不貞慰謝料を請求された際、相手方から通話履歴や位置情報、スパイアプリの記録などを証拠として突き付けられることがあります。「違法に集めた証拠は無効になるのでは?」と考える方も多いですが、民事訴訟での扱いは刑事裁判とは異なります。
このページでは、不貞慰謝料請求でよく使われる証拠の種類と、違法収集証拠の法的な扱い、そして請求を受けた側がとるべき対応について解説します。
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目次
不貞慰謝料請求と証拠の基礎知識
不貞慰謝料とは
不貞行為とは、配偶者以外の人と性的関係をもつことをいいます。夫婦はお互いに貞操義務を負っており、不貞行為はこの義務に違反する行為です。不貞行為があった場合、離婚の原因となりうるほか(民法770条1項1号)、不法行為に基づく損害賠償(民法709条・710条)の対象になります。
損害賠償の対象になるのは、不貞行為をした配偶者だけではありません。不貞行為の相手方、つまりいわゆる「浮気相手」も、損害賠償義務を負います。この不貞行為による損害賠償請求のことを、一般に「不貞慰謝料請求」と呼んでいます。
民事訴訟における「証拠」の意味
民事訴訟では、裁判所が口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果を総合して、自由な心証により事実を認定します(民事訴訟法247条)。これを「自由心証主義」といいます。通常、ひとつの証拠だけで事実認定がされることは少なく、複数の証拠を組み合わせて判断されます。
訴訟で「証拠になる」というとき、その意味は大きく分けて2つあります。
証拠能力(証拠として提出できるかどうか)
証拠能力とは、裁判所に証拠として提出し、裁判所が証拠として採用できるかどうかの問題です。刑事裁判では違法に収集された証拠の証拠能力が否定されることがありますが、民事訴訟ではこの点の扱いが異なります。民事訴訟では、証拠の収集方法に違法な点があっても、著しく反社会的な方法で収集されたものでない限り、証拠能力が否定されることはありません。
証明力(事実認定にどの程度役立つか)
証明力(証拠価値)とは、その証拠が事実認定にどの程度役立つかという問題です。証拠能力がある証拠であっても、その内容によって事実認定への影響の程度は異なります。たとえば、通話履歴は「頻繁に連絡をとっていた」という事実は示しますが、「性交渉があった」とまでは直接証明しません。このように、証明力は程度問題であり、他の証拠と組み合わせることで全体として事実が認定されることになります。
「違法に集めた証拠は裁判で使えない」わけではない
不貞慰謝料の請求を受けた方から「相手が違法に入手した証拠だから、裁判では使えないはずだ」というご相談を受けることがあります。しかし、これは正しくありません。
刑事裁判では、違法に収集された証拠は原則として証拠能力が否定されることがあります(違法収集証拠排除法則)。
しかし、民事訴訟では事情が異なります。民事訴訟は、当事者間の権利義務を確定するための手続であり、証拠の収集方法に多少の問題があっても、著しく反社会的な手段によって収集されたものでなければ、証拠能力は否定されないとするのが裁判所の一般的な考え方です。つまり、スパイアプリで取得した位置情報や、配偶者のスマートフォンを勝手に見て入手した情報であっても、民事訴訟では証拠として採用される可能性が高いのです。
不貞慰謝料請求でよく使われる証拠の種類
通話履歴・通話明細
通話履歴や通話明細は、特定の人物との頻繁な連絡や深夜帯の通話など、親密な関係を推測させる証拠として提出されることがあります。ただし、通話履歴から分かるのは「誰と」「いつ」「どのくらいの時間」通話したかという事実にとどまり、通話の内容までは分かりません。そのため、通話履歴だけで不貞行為(性交渉の存在)を直接認定することはできません。
もっとも、他の証拠と組み合わせることで、不貞行為を推認する材料のひとつになります。たとえば、深夜に頻繁に長時間の通話をしていたという事実が、ホテルの利用履歴や目撃情報などと組み合わさると、不貞行為の認定を補強する証拠となりえます。
また、配偶者がスマートフォンの通話履歴を盗み見て写真に撮影していた場合でも、その証拠が民事訴訟で排除されることはほとんどありません。
位置情報・GPS記録
位置情報やGPS記録は、不貞慰謝料請求において非常に有力な証拠になりえます。たとえば、相手方とラブホテルや相手の自宅に長時間滞在していたことが位置情報から分かれば、そこから不貞行為の存在を強く推認させることができます。
位置情報の取得方法としては、いわゆるスパイアプリをスマートフォンにインストールして取得するケースや、スマートフォンの位置情報共有設定を本人に無断で変更して取得するケースなどがあります。これらの方法は、プライバシーの侵害や不正アクセスとして違法となる可能性がありますが、前述のとおり、民事訴訟ではこうした証拠が排除されることは通常ありません。
メッセージ・SNSのやり取り
LINEやメール、SNSのダイレクトメッセージなどのやり取りも、不貞慰謝料請求ではよく証拠として提出されます。親密な内容のメッセージや、デートの約束、愛情表現のやり取りなどは、不貞関係を推認させる証拠となります。特に、性的な関係をうかがわせる直接的な内容が含まれている場合には、証明力が高い証拠として扱われます。
これらも、配偶者がスマートフォンを勝手に操作して取得しているケースが多いですが、証拠としての使用は否定されにくい傾向にあります。
写真・動画
ホテルに出入りする場面を撮影した写真や動画、興信所(探偵事務所)が撮影した調査報告書付きの写真などは、不貞行為の存在を直接的に示す証拠として、証明力が高く評価される傾向にあります。探偵による調査は費用がかかりますが、日時・場所・行動が具体的に記録されているため、裁判所が不貞行為を認定する重要な判断材料になることが多いです。
違法に収集された証拠への具体的な対応策
証拠の排除は難しくても、別の主張が可能
繰り返しになりますが、民事訴訟において違法収集証拠が排除されることはほとんどありません。しかし、これは証拠収集行為自体が適法であることを意味するわけではありません。
たとえば、スパイアプリを無断でインストールしてGPS情報を取得したり、スマートフォンの中身を勝手に盗み見たりする行為は、プライバシー権の侵害として不法行為(民法709条)に該当する可能性があります。つまり、証拠としては使われてしまうけれども、その収集行為そのものについて損害賠償を請求できる余地があるということです。
反訴や相殺の主張による減額の可能性
違法な証拠収集行為が不法行為に該当する場合、その行為による損害賠償請求権を、不貞慰謝料の請求と相殺する(あるいは反訴として請求する)ことで、実質的に支払額を減額できる場合があります。
具体的には、不貞慰謝料として150万円の支払義務があるとしても、違法な証拠収集行為によるプライバシー侵害の損害賠償として50万円が認められれば、差し引きで100万円の支払いで済む可能性があります。
ただし、プライバシー侵害の損害賠償額は、不貞慰謝料の金額と比べると低額になることが一般的です。違法収集証拠の問題だけで不貞慰謝料の全額を免れることは通常は難しいため、あくまで減額の材料のひとつとして位置づけるのが現実的です。
請求を受けた場合に心がけるべきこと
不貞慰謝料の請求を受けた場合、まず大切なのは落ち着いて状況を整理することです。相手方が提示してきた証拠の内容と、その証拠がどのような方法で収集されたものかを確認しましょう。
違法に収集された証拠がある場合には、上記のとおり、反訴や相殺の主張によって支払額を減額できる可能性があります。ただし、これらの法的な主張を適切に行うためには、プライバシー侵害の成否の判断や、損害額の見積もりなど、専門的な知識が必要になります。
また、不貞慰謝料の金額自体が妥当かどうか、つまり相手方が請求している金額が相場と比べて高すぎないかどうかの検討も重要です。最初に請求される金額は高めに設定されていることが多く、交渉や裁判を通じて減額されるケースは珍しくありません。
証拠の内容や収集方法に不審な点がある場合、あるいは請求額が高額で対応に不安がある場合には、早い段階で弁護士に相談することで、適切な対応方針を立てやすくなります。
まとめ
民事訴訟では、通話履歴や位置情報、メッセージのやり取りなどが不貞行為の証拠として広く用いられます。これらの証拠が違法な方法で収集されたものであっても、民事訴訟では証拠能力が否定されることはほとんどありません。ただし、違法な証拠収集行為自体は不法行為に該当する可能性があり、反訴や相殺の主張を通じて慰謝料の減額につなげることができる場合があります。
不貞慰謝料の請求を受けた場合、証拠の内容や収集方法を冷静に確認し、適切な反論や交渉を行うことが重要です。証拠の法的評価や減額交渉の進め方について判断が難しいと感じた場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。
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この記事の執筆者
寺岡法律事務所
弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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