不貞慰謝料請求でスマホやSNSの開示を求められたら? ― 開示義務の有無と正しい対処法

貞慰謝料を請求された際に、相手方から「やましいことがなければスマートフォンやLINEの履歴を見せられるはずだ」と言われることがあります。突然そのように言われると、応じなければ不利になるのではないかと不安になるかもしれません。

このページでは、通信履歴を開示する法的義務があるのかどうか、また実際にどのように対応すべきかについて、法律上の根拠をもとに解説します。

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法律面から見た通信履歴の開示義務

不貞慰謝料請求とは

不貞慰謝料請求とは、配偶者の一方が婚姻関係にある相手以外の者と性的関係を持った場合に、その行為によって精神的苦痛を受けた配偶者が、不貞行為を行った当事者やその相手方に対して損害賠償を求めるものです。民法709条および710条が法的根拠となります。

不貞行為は密室で行われることがほとんどであり、直接的な証拠が存在しないことが多いです。そのため、請求者は電話の通話記録、メールやSNSでの親密なやり取り、ホテルの利用履歴など、間接的な証拠を組み合わせて不貞行為の存在を主張するのが一般的です。

主張立証責任は請求者側にある

民事訴訟において、ある事実の存在を主張する側がその事実を証明する責任を負います。これを「主張立証責任」といいます。不貞慰謝料請求においては、不貞行為があったと主張する請求者側がその事実を立証しなければなりません。

つまり、請求される側が「不貞行為はなかった」と証明する必要はありません。不貞行為の存在を示す証拠を集めて裁判所に提出するのは、あくまで請求者側の役割です。したがって、通信履歴を見せて潔白を証明しなければならないという法的な義務は存在しません。

交渉段階では通信履歴の開示義務はない

不貞慰謝料の請求は、多くの場合、まずは訴訟外の交渉(話し合い)から始まります。この交渉段階においては、相手方に対して資料や証拠を開示する法的義務はありません。

相手方やその代理人から「LINEのトーク履歴を見せてほしい」「スマートフォンの通話履歴を確認させてほしい」と求められたとしても、それに応じるかどうかはあくまで任意です。応じなかったからといって、法的に不利益を受けることはありません。

交渉段階では、自分に有利な証拠を積極的に提出するかどうかを含め、どのような情報を開示するかは戦略的に判断する問題です。

裁判でも開示を強制されるとは限らない

訴訟に発展した場合には、民事訴訟法220条に基づく「文書提出義務」という制度があります。これは、一定の要件を満たす場合に、当事者が相手方の求めに応じて文書を提出する義務を定めたものです。文書提出義務が認められるのは、主に次の4つの場合です。

1号:当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき

たとえば、自分からLINEの履歴を引用して不貞行為がなかったことを主張した場合などです。しかし、通常は主張する際にその文書も証拠として提出するため、この条文が問題となることはほとんどありません。

2号:挙証者が文書の引渡しや閲覧を求める権利があるとき

契約上、書類を預けている場合などが想定されています。個人のスマートフォンに保存された通信履歴については、この要件に該当することは通常考えにくいです。

3号:挙証者の利益のために作成された文書等

当事者間で作成された契約書などが該当します。LINEやメールのやり取りは通常この類型には当てはまりません。

4号:一定の除外事由に該当しない場合

上記の1号から3号に該当しない場合でも、一定の除外事由に該当しなければ文書提出義務が認められることがあります。しかし、LINEやメールなどの通信は、やり取りをしている当事者の間だけで交わされ、第三者に見られることを想定していない文書です。このような私的な通信の履歴は、民事訴訟法220条4号の除外事由(「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」)に該当する可能性が高いです。

このように、裁判になったとしても、LINEやSNSの履歴について文書提出義務が認められる可能性は小さいといえます。通信履歴は高度なプライバシー性を有するものであり、裁判所もその点を考慮して判断するのが一般的です。

通信履歴の開示を求められたときの対応方針

安易に応じず、まずは冷静に状況を確認する

通信履歴の開示を求められた場合、まずは焦らず冷静に対応することが重要です。上述のとおり、交渉段階で通信履歴を開示する法的義務はありません。相手方から強い口調で求められたとしても、すぐに応じる必要はありません。
通信履歴には不貞行為の有無にかかわらず、プライベートな会話や第三者の情報が含まれていることが通常です。一度開示した情報は消すことができないため、開示するかどうかは慎重に判断すべきです。

自分だけで判断することが難しい場合や、相手方の要求がエスカレートしている場合には、早い段階で弁護士に相談することで、状況に応じた適切な対応をとることができます。

まとめ

不貞慰謝料を請求された際に通信履歴の開示を求められることがありますが、交渉段階ではこれに応じる法的義務はありません。不貞行為の主張立証責任は請求者側にあり、請求される側が自ら潔白を証明する必要はないためです。裁判になった場合でも、LINEなどの通信履歴は高いプライバシー性を有するため、文書提出義務が認められる可能性は小さいといえます。

相手方からの要求に対しては、冷静に対応し、安易に通信履歴を開示しないことが重要です。法的な判断が必要な場面や、相手方とのやり取りに不安を感じる場合には、弁護士に相談することで適切な対応をとることができます。

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この記事の執筆者
 寺岡法律事務所
 弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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