支払済みなのに強制執行された場合の対処法|請求異議の訴え・執行停止・弁済の証明

判決や和解で決まった金額を支払い済みであるにもかかわらず、預金や給与が差し押さえられてしまうことがあります。このような事態に直面した場合、速やかに「請求異議の訴え」や「執行停止」の手続をとることで、差押えを止める必要があります。

本ページでは、支払済みなのに強制執行をされた場合の対処法について、制度の仕組みから具体的な対応方法まで解説します。手続には専門的な知識が必要となるため、早めに弁護士への相談をご検討ください。

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強制執行の基本的な仕組み

強制執行とは

強制執行とは、裁判所の判決や和解調書などに基づき、債権者の申立てによって、裁判所が債務者の財産を差し押さえ、金銭の回収を実現する手続です(民事執行法22条以下)。

差押えの対象となるのは、預金や給与などの債権、土地や建物などの不動産が代表的です。

強制執行に必要な「債務名義」とは

強制執行を行うためには「債務名義」と呼ばれる書類が必要です(民事執行法22条)。債務名義とは、債権の存在と内容を公的に証明する文書のことで、主に次のようなものがあります。

  • 確定判決
  • 和解調書
  • 調停調書
  • 強制執行認諾文言付きの公正証書

債務名義さえあれば、債務者の同意なく強制執行の申立てが可能です。また、債務名義の成立後に実際に支払いがされたかどうかについて、債権者が証明する必要はありません。

裁判所は支払いの有無を確認しない

ここで注意が必要なのは、強制執行の手続において、裁判所は支払いが済んでいるかどうかを自ら調査しないという点です。裁判所は、債務名義が存在し、債権者から適法な申立てがあれば、それに基づいて手続を進行させます。

そのため、差押えの前に裁判所から債務者に連絡が来ることもありません。支払いを完了して安心していたところに、突然、預金口座が差し押さえられるという事態が起こり得ます。

支払済みなのに差し押さえがされる原因

支払いを済ませたにもかかわらず強制執行が行われてしまう背景には、いくつかの原因が考えられます。

弁済の認識に食い違いがある場合

最も考えられるのは、支払った金銭がどの債務に対するものかについて、債務者と債権者の間で認識が異なっていたケースです。たとえば、債務者は不貞慰謝料の支払いのつもりで100万円を振り込んだものの、債権者は別の貸金の返済として受領していた、という場合です。このような場合、債権者の側からすれば不貞慰謝料は未払いのままであるため、強制執行の申立てに至ることがあります。

支払いの見落とし・忘却

債権者が、入金を見落としていたり、支払いを受けたことを忘れてしまっている場合もあります。日々の入出金件数が多い方の場合には、取引履歴の中に埋もれてしまうことがあり得ます。

振込名義の不備

債務者本人が個人として支払義務を負っているにもかかわらず、会社や事業名義の口座から振り込んでしまうと、債権者から見て誰からの入金か分からない場合があります。このような振込名義の不一致も、支払い済みにもかかわらず差し押さえがされる原因の一つです。

嫌がらせ目的の強制執行

まれなケースですが、債権者が支払いを受領したことを認識しているにもかかわらず、嫌がらせの目的で強制執行を申し立てることがあります。このような行為は不法行為(民法709条)に該当し、損害賠償の対象となり得ます。

請求異議の訴え――強制執行を止めるための手続

請求異議の訴えとは

請求異議の訴えとは、債務名義(判決や和解調書など)の成立後に、債権が消滅したなどの事情がある場合に、その債務名義に基づく強制執行を排除するための訴訟です(民事執行法35条)。

たとえば、判決で100万円の支払いを命じられたあとに全額を弁済した場合、もはや債権は消滅しています。それにもかかわらず強制執行をされた場合や、されそうな場合には、請求異議の訴えを提起して、その強制執行を止めることができます。

主張できるのは「判決後」の事情だけ

請求異議の訴えで主張できるのは、債務名義の成立後(厳密には事実審の口頭弁論終結後)に生じた事実に限られます。
「そもそも最初から債権は存在しなかった」といった判決前の事情は、請求異議の訴えでは争えません。それらは、前の裁判ですでに争われて結論が出ているからです。

典型的に主張される事実は、判決後に支払い(弁済)をしたということです。そのほか、免除や相殺など、債権が消滅する原因となった事実を主張することもできます。

訴えを起こせば差押えは自動で止まるわけではない

請求異議の訴えを起こしただけでは、進行中の強制執行は止まりません。訴訟の判決が出るまでの間も、差押えの手続は進み続けます。ここは誤解しやすいポイントです。

差押えの進行を一時的に止めるためには、請求異議の訴えとは別に「執行停止」の申立てを行う必要があります(民事執行法36条)。執行停止が認められると、裁判所が強制執行の手続を一時的に停止する決定を出し、判決が出るまでの間、財産が換価・配当されることを防ぐことができます。

なお、執行停止の申立てにあたっては、担保(保証金)の提供が必要となることが一般的です。

強制執行が完了してしまった場合の対応

差押えから換価・配当まで強制執行の手続がすでに完了してしまった場合には、請求異議の訴えでは失われた財産を取り戻すことはできません。

このような場合には、不当利得返還請求訴訟(民法703条)や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟(民法709条)を提起して、回収された金銭の返還を求めることになります。

なお、請求異議の訴え係属中に強制執行が完了した場合には、訴えの変更によって不当利得返還請求や損害賠償請求に移行することも可能です。

弁済の証明と証拠の確保

弁済の主張には証拠が不可欠

請求異議の訴えにおいて「支払い済みである」と主張するためには、それを裏付ける証拠を裁判所に提出しなければなりません。弁済の事実は、主張する側(債務者側)に立証責任があります。

銀行振込で支払った場合には、振込明細書や通帳の記載が有力な証拠になります。現金で支払った場合には、領収書が必要です。振込であれば銀行に記録が残るため事後的にも証拠の入手が比較的容易ですが、現金払いの場合に領収書がないと、弁済の証明が困難になることがあります。

支払い時に気をつけるべきこと

将来の紛争を防ぐためにも、慰謝料などの支払いを行う際には次の点に注意することが重要です。

  • できる限り銀行振込で支払い、記録を残すようにする
  • 振込の際は、債務者本人の名義で行う(会社名義の口座からの振込は避ける)
  • 振込明細書や通帳の写しを保管しておく
  • 現金で支払う場合には、必ず領収書を受け取る
  • 支払いの趣旨(何の支払いか)を明確にしておく

これらの対策は、万が一の際に弁済を証明するための重要な備えとなります。

支払済みなのに差し押さえを受けた場合の対応手順

支払済みにもかかわらず強制執行を受けた場合、まずは落ち着いて弁済の証拠(振込明細書、領収書など)を確認・収集してください。証拠が手元にあることを確認しつつ、できるだけ早く弁護士に相談することをお勧めします。

手続としては、請求異議の訴えを提起し、あわせて執行停止の申立てを行う流れになります。これらの手続には裁判所への書面提出や担保金の準備などが必要であり、時間的にも余裕がないことが多いため、自力での対応は容易ではありません。

また、強制執行が完了する前に執行停止を得ることが重要です。強制執行が完了してしまうと、財産を取り戻すために別途訴訟(不当利得返還請求など)を起こす必要が生じ、手続の負担がさらに大きくなります。

まとめ

支払い済みの慰謝料について強制執行を受けた場合には、請求異議の訴えを提起し、あわせて執行停止を申し立てることで差押えを止めることができます。ただし、弁済の事実を証明するためには証拠が不可欠であり、振込明細書や領収書の保管が重要です。また、請求異議の訴えを提起しただけでは差押えは止まらず、別途、執行停止の申立てが必要です。

これらの手続は通常の訴訟と比較しても複雑であり、時間的な余裕も限られます。支払い済みなのに差し押さえを受けた場合や、差し押さえをされそうな場合には、お早めに弁護士にご相談ください。

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この記事の執筆者
 寺岡法律事務所
 弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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