不貞慰謝料が払えない場合の選択肢
自己破産で免責されるか・減額交渉
不貞慰謝料は、原則として自己破産で免責されます。ただしデメリットも大きいため、まずは減額交渉・分割払いから検討するのが現実的です。
請求された慰謝料がとても払える金額ではなく、自己破産しかないのかと思い詰めていませんか。「不貞慰謝料は自己破産では免責されない」というのは誤解です。そして多くの場合、自己破産の前に取れる選択肢があります。
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「免責されない」という誤解で選択肢を狭める必要はありません。払えないときの対応方針を見る
不貞慰謝料と自己破産の基本的な仕組み
不貞慰謝料とは
不貞行為とは、配偶者がいる人が、配偶者以外の相手と性的関係を持つことをいいます。夫婦はお互いに貞操義務を負っているため、不貞行為は不法行為(民法709条、710条)に該当し、損害賠償の対象となります。また、民法770条1項1号により、離婚原因にもなります。
この不貞行為によって生じる損害賠償請求権のことを、一般的に「不貞慰謝料」と呼んでいます。不貞慰謝料は、不貞行為をした配偶者だけでなく、その相手方(いわゆる浮気相手)に対しても請求できます。
不貞慰謝料の請求額は、当初の請求段階では300万円から500万円程度で請求されることが多い傾向にあります。ただし、最終的に認められる金額は、不貞行為の期間や態様、婚姻期間の長さ、子どもの有無など、さまざまな事情によって異なります。
自己破産とは
自己破産とは、債務の返済が困難になった場合に、裁判所に申立てを行い、破産手続を経て免責許可を受けることで、債務の支払いを法的に免除してもらう制度です。免責許可の決定が確定すると、破産者は原則として破産債権についてその責任を免れます(破産法253条1項本文)。
自己破産を行うと、借入金やクレジットカードの未払い分などの多くの債務が免除されます。しかし、すべての債務が免除されるわけではなく、法律上、免責の対象とならない債権(非免責債権)が定められています。
非免責債権とは
非免責債権とは、自己破産の免責許可決定が確定しても、なお支払い義務が残る債権のことです。破産法253条1項各号に列挙されています。
主な非免責債権としては、次のようなものがあります。
- 租税等の請求権(破産法253条1項1号)
- 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(同2号)
- 破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(同3号)
- 養育費や婚姻費用などの親族関係に係る請求権(同4号)
- 罰金等の請求権(同7号)
不貞慰謝料が非免責債権に該当するかどうかは、上記のうち2号の「悪意で加えた不法行為」に当たるかどうかが問題になります。
不貞慰謝料は自己破産で免責されるか
破産法の「悪意」は「故意」ではない
不貞慰謝料が非免責債権かどうかを考える上で、もっとも重要なポイントが「悪意」の意味です。
民法では、「悪意」という言葉は「ある事実を知っていること」を意味するのが一般的です。たとえば、「相手が既婚者であることを知っていた」場合に「悪意」と表現されます。
しかし、破産法253条1項2号にいう「悪意」は、これとは異なります。ここでの「悪意」は、単に事実を知っていた(故意がある)だけでは足りず、積極的に他人に損害を与えようとする意欲、すなわち「害意」を意味するとされています。
この解釈は、破産法253条1項3号が「故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為」を別途非免責債権と定めていることからも裏付けられます。仮に2号の「悪意」が「故意」と同じ意味であれば、3号をわざわざ設ける必要がなくなるためです。
不貞慰謝料は原則として免責される
上記の「悪意」の解釈を不貞慰謝料に当てはめると、次のようになります。
不貞行為をした人には、相手が既婚者であることを知りながら性的関係を持ったという意味での「故意」は認められます。しかし、通常の不貞行為は、相手の配偶者に対して積極的に損害を与えることを目的として行われるものではありません。
つまり、不貞行為には「故意」はあっても、破産法が求める「害意」(積極的な加害の意欲)までは通常認められないため、不貞慰謝料は「悪意で加えた不法行為」には該当しません。
したがって、不貞慰謝料は原則として自己破産による免責の対象となります。
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自己破産のデメリットも理解しておく
自己破産にはさまざまな制約がある
不貞慰謝料が免責の対象になるとしても、自己破産にはさまざまなデメリットがあります。自己破産を検討する際には、以下のような点を十分に理解しておく必要があります。
自己破産をすると、一定額以上の財産を手放す必要があります。自宅(持ち家)や預貯金、保険の解約返戻金などが処分の対象になることがあります。
信用情報機関に事故情報が登録され、一定期間(通常7年)は新たな借入れやクレジットカードの作成が困難になります。
破産手続中は一定の資格制限を受ける場合があり、保険外交員や警備員など一部の職業に就けなくなることがあります(免責許可が確定すれば復権します)。
養育費や婚姻費用分担義務などは非免責債権であるため、自己破産をしてもこれらの支払い義務は免除されません。不貞慰謝料以外の債務の状況も含めて、自己破産が最善の選択肢かどうかを慎重に判断する必要があります。
不貞慰謝料が払えないときの対応方針
不貞慰謝料の支払いが困難な場合、すぐに自己破産を選択するのではなく、まずは他の方法で解決できないかを検討することが大切です。
まず、慰謝料の減額交渉を検討する
請求されている金額が相場より高い場合や、支払能力に照らして現実的でない場合には、交渉によって減額や分割払いに応じてもらえる可能性があります。
次に、自己破産以外の債務整理を検討する
任意整理や個人再生といった自己破産以外の債務整理手続も選択肢として考えられます。特に、持ち家を手放したくない場合や、不貞慰謝料以外に多額の借入金がある場合には、個人再生が有効な場合もあります。
それでも難しい場合に、自己破産を検討する
自己破産によって不貞慰謝料は原則として免責されますが、前述のとおりデメリットもありますので、ご自身の状況に合った方法を選ぶことが重要です。
まとめ
不貞慰謝料は、破産法上の「悪意」(害意)が認められない限り、自己破産によって原則として免責されます。通常の不貞行為には害意までは認められないため、免責の対象となるのが一般的です。ただし、自己破産には財産の処分や信用情報への登録などのデメリットがあり、養育費などの非免責債権は破産後も残ります。
一方で、「払えないからもう破産しかない」と思い詰めて手続を急ぐと、減額交渉や分割払いで解決できたはずの事案でも、大きな不利益を引き受けることになりかねません。方針を決める前に、一度弁護士にご相談ください。収入と請求内容を伺えば、減額交渉・分割・債務整理のうち、どの方法が現実的かを具体的にお伝えできます。
この記事の執筆者
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