不貞慰謝料の示談書にそのままサインして大丈夫?確認すべき条項と修正交渉
相手が作成した示談書案は、相手に有利な内容が通常です。金額だけでなく、清算条項や求償権など複数の条項を署名前に確認すべきです。
不貞慰謝料の示談書が届き、そのまま署名してよいか迷っていませんか。相手方が作成した示談書案は、相手側に有利な内容になっているのが通常です。金額だけでなく、清算条項・求償権・接触禁止条項などを確認しないまま署名すると、支払い後にも予期しない不利益を負うおそれがあります。署名前に確認すべき条項を解説します。
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不貞慰謝料と示談書の基本
不貞慰謝料とは
不貞行為とは、配偶者以外の人と性的関係を持つことをいいます。夫婦にはお互いに貞操義務があり、これに違反した場合、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料の支払義務が生じます(民法709条・710条)。また、不貞行為は裁判上の離婚原因のひとつでもあります(民法770条1項1号)。
不貞行為の相手方(いわゆる浮気相手)も、同じく損害賠償義務を負う場合があります。つまり、配偶者と浮気相手のいずれに対しても、あるいは双方に対して慰謝料が請求される可能性があります。
示談書とは
示談とは、当事者が互いに譲歩して紛争を終わらせる合意であり、法律上は和解契約(民法695条)にあたります。示談書は、その合意の内容を書面にまとめたものです。
示談書にいったん署名すると、その内容には法的な拘束力が生じます。つまり、慰謝料の金額だけでなく、「どの事実を認めたのか」「どこまでの問題を解決したのか」「今後どのような義務を負うのか」といった事項すべてが、署名した内容どおりに確定します。後から「そんなつもりではなかった」と主張しても覆すことはできません。
金額だけを確認すればよいわけではない
示談書の署名にあたって、慰謝料の金額だけに注目してしまう方は少なくありません。しかし、示談書にはそれ以外にも多くの取り決めが含まれていることが一般的です。
たとえば、清算条項に不備があれば、慰謝料を支払った後にさらに追加の請求を受ける余地が残ります。求償権の放棄が定められていれば、本来は不貞相手と分担できるはずの負担を、一人で全額背負うことになります。接触禁止条項に高額の違約金が設定されていれば、偶発的な接触であっても違約金を請求されるリスクが生じます。
相手方が作成した示談書案は、相手側に有利な内容になっていることが通常です。署名前に、金額以外の条項も含めて慎重に確認することが大切です。
署名前に確認すべき条項
示談の対象範囲を明確にする
まず確認すべきは、示談書が「何についての合意なのか」という点です。示談の対象が「誰と誰の間の、どのような不貞行為に関する紛争か」が明確に記載されている必要があります。対象が曖昧なままだと、後に別の解釈をされる恐れがあります。
一方で、対象が限定されすぎている場合にも注意が必要です。たとえば「○月○日の行為に関する示談」とだけ記載されていると、他の日付における不貞行為については別途慰謝料を請求できると主張される余地が残ります。示談によって紛争全体が解決されるよう、対象範囲が適切に設定されているかを確認しましょう。
支払条件を明確にする
慰謝料の金額そのものに加えて、支払いに関する条件が明確に定められているかを確認します。確認すべき主な事項は、支払期日、支払方法(振込先口座の指定を含む)、一括払いか分割払いかの区別です。
分割払いの場合は、さらに注意が必要です。各回の支払金額と期日、振込手数料の負担者、期限の利益を喪失する条件(たとえば「1回でも支払いを怠った場合、残額を一括で支払う」など)、遅延損害金の利率といった点が明確に定められているかを確認してください。これらが曖昧なままだと、後にトラブルの原因になります。
ここからは、特に見落とされやすく、かつ影響の大きい4つの条項を取り上げます。
清算条項
清算条項とは、示談書に記載された事項以外には、当事者間に債権債務が存在しないことを確認する条項です。「本件に関し、本示談書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった形で記載されます。
この条項が含まれていない場合や、その範囲が限定的に記載されている場合、慰謝料を支払った後であっても、「示談で解決したのは一部の問題だけであり、まだ他の請求権が残っている」と主張される可能性があります。慰謝料を支払う側としては、支払いによって紛争が最終的に解決されることが不可欠です。清算条項が含まれていること、そしてその範囲が紛争全体をカバーしていることを必ず確認してください。
求償権の放棄
不貞行為は、配偶者と不貞相手が共同して行った不法行為であり、慰謝料の支払義務は連帯債務となります。一方が全額支払った場合、もう一方に対して負担部分に応じた金額の支払いを求めることができます。これを求償といいます。
示談書に「求償権を放棄する」という条項が含まれている場合、自分が支払った慰謝料のうち、不貞相手が本来負担すべき部分を請求できなくなります。本来であれば200万円を不貞相手と折半して100万円ずつ負担するところ、求償権を放棄するなら自分一人で200万円全額を負担することが妥当かを検討する必要があります。求償権を放棄する代わりに、慰謝料額を減額するという交渉も考えられます。
接触禁止条項と違約金
「今後、不貞行為の相手方と一切接触しないこと」を約束する条項で、違反した場合の違約金が定められていることが一般的です。
確認すべきは、第一に「接触」の定義です。対面だけでなく電話・メール・SNS、偶発的なすれ違いも含むのかで制約の重さが変わります。第二に違約金の金額が妥当か。第三に、そもそも守ることが現実的に可能な内容か。たとえば同じ職場で「一切の接触を禁止する」条項は履行が極めて困難で、修正の検討が必要です。
公正証書にする場合の注意点
相手方から示談書を公正証書にすることを求められる場合があります。公正証書は公証人が作成する公文書で、通常の示談書より強い効力を持ちます。特に注意が必要なのが「強制執行認諾文言」です。これは「債務を履行しない場合には直ちに強制執行に服する」という趣旨の条項で、これが含まれると、相手方は裁判を経ずに預金や給与の差押えを直接行えるようになります。公正証書にすること自体が直ちに不利益になるわけではありませんが、この文言の意味を十分に理解したうえで判断する必要があります。
署名後に撤回はできない
一度有効に成立した和解契約は、取り消すことができません。署名前の段階で内容を十分に確認しておくことが重要です。
相手が提示した金額がそのまま「適正額」とは限らない
示談書案に記載される金額は、あくまで相手方が希望する金額であり、法的な適正額とは限りません。不貞慰謝料の金額は、不貞行為の期間や回数、婚姻関係への影響、当事者の資力など、さまざまな事情を考慮して判断されます。裁判所の判例で認められる金額の相場と比較して、提示された金額が妥当かどうかを検討することが大切です。
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署名前に行うべき対応
示談書が届いたら、まずは署名を急がず、内容を一つずつ確認することが重要です。具体的には、次の手順で進めることをおすすめします。
示談の対象範囲を確認する
紛争全体が解決される内容になっているかを検討します。対象が曖昧でも限定的すぎても問題です。
支払条件を確認する
金額・期日・方法・分割の有無、分割なら期限の利益喪失条項や遅延損害金まで確認します。
清算条項の有無と範囲を確認する
清算条項が含まれているか、その範囲が紛争全体をカバーしているかを確認し、追加請求のリスクがないか検討します。
求償権放棄の有無を確認する
放棄する場合には、その分を踏まえて金額が妥当かを検討します。
接触禁止条項の内容と違約金を確認する
接触の定義、違約金の金額、現実に守れる内容かを確認します。
公正証書なら強制執行認諾文言を理解して判断する
公正証書にする場合は、強制執行認諾文言の意味を理解したうえで応じるか判断します。
これらの確認を行ったうえで、修正が必要な点があれば、署名前に相手方に対して修正を申し入れます。示談書の条項を修正すること自体は、法的に何ら問題のない行為です。
まとめ
不貞慰謝料の示談書は、金額以外にも示談の対象範囲、支払条件、清算条項、求償権放棄、接触禁止条項と違約金、強制執行認諾文言など、確認すべき条項が多岐にわたります。相手方が作成した示談書案は相手側に有利な内容になっていることが多く、そのまま署名すると支払い後にも予期しない不利益を負うおそれがあります。
一方で、これらの条項を一つずつ精査するのは負担が大きく、見落としも生じやすいものです。そして一度署名すると撤回はできません。修正が必要な点に気づかないまま署名してしまう前に、一度弁護士へご相談ください。示談書の文案を伺えば、修正すべき条項や金額の妥当性を確認し、整える方法を具体的にお伝えできます。
この記事の執筆者
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