不貞慰謝料の分割払いで「期限の利益喪失条項」を求められたら? 意味・効果・注意点を解説

不貞慰謝料を請求され、分割払いの交渉を進めていると、示談書に「期限の利益喪失条項」を入れるよう求められることがあります。聞き慣れない言葉のため、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
このページでは、期限の利益喪失条項の意味や法的な効果、公正証書との関係、そして実際にどのように対応すればよいかを分かりやすく解説します。

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期限の利益喪失条項の基本知識

「期限の利益」とは

期限の利益とは、支払期限が到来するまでは支払いをしなくてもよいという、債務者(お金を支払う側)にとっての利益のことです。民法136条1項は、「期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する」と規定しています。

たとえば、慰謝料200万円を毎月10万円ずつ20回払いとする合意をした場合、債務者は各月の支払期日が来るまでは、それ以降の金額を支払う義務がありません。これが「期限の利益」です。

「期限の利益喪失条項」とは

期限の利益喪失条項とは、一定の条件を満たした場合に、債務者が上記の「期限の利益」を失い、残りの債務全額について直ちに支払義務が生じることを定めた条項です。
示談書における典型的な定め方としては、次のようなものがあります。

  • 「分割金の支払いを2回以上怠った場合」に期限の利益を喪失する
  • 「合計●円以上の遅滞が生じた場合」に期限の利益を喪失する

このような条件に該当すると、まだ支払期日が来ていない分も含めて、残額の全額を一括で支払わなければならなくなります。

期限の利益喪失条項が設けられる理由

慰謝料を請求する側の立場から考えると、分割払いに応じること自体が譲歩です。慰謝料は本来、一括で支払うのが原則だからです。
分割払いを認めた場合、仮に債務者が1回分の支払いを滞納したとしても、期限の利益喪失条項がなければ、請求する側は滞納した1回分についてしか法的手続きをとることができません。まだ期限が来ていない将来の分割金については、期限が到来するまで請求できなくなります。
この場合、たとえば毎月5万円の分割金のうち1回分だけのために訴訟や強制執行の手続きを取ることは、費用や手間の面で現実的ではありません。そこで、請求する側としては、支払いが滞った場合に残額全額を一括で請求できるよう、期限の利益喪失条項を設けておきます。

期限の利益喪失は「ペナルティの上乗せ」ではない

期限の利益喪失条項について、「滞納すると違約金のように追加の支払いが発生する条項ではないか」と心配される方がいらっしゃいます。
しかし、期限の利益を喪失しても、支払う総額が増えるわけではありません。もともと合意した慰謝料の総額が変わるのではなく、残っている分の支払期限が前倒しになるだけです。言い換えれば、本来は一括で支払うべきだった状態に戻るにすぎません。
ただし、示談書に遅延損害金の定めがある場合には、期限の利益を喪失した時点から残額全額に対して遅延損害金が発生する可能性がありますので、この点は別途確認が必要です。

民法上の期限の利益喪失事由

なお、示談書に期限の利益喪失条項がなくても、民法137条は、一定の場合に債務者が期限の利益を主張できなくなることを定めています。具体的には、債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、債務者が担保を滅失・損傷・減少させたとき、債務者が担保を供する義務を負う場合にこれを供しないときです。
もっとも、不貞慰謝料の分割払いでは担保が設定されることはほとんどないため、民法137条が直接適用される場面は限られます。そのため、示談書に具体的な期限の利益喪失条項を設けておくことが重要になります。

公正証書と強制執行認諾文言 — 知っておくべき重要な違い

「強制執行認諾文言」とは

示談書を公正証書として作成する際に、「強制執行認諾文言」を入れるよう求められることがあります。強制執行認諾文言とは、債務者が支払義務を怠った場合に、裁判(訴訟)を経ることなく、直ちに強制執行(財産の差押えなど)を受けても異議がない旨を記載する文言です。

通常、強制執行を行うためには、まず訴訟を提起して判決を得る必要があります。しかし、強制執行認諾文言付きの公正証書は、それ自体が「債務名義」となるため、訴訟を経ずに強制執行が可能になります。

期限の利益喪失条項と強制執行認諾文言が組み合わさるとどうなるか

期限の利益喪失条項と強制執行認諾文言付き公正証書が組み合わさった場合、支払いを滞納した時点で、残額全額について、裁判を経ることなく直ちに強制執行を受ける可能性があるということになります。
具体的には、給与の差押え、預貯金口座の差押えなどが、訴訟なしに行われうるということです。

強制執行認諾文言付き公正証書を求められた場合の対応

強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することは、債務者にとって通常の示談書よりも重い負担を負うことになります。そのため、相手方から要求された場合でも、安易に応じるのは避けた方がよいでしょう。
もし相手方がどうしても公正証書の作成を求める場合には、慰謝料の減額など、他の条件面での譲歩を求める交渉材料にすることが考えられます。公正証書の作成に応じることと引き換えに、慰謝料の総額を下げてもらうなど、全体のバランスを取ることが重要です。
なお、公正証書を作成すること自体と、強制執行認諾文言を付けることは別の問題です。公正証書であっても、強制執行認諾文言がなければ、直ちに強制執行が可能になるわけではありません。この区別は、交渉の際に意識しておくとよいでしょう。

分割払いの示談で気をつけるべきポイント

ここまでの解説を踏まえ、不貞慰謝料の分割払いで示談をまとめる際に気をつけるべきポイントを整理します。

第一に、期限の利益喪失条項そのものについては、基本的に受け入れることになります。前述のとおり、慰謝料は本来一括払いが原則であり、分割払いに応じてもらっている以上、この条項を拒否し続けることは交渉上難しいのが現実です。期限の利益を喪失しても、本来の一括払いに戻るだけですので、きちんと支払いを続ける限り、実際に問題になることはありません。

第二に、強制執行認諾文言付きの公正証書については慎重に判断してください。これを受け入れると、万が一支払いが滞った場合に、訴訟なしに財産を差し押さえられるリスクがあります。受け入れる場合には、慰謝料の減額など相応の譲歩を得るようにしましょう。

第三に、無理のない分割計画を立てることが重要です。期限の利益喪失条項がある以上、1回でも滞納すると残額全額の一括請求を受ける可能性があります。毎月の支払額は、収入や生活費を考慮して、確実に支払い続けられる金額に設定するようにしましょう。

まとめ

期限の利益喪失条項は、不貞慰謝料の分割払いにおいて、請求する側から求められることが一般的な条項です。支払いが滞った場合に残額全額の一括請求が可能になるものですが、もともと一括払いが原則であることを考えると、きちんと支払いを続ける限り、実質的な不利益は大きくありません。基本的には受け入れることになる条項です。
一方で、強制執行認諾文言付きの公正証書については、通常の示談書とは異なり、訴訟なしに財産の差押えが可能になるという重い効果がありますので、慎重に対応する必要があります。

期限の利益喪失条項や公正証書の内容について不安がある場合や、交渉の進め方に迷う場合には、示談書に署名する前に弁護士に相談されることをおすすめします。条項の内容や交渉の方針について、具体的な状況に応じたアドバイスを受けることができます。

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この記事の執筆者
 寺岡法律事務所
 弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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