料を現金手渡しで支払う場合のリスクと、トラブルを防ぐための具体的な対処法について解説します。

不貞慰謝料の現金手渡しに関する法律知識

不貞慰謝料とは

不貞行為とは、配偶者以外の人と性的な関係を持つことをいいます。夫婦にはお互いに貞操義務があり、不貞行為は離婚原因になるとともに(民法770条1項1号)、不法行為に基づく損害賠償(民法709条・710条)の対象にもなります。

不貞行為をした本人だけでなく、その相手方(いわゆる浮気相手)も、原則として不法行為に基づく損害賠償義務を負います。この損害賠償のうち、精神的な苦痛に対する賠償を一般に「慰謝料」と呼んでいます。

現金手渡しも振込も法律上は有効な支払方法

不貞慰謝料は金銭の支払いによって解決する債務(金銭債務)です。そのため、合意した金額を相手に渡せば、支払い(弁済)としての効果が生じます。支払いの方法について法律上の制限はなく、現金を直接手渡す方法でも、銀行振込で送金する方法でも、いずれも有効です。

銀行振込の場合、相手の口座に着金した時点で支払いの効力が生じます(民法477条)。振込であれば、通帳の記載や振込控えなどの記録が自動的に残るため、後日支払いの有無について争いが生じにくいという特徴があります。

領収書がなくても支払いは有効では?

「実際にお金を渡したのだから、領収書がなくても問題ないだろう」と考える方がいます。確かに、法律上は現金を渡した時点で支払い(弁済)の効力は発生しています。しかし、ここで注意しなければならないのは、「支払いの効力が発生していること」と「支払いの事実を証明できること」は別の問題だということです。
仮に相手から「お金を受け取っていない」と主張された場合、支払った事実を証明する責任は支払った側にあります。領収書も振込記録もなければ、裁判になったとしても支払いの事実を立証することが困難になり、最悪の場合、もう一度同じ金額を支払う羽目になるおそれがあります。

特に不貞慰謝料の事案は、当事者間の感情的な対立が激しいことが多く、一度合意が成立しても「やはり納得できない」として追加請求や蒸し返しが起きやすい類型です。そのため、支払いの証拠を確実に残しておくことは極めて重要といえます。

支払う側には領収書の交付を求める権利がある

民法486条1項は、弁済をする者は、弁済と引換えに受取証書(領収書)の交付を請求できると定めています。つまり、慰謝料を現金で支払う場合、支払う側には領収書を求める法律上の権利があります。
領収書の交付と現金の支払いは「同時履行」の関係にあります。これは、相手が領収書を出してくれないのであれば、支払いを拒んでも遅延(遅れ)にならないということを意味します。「領収書は後で送る」「領収書は不要だ」と言われたとしても、現金手渡しの場合は領収書を受け取るまで支払いを留保することが認められています。

示談書の清算条項が追加請求を防ぐ

慰謝料の支払いに際しては、金額や支払方法について合意した内容を「示談書」(合意書)として書面にまとめることが一般的です。示談書には「清算条項」と呼ばれる条項を設けることが重要です。

清算条項とは、示談書に記載された内容以外に当事者間には何ら債権債務がないことを相互に確認する条項です。この条項があることで、示談後に追加の慰謝料を請求されたり、慰謝料以外の名目で金銭を要求されたりすることを防止できます。

現金手渡しで支払う場合にとるべき対応

支払う側・受け取る側のいずれの立場であっても、トラブルを防ぐためには銀行振込で支払うことが望ましいです。振込であれば、通帳の記録や振込控えが自動的に支払いの証拠として残るためです。

それでも事情により現金手渡しとする場合には、以下の手順で進めるようにしましょう。

  1. 示談書を作成する:慰謝料の総額、支払期日、支払方法(手渡しの日程・場所)、清算条項を示談書に明記し、双方が署名押印します。
  2. 領収書を用意する:事前に領収書(受取証書)のひな形を用意しておきます。領収書には、支払った日付、支払った金額、受領者の氏名、支払者の氏名(宛名)、不貞慰謝料の支払いである旨を記載します。
  3. 現金と領収書を引換えにする:現金を手渡す際、必ず引換えに領収書に署名押印をもらいます。相手が領収書への署名を拒む場合には、支払いを留保して構いません(民法486条に基づく同時履行の関係)。
  4. 書類を保管する:支払い後は、示談書と領収書をセットで大切に保管します。これらが将来のトラブルを防ぐための最も重要な証拠になります。

まとめ

不貞慰謝料を現金手渡しで支払うこと自体は、法律上禁止されていません。ただし、手渡しは証拠が残りにくく、後日の「未払い主張」や「追加請求」のリスクがあります。支払い方法は銀行振込が望ましいですが、手渡しにする場合は、示談書で条件を確定したうえで、現金と引換えに領収書を受け取ることが重要です。示談書の清算条項は追加請求を防ぎ、領収書は支払い済みの事実を証明するための証拠になります。

慰謝料の支払方法や示談書の内容に不安がある場合や、対応が難しいと感じた場合には、弁護士に相談されることをおすすめします。

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この記事の執筆者
 寺岡法律事務所
 弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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