運賃債権には消滅時効があり、一定期間が過ぎると法的に請求する権利を失ってしまいます。
このページでは、運賃債権の時効期間、時効の起算点、そして時効の完成を阻止する方法について、法律の条文に基づいて分かりやすく解説します。時効が迫っている場合や対応に不安がある場合は、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。
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目次
運賃債権の消滅時効に関する法律の基礎知識
運賃債権とは
運賃債権とは、運送人(トラック運送会社、海運会社、航空運送会社など)が荷送人や荷受人に対して有する運送賃(運賃)の支払いを求める権利のことです。商法第573条第1項は、運送賃は到達地における運送品の引渡しと同時に支払わなければならないと定めています。
もっとも、実際の取引では、運送品の引渡しと同時に運賃を支払うのではなく、「月末締め翌月末払い」のように支払期日を別途取り決めていることが一般的です。このような約定がある場合は、約定に従った支払期日が運賃の支払時期となります。
運賃債権の消滅時効は1年
商法第586条は、「運送人の荷送人又は荷受人に対する債権は、これを行使することができる時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と定めています。つまり、運送人が荷主に対して有する運賃債権の消滅時効期間は1年間であり、民法の一般的な時効期間よりも短いため注意が必要です。
時効の起算点
商法第586条の消滅時効は、「これを行使することができる時から」1年間で完成します。つまり、時効の起算点は運賃債権を行使できるようになった時点です。
具体的には、次のように考えます。
支払期日について特に約定がない場合は、商法第573条第1項により、運送賃は運送品の引渡しと同時に支払うべきものとされていますので、運送品が引き渡された時点が起算点になります(厳密には引渡しの翌日になります。)。
一方、「月末締め翌月末払い」などのように運賃の支払期日が別途約定されている場合は、その支払期日に運賃債権を行使できるようになります。この場合の時効の起算点は、約定された支払期日となります。
運賃債権の時効を止めるための方法
消滅時効の完成を阻止する方法は、大きく分けて「時効の完成猶予」(時効の完成を一時的に先延ばしにすること)と「時効の更新」(時効期間をリセットしてゼロから再スタートさせること)の2つがあります。主な方法は以下のとおりです。
催告による完成猶予
催告とは、裁判外で債権者が債務者に対して支払いを請求する意思を通知することです。催告を行うと、催告の時から6か月間、時効の完成が猶予されます(民法第150条第1項)。
催告は後日の証拠とするために内容証明郵便で行うのが一般的です。なお、催告を繰り返しても、猶予の効果が重複して延長されることはありません(民法第150条第2項)。催告による猶予はあくまで暫定的なものであり、猶予期間中に裁判上の請求に移行する必要があります。
裁判上の請求による完成猶予と更新
訴訟の提起、支払督促の申立て、民事調停の申立てなどの裁判上の手続きを行うと、その手続きが終了するまでの間、時効の完成が猶予されます(民法第147条第1項)。そして、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定した場合は、時効が更新され、その時点から新たに時効期間が進行します(同条第2項)。
複雑な言い回しですが、訴訟提起をすると時効が止まるという理解で大丈夫です。
確定判決によって確定した権利の時効期間は、元の時効期間が1年であっても、10年に延長されます(民法第169条第1項)。
債務の承認による更新
荷主が運賃の支払義務を認める行為(債務の承認)があった場合、時効は更新されます(民法第152条第1項)。承認があった時点で、それまでの時効期間はリセットされ、新たに時効期間が進行します。
債務の承認は、必ずしも書面で明示的に行う必要はありません。例えば、荷主が運賃の一部を支払った場合や、支払期日の延長を求めてきた場合なども、債務の承認にあたると解される場合があります。ただし、承認があったことを後から証明できるように、書面やメールなどで記録を残しておくことが重要です。
この意味でも、請求は書面で行い、一部の支払についても振り込みで行わせるようにすることが有効です。
協議を行う旨の書面による合意
2020年4月施行の改正民法で新設された制度です。運賃債権について協議を行う旨の合意を書面又は電磁的記録(メールなど)で行った場合、合意の時から1年間、時効の完成が猶予されます(民法第151条第1項)。再度の合意によりさらに猶予することもできますが、本来の時効完成時から合計で5年を超えることはできません(同条第2項)。
この制度は、荷主との間で支払条件の交渉を行う場合などに、訴訟を提起せずに時効の完成を猶予できる手段として有用です。
運賃の未払いが発生した場合にとるべき対応
運賃の未払いが発生した場合、まず注意すべきことは、時効期間がわずか1年と短い点です。一般的な売掛金の時効は5年ですので、同じ感覚で放置してしまうと、あっという間に時効が完成してしまいます。
未払運賃がある場合は、まず荷主に対して速やかに支払いの催告を行ってください。その際、内容証明郵便を利用し、催告の事実と日時を証拠として残すことが大切です。催告により6か月間の猶予が得られますが、その間に荷主との交渉が成立しない場合は、訴訟や支払督促の申立てなど裁判上の手続きに移行する必要があります。
裁判の準備にも時間がかかりますので、完成猶予で安心せず裁判の準備期間と考えるようにしましょう。
また、荷主が支払義務を認めている場合は、その承認を書面やメールなどの記録に残しておくことも重要です。時効の完成を防ぐための手段は複数ありますが、いずれも適切なタイミングで行わなければ効果がありません。
時効の完成が迫っている場合や対応に迷う場合は、速やかに弁護士に相談されることをおすすめします。
まとめ
運送人が荷主に対して有する運賃債権の消滅時効は、商法第586条により1年間です。一般の債権より大幅に短いため、注意が必要です。時効の起算点は、支払期日の約定がなければ運送品の引渡日の翌日、約定があれば支払期日の翌日となります。時効の完成を阻止するには、催告(内容証明郵便による請求)、裁判上の請求、債務の承認、協議の合意など、状況に応じた適切な手段を講じる必要があります。
運賃の未払いが生じた場合、1年という時効期間は想像以上に短く、対応が遅れると回収の機会を逸する可能性があります。時効の管理や具体的な対応方法について不明な点がある場合は、弁護士に相談し、適切な法的手段を検討されることをおすすめします。
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この記事の執筆者
寺岡法律事務所
弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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