運送事業を行っていると、荷主や元請事業者から運賃が支払われないというトラブルに遭遇することがあります。未払運賃が60万円以下であれば、少額訴訟という制度を利用して比較的迅速に解決を目指すことができます。
このページでは、少額訴訟制度の仕組みや要件、運送業者が利用する際の注意点について解説します。
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目次
少額訴訟の制度と運送業者が利用する際のポイント
少額訴訟とは
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる、簡易裁判所における特別な訴訟手続きです(民事訴訟法第368条第1項)。
この制度の大きな特徴は、原則として1回の審理で結論が出されるという点にあります(同法第370条第1項)。通常の民事訴訟では複数回の期日が設定されることが一般的ですが、少額訴訟では1回の口頭弁論期日で審理を終え、原則としてその日のうちに判決が言い渡されます(同法第374条第1項)。
少額訴訟を提起できるのは、金銭の支払請求に限られます。物の引渡しや登記の請求などには利用できません。また、請求する金額が60万円を超える場合にも利用することができません。なお、60万円の計算にあたっては、利息や遅延損害金は算入されません(民事訴訟法第9条第2項)。
個人事業の運送業者に少額訴訟は便利
運賃債権は金銭の支払請求ですので、60万円以下であれば少額訴訟を利用することができます。
ただし、少額訴訟には利用回数の制限があります。同一の簡易裁判所に対して、同一の年(1月1日から12月31日まで)に10回を超えて少額訴訟を利用することはできません(民事訴訟法第368条第1項ただし書、民事訴訟規則第223条)。この回数制限は、特定の事業者が少額訴訟を独占的に利用することを防ぎ、一般市民にも広く利用機会を確保するために設けられたものです。
なお、利用回数のカウントは簡易裁判所ごとに計算されます。また、少額訴訟を求めたものの通常訴訟に移行された場合や、訴えを取り下げた場合でも1回としてカウントされます。訴え提起の際には、その年に何回少額訴訟を利用したかを届け出る必要があり(民事訴訟法第368条第3項)、虚偽の届出をした場合は10万円以下の過料の処分があります(同法第381条)。
少額訴訟のメリットとデメリット
メリット
少額訴訟の主なメリットは、迅速な解決が期待できる点です。原則1回の審理で判決が出されるため、通常訴訟と比べて短期間で紛争を解決できる可能性があります。
また、請求が認容される場合には、必ず仮執行宣言が付されます(民事訴訟法第376条第1項)。仮執行宣言が付された判決は、判決の確定を待たずに強制執行を申し立てることが可能です。さらに、少額訴訟判決については、執行文の付与を受けなくても強制執行ができます(民事執行法第25条ただし書)。
デメリット
一方で、少額訴訟にはいくつかの注意点があります。
第一に、被告は通常訴訟への移行を求めることができます(民事訴訟法第373条第1項)。被告がこの申述をした場合、原告の意向にかかわらず通常訴訟に移行します。また、裁判所も事案が複雑であるなどの理由がある場合には、職権で通常訴訟に移行させることができます(同条第3項)。
第二に、少額訴訟の判決に対しては控訴ができません(民事訴訟法第377条)。判決に不服がある場合は、同じ簡易裁判所に対する異議申立てのみが認められています(同法第378条)。
第三に、1回の審理ですべての主張と証拠を提出しなければなりません。十分な証拠が準備できていない場合や、相手方から予想外の反論がなされた場合に、追加の主張・立証の機会がないまま判決が出されます。
第四に、裁判所が原告の請求を認める場合であっても、被告の資力等を考慮して、分割払いや支払猶予、遅延損害金の免除を命じる判決が出されることがあります(民事訴訟法第375条第1項)。この定めに対しては、原告から不服を申し立てることはできません(同3項)。
「少額訴訟だから簡単にできる」とは限らない
少額訴訟は手続きが簡易であるため「誰でも簡単にできる」という印象を持たれることがあります。しかし、少額訴訟もあくまで訴訟であり、必要な事実の主張立証責任は原告にあります。
たとえば、運賃の未払いを請求する場合、運送契約の存在、運送の実施、運賃の金額、支払期限の到来といった事実を証拠書類で示す必要があります。契約書や注文書、配送伝票、請求書、催促のメールやメッセージのやりとりなど、証拠となり得る書類をあらかじめ整理しておくことが重要です。
また、審理は原則1回で終わるため、当日に提出されなかった証拠や法廷にいない証人は取り調べてもらえません。準備不足のまま訴えを起こすと、そのまま敗訴することになってしまいます。
運賃債権の消滅時効に注意
未払運賃の回収を目指す際に忘れてはならないのが、消滅時効の問題です。
未払運賃の消滅時効は支払期日から1年間です(商法第586条)。訴訟(少額訴訟を含む)提起をする場合にはこの期間内に行う必要があります。
未払運賃を回収するために検討すべきこと
未払運賃の回収を検討する場合、まずは請求金額が60万円以下であるかを確認してください。60万円以下であれば少額訴訟の利用が選択肢になります。60万円を超える場合は、通常訴訟などの他の手続きを検討する必要があります。
次に、証拠の準備が重要です。運送契約書、発注書・受注書、配送伝票、納品書、請求書、入金記録、催促のメールやメッセージの履歴など、運賃の発生と未払いを裏付ける書類を集めてください。これらの資料は普段の業務においても整理して保存しておくことが重要です。
また、少額訴訟を提起する前に、内容証明郵便で支払いを催促することも考えられます。内容証明郵便は、催促した事実を公的に証明する手段であり、任意の支払いを促す効果があります。加えて、時効の完成猶予の効果があり、内容証明を送った後6か月以内に訴訟提起をすれば、時効の成立を防ぐことができます。
まとめ
未払運賃が60万円以下であれば少額訴訟を利用して回収を図ることができます。運賃債権については1年という短い消滅時効が定められているため、早めの対応が重要です。 少額訴訟は手続きの費用が比較的低額であり、自分で提起することも不可能ではありませんが、1回の審理ですべてが決まるため、事前の証拠準備や主張の整理が非常に重要になります。
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この記事の執筆者
寺岡法律事務所
弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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