不貞慰謝料の支払いを口頭で約束してしまった場合、撤回できますか?

不貞行為の慰謝料を請求され、突然の訪問や電話で動揺してしまい、その場で支払いの約束をしてしまった――対面での交渉にはこのような危険があります。「口約束だから効力はないのでは?」「書面にしていないから撤回できるのでは?」と考える方もいらっしゃいますが、法律上は必ずしもそうとは限りません。

このページでは、口頭で慰謝料の支払いを約束してしまった場合に、その約束にどのような法的効力があるのか、撤回や減額の余地はあるのか、そして実際にどのように対応すべきかを解説します。

※不貞慰謝料請求を受けた方のサポートページはこちら。

全国どこでも、ご自宅から、オンラインで相談・依頼をお受けしています。
※オンライン相談はお使いのPCまたはスマートフォンで可能です。

口頭での支払い約束の法的効力

不貞慰謝料とは

不貞行為とは、配偶者のある人が配偶者以外の異性と性的関係を持つことをいいます。夫婦はお互いに貞操義務を負っているため、不貞行為は離婚原因となるだけでなく(民法770条1項1号)、不法行為に基づく損害賠償請求の対象にもなります(民法709条・710条)。
不貞行為をした本人だけでなく、その相手方(いわゆる浮気相手)も、婚姻共同生活の平和を侵害したとして、損害賠償義務を負うことがあります。この損害賠償義務に基づいて支払われる金銭を、一般に「不貞慰謝料」と呼んでいます。
なお、不貞慰謝料の請求では、最初に300万円から500万円程度の金額が主張されるケースが多いですが、最終的に認められる金額は、不貞行為の期間や態様、婚姻期間の長さ、子どもの有無、離婚に至ったかどうかなど、さまざまな事情によって変わります。

示談(和解契約)とは

慰謝料の請求を受けた際、当事者間で話し合い、支払金額や支払方法について約束をすることがあります。このような合意は、法律上「和解契約」と呼ばれ、一般的には「示談」という言葉で知られています。
和解契約は、当事者がお互いに譲歩をして紛争を終了させる合意のことです(民法695条)。和解契約が成立すると、その内容に拘束されることになり、当事者は合意どおりに義務を履行しなければなりません。

口約束でも契約は成立する

契約は当事者の意思の合致によって成立するのが原則です。書面の作成は契約の成立要件ではなく、口頭のやり取りだけでも有効な契約が成立します。これを「諾成契約」といいます。

したがって、口頭であっても「慰謝料として●●万円を支払います」という内容で合意が成立した場合には、法的に有効な和解契約が成立していることになります。

「書面にしていないから無効」「口約束だから撤回できる」と考える方は多いですが、これは誤りです。口頭の合意であっても、一方的に撤回することはできません。

「書面がなければ無効」ではない

不貞慰謝料の場面に限らず、「契約書がないから契約は成立していない」という誤解は非常に多いです。たしかに、保証契約(民法446条2項)や定期借地権の設定(借地借家法22条)など、法律で書面の作成が求められている契約もあります。しかし、和解契約にはそのような要件はありません。
もっとも、書面がないことは、後述する「そもそも合意が成立していたかどうか」を争う際の重要なポイントになります。口頭でのやり取りでは、合意内容が明確でなかったり、最終的な合意に至っていなかったりすることがあるためです。

▶ 関連Q&A:慰謝料を支払わなかった場合のリスクはこちら

合意の効力を争う方法

口頭の合意であっても原則として有効ですが、一定の場合には、その合意の効力を争うことができます。主に以下の方法が考えられます。

錯誤による取り消し(民法95条)

合意の重要な部分について勘違い(錯誤)があった場合には、その合意を取り消すことができます。

詐欺による取り消し(民法96条1項)

相手方に騙されて合意をしてしまった場合には、詐欺を理由に取り消すことができます。

強迫による取り消し(民法96条1項)

脅されて合意をしてしまった場合には、強迫を理由に取り消すことができます。たとえば、「職場に不貞の事実をばらす」「SNSで公表する」などと脅されて支払いを約束してしまった場合は、強迫による取り消しの対象になります。
身体への危害をほのめかされた場合だけでなく、名誉や財産への害悪を示された場合も強迫に当たり得ます。このような場合には、合意を取り消すことが可能です。

そもそも合意が成立していないと主張する方法

口頭でのやり取りの場合、そもそも最終的な合意が成立していたかどうかを争う余地があります。たとえば、以下のような場合には、確定的な合意があったとは認められない可能性があります。

一つ目は、「検討します」「考えさせてください」と述べたにとどまり、明確に支払いを約束していない場合です。二つ目は、具体的な金額が確定しておらず、「だいたい●●万円くらい」というあいまいなやり取りだった場合です。三つ目は、一定額の支払いを提案しただけであり、相手方がそれを承諾していない場合です。

口頭の合意は書面の合意に比べて証拠が残りにくいため、合意の成立自体を争える余地が相対的に大きいといえます。ただし、電話が録音されていたり、メールやLINEで合意の内容が確認されていたりする場合には、合意の成立が認定されやすくなります。

口頭で約束してしまった場合にとるべき対応

口頭で支払いの約束をしてしまった場合でも、すぐに諦める必要はありません。以下の点を意識して対応することが重要です。

まず、約束をした経緯を詳しく振り返り、記録してください。いつ、どこで、どのような状況で約束をしたのか、相手方からどのような説明を受けたのか、脅迫的な言動はなかったかなどを、できるだけ正確に書き出しておきましょう。記憶が新しいうちに記録することが大切です。
次に、相手方から支払いの請求を受けても、すぐに支払いに応じないでください。口頭での合意があったとしても、相手方が強制的に回収するためには訴訟手続が必要です。訴訟で判決が出るまでの間は、減額の交渉や合意の効力を争う余地があります。
そして、上記で解説した錯誤・詐欺・強迫に当たる事情がないか検討してください。これらの事情があれば、合意を取り消せる可能性があります。また、合意の内容があいまいであれば、そもそも確定的な合意が成立していないと主張できる可能性もあります。

なお、合意の効力を争ったり減額交渉を行ったりする際には、法的な知識や交渉の経験が必要になる場面が多くあります。対応に迷う場合には、弁護士に相談して方針を確認することをお勧めします。

まとめ

口頭で慰謝料の支払いを約束してしまった場合でも、その約束を争う余地は残されています。錯誤・詐欺・強迫による取り消しや、そもそも合意が成立していないという主張が可能な場合があります。もっとも、一度約束をしてしまうと、その内容を基準に交渉や裁判が進んでいくため、安易な約束は避けるべきです。
また、相手方が強制的に慰謝料を回収するためには訴訟手続が必要であり、訴訟提起前であれば減額交渉を行う余地もあります。

ご自身のケースについて具体的な判断が難しいと感じた場合や、対応方法について不安がある場合には、弁護士にご相談ください。

※不貞慰謝料請求のページはこちら。

この記事の執筆者
 寺岡法律事務所
 弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
 ※弁護士紹介ページはこちら

全国どこでも、ご自宅から、オンラインで相談・依頼をお受けしています。
※オンライン相談はお使いのPCまたはスマートフォンで可能です。