燃料費の高騰は、運送事業者にとって大きな負担となります。この負担を荷主に転嫁して運送事業の持続可能性を高める制度が燃料サーチャージです。本記事では、燃料サーチャージの法的な位置付けや、契約交渉の進め方、荷主が拒否した場合の対処法について解説します。対応にお困りの場合は、弁護士にご相談ください。
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目次
燃料サーチャージの法的な仕組みと請求の根拠
燃料サーチャージとは
燃料サーチャージとは、燃料価格の上昇・下落によるコストの増減分を、通常の運賃とは別建ての運賃として設定する制度です。
運送事業者は荷主との関係上、交渉力が弱いことが多く、燃料費の高騰分を運賃に反映させることが困難な状況にありました。そこで、燃料価格の変動分を透明性のある形で運賃に反映できるよう、燃料サーチャージ制度の導入が推進されてきました。
燃料サーチャージは、あらかじめ基準となる燃料価格を設定し、実際の燃料価格がその基準を上回った場合に、上昇幅に応じた金額を基本運賃に加算して荷主に請求するという仕組みです。逆に、燃料価格が基準価格を下回った場合には、燃料サーチャージは適用されません。
標準運送約款を使用している場合や契約書に記載がある場合
多くの一般貨物自動車運送事業者は、国土交通大臣が定めた「標準貨物自動車運送約款」と同一の内容を自社の運送約款として採用しています。
この標準貨物自動車運送約款の第32条には、燃料サーチャージに関する規定が設けられています。
標準運送約款を採用している運送事業者であれば、約款上(契約上)の根拠に基づいて燃料サーチャージを荷主から収受できることになります。
また、契約書に燃料サーチャージの記載がある場合にも、契約上の根拠に基づいて燃料サーチャージを収受できます。
契約書に燃料サーチャージの記載がない場合
標準運送約款を採用しておらず、荷主との個別契約書にも燃料サーチャージの規定がない場合には、現行の契約上、燃料サーチャージを当然に請求できる根拠がないことになります。この場合は、荷主との間で契約内容を変更するための協議が必要です。
事情変更の法理について
民法上、契約締結後に当事者が予見できなかった著しい事情の変更があった場合には、契約の改訂や解除が認められる場合があります。燃料費の急激な高騰は、場合によってはこの事情変更に該当しうると考えられますが、裁判で認められるためにはハードルが高く、実務上は協議による解決を目指すことが必要です。
燃料サーチャージを導入する契約交渉
国土交通省の緊急ガイドラインの位置付け
国土交通省は、「トラック運送業における燃料サーチャージ緊急ガイドライン」を策定し、運送事業者に対して燃料サーチャージの導入を強く推進しています。このガイドラインは法律そのものではありませんが、貨物自動車運送事業法に基づく行政措置の運用基準として重要な意味を持ちます。
ガイドラインによれば、合理的な理由なく燃料サーチャージ制を導入しない事業者は、貨物自動車運送事業法第26条に基づく改善命令の対象となる可能性があります。
独占禁止法との関係
荷主が燃料サーチャージの導入交渉に応じない場合や、燃料費が高騰しているにもかかわらず一方的に運賃を据え置くような場合には、独占禁止法上の問題が生じる可能性があります。
独占禁止法は「優越的地位の濫用」を禁止しており(独占禁止法第2条第9項第5号、第19条)、その典型的な行為類型の一つが「買いたたき」です。買いたたきとは、発注者が受注者に対し、通常の対価と比べて著しく低い対価を定める行為をいいます。燃料費が大幅に上昇しているにもかかわらず、荷主が合理的な理由なく運賃の引上げ協議に応じず、運賃を据え置くことは、この買いたたきに該当するおそれがあります。
なお、公正取引委員会は、荷主と物流事業者の取引における優越的地位の濫用を規制するため、「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(いわゆる物流特殊指定)を告示しており、荷主による買いたたきや代金の減額、協議拒否などを監視しています。
取適法(旧下請法)との関係
荷主と運送事業者の関係が、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(旧下請法)の適用対象となる場合には、「買いたたき」の禁止規定(4条1項5号)に該当する可能性があります。
つまり、燃料サーチャージについての協議を完全に拒絶する場合には、独占禁止法や取適法に違反する可能性が出てきます。
燃料サーチャージの導入に向けてとるべき対応
まずは荷主との協議の場を設けることが重要
燃料サーチャージの導入にあたっては、まず自社の運送約款がどのような内容になっているかを確認してください。標準貨物自動車運送約款を採用している場合には、約款上の根拠を荷主に説明した上で、具体的なサーチャージ額の算定方法について協議を求めることになります。
協議にあたっては、国土交通省の緊急ガイドラインに示されている算出方法や、全日本トラック協会が作成しているハンドブックを参考にすると、荷主に対して合理的な説明がしやすくなります。燃料サーチャージの計算式は「走行距離÷燃費×算出上の燃料価格上昇額」が基本となりますので、自社の車両燃費や走行距離の実績データを準備しておくことが大切です。
荷主が協議に応じない場合や、合理的な理由なく据え置きを求められる場合には、公正取引委員会への相談や、国土交通省の適正取引相談窓口に情報提供することも検討してください。また、具体的な交渉方法や法的対応については、弁護士に相談されることをお勧めします。
まとめ
燃料サーチャージは、燃料価格の変動分を別建ての運賃として設定する制度であり、標準貨物自動車運送約款を採用している運送事業者であれば、約款上の根拠に基づいて荷主に対して請求することができます。また、荷主が合理的な理由なく協議に応じない場合には、独占禁止法上の優越的地位の濫用や取適法の禁止事項(買いたたき)に該当する可能性があり、公正取引委員会の調査対象となる可能性もあります。
燃料サーチャージの導入にあたっては、契約書や約款の確認、サーチャージ額の合理的な算定、荷主への丁寧な説明が重要です。
交渉がうまく進まない場合や、荷主の対応に法的な問題がある場合には、早めに弁護士にご相談いただくことで、適切な交渉方法や法的手段についての助言を得ることができます。お困りの際には、弁護士への相談をご検討ください。
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この記事の執筆者
寺岡法律事務所
弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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