不貞慰謝料の支払いで公正証書を求められたときの注意点

不貞慰謝料(不倫の慰謝料)の支払いについて話し合いが進むと、相手方から「公正証書にしてほしい」と求められることがあります。公正証書という言葉は聞いたことがあっても、具体的にどのような効力があるのか、署名してしまっても問題ないのか、不安に感じる方は少なくありません。
公正証書には、合意内容を明確にして紛争の蒸し返しを防ぐという支払者側のメリットがある一方、裁判を経ずに強制執行(財産の差押え)が可能になるという重大な効力も生じます。内容を十分に理解しないまま作成してしまうと、後から予想外の不利益を受ける可能性もあります。

このページでは、不貞慰謝料の場面で公正証書を求められた方に向けて、公正証書の基本的な意味や効力、作成時に確認すべきポイント、そして具体的なケースを交えて、分かりやすく解説します。

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公正証書の基本と法的効力

公正証書とは

公正証書とは、公証役場において、公務員である公証人が、当事者の依頼(嘱託)に基づいて、法律に定められた方式に従って作成する公文書です。公証人法に基づく制度であり、個人が作成する契約書とは異なり、文書自体に非常に強い証拠力が認められます。
一般的な契約書の場合、相手方が「そのような合意はしていない」「署名した覚えがない」などと争ってくる可能性がありますが、公正証書は公証人が当事者の本人確認を行ったうえで作成するため、このような争いが生じにくいという特徴があります。
不貞慰謝料の場面では、慰謝料の金額や支払方法について合意した内容を公正証書にすることで、合意の存在と内容を確実に証明できる書面を作成することになります。

強制執行認諾文言の意味と効果

公正証書の中でも特に重要なのが、「強制執行認諾文言」の有無です。

強制執行認諾文言とは、金銭の支払義務を負う者(債務者)が、支払いを怠った場合には直ちに強制執行を受けても異議を述べない旨を公正証書に記載する文言のことです。具体的には、「債務者は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨陳述した」といった文言が用いられます。

通常、相手の財産を差し押さえる(強制執行する)ためには、訴訟を提起して判決を得るか、調停・和解などの手続を経る必要があります。しかし、強制執行認諾文言が付された公正証書がある場合には、裁判手続を経ることなく、直ちに強制執行の申立てが可能になります。

つまり、支払いが滞った場合、請求者側は改めて裁判を起こすことなく、給与や預貯金などの財産を差し押さえることができるということです。支払う側にとっては、このリスクを十分に理解したうえで公正証書の作成に応じる必要があります。

清算条項とは

清算条項とは、当事者間に、公正証書(あるいは示談書・合意書)に記載された権利義務以外には何らの債権債務も存在しないことを相互に確認する条項です。具体的には、「甲と乙は、本公正証書に定めるもののほか、本件に関し何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった内容になります。

不貞慰謝料の場面では、この清算条項が非常に重要です。清算条項がない場合、慰謝料を支払った後に、同じ不貞行為を理由として再度慰謝料を請求されたり、別の名目で金銭を要求されたりするリスクが残ります。一方、適切な清算条項を設けておけば、公正証書に記載された内容以外の請求は認められなくなり、紛争の蒸し返しを防ぐことができます。

支払う側にもメリットはある

公正証書は一般的に請求者(債権者)側に有利な書面と思われがちですが、支払う側にとっても以下のようなメリットがあります。

第一に、合意内容が公文書として明確に記録されるため、後から「合意した金額と違う」「そんな条件ではなかった」といった認識の相違が生じるリスクを大きく減らすことができます。

第二に、清算条項を設けることで、今回の不貞行為に関する紛争を確実に終結させることができます。請求者側から追加の請求を受けたり、不当な要求をされたりすることを防止できるのは、支払う側にとって大きなメリットです。

第三に、強制執行認諾文言を入れることと引き換えに、分割払いの合意を得やすくなるという実務上の傾向があります。請求者側としては、裁判をしなくても強制執行ができるという安心感があるため、支払方法について譲歩しやすくなるのです。

公正証書を作成する際に確認すべきポイント

公正証書は一度作成すると、その内容を後から変更することはできません。そのため、作成にあたっては以下の点を事前に十分確認することが重要です。

支払金額・支払期日・支払方法に納得しているか

まず最も基本的な点として、公正証書に記載される支払金額、支払期日、支払方法が、自分が合意した内容と一致しているかを確認します。相手方から送られてきた原案が、実際の合意内容と異なっているケースは珍しくありません。たとえば、口頭では150万円で合意したはずなのに、原案では200万円と記載されているようなこともあり得ます。

また、分割払いの場合には、毎月の支払額、支払日、支払回数、支払先の口座情報などが正確に記載されているか、細かく確認しましょう。

強制執行認諾文言の有無と内容を確認する

強制執行認諾文言が入っている場合、支払いが滞れば裁判を経ずに強制執行を受ける可能性があることは前述のとおりです。この文言を入れることに同意するかどうかは、慎重に判断する必要があります。

特に注意すべきなのは、分割払いの場合に、「期限の利益喪失条項」と組み合わされているケースです。期限の利益喪失条項とは、分割金の支払いを怠った場合に、残りの金額全額について直ちに支払義務が生じるという条項です。この条項と強制執行認諾文言がセットになっていると、支払遅延があると残額全額について強制執行を受ける可能性があります。

強制執行認諾文言に同意する場合でも、期限の利益喪失の条件(たとえば、連続して2回以上の支払遅延があった場合に限るなど)について交渉することは可能です。

清算条項が適切に設けられているか

前述のとおり、清算条項は紛争の蒸し返しを防ぐために不可欠です。公正証書の原案に清算条項が含まれているかを必ず確認しましょう。

さらに重要なのは、清算条項の範囲が適切かどうかです。たとえば、公正証書の対象が「令和●年●月●日の不貞行為」と特定の日時に限定されている場合、それ以外の不貞行為についてはなお請求の余地が残ることになります。このような限定がないかどうか注意が必要です。不貞行為全体を包括的に解決する内容にするのか、それとも特定の行為に限定するのかは、状況に応じた判断が求められますが、支払う側としては可能な限り広い清算条項を設けることが望ましいといえます。

公正証書の作成費用と手続

公正証書の作成には、公証人手数料令に基づく手数料がかかります。手数料は法律行為の目的の価額(この場合は慰謝料の金額)によって定められており、たとえば目的の価額が100万円を超え200万円以下であれば7,000円になります。

公正証書の作成にあたっては、当事者双方(またはその代理人)が公証役場に出向く必要があります。事前に公証役場へ原案を提出し、公証人が法律的に整理したうえで文書を作成します。作成当日は、公証人が内容を読み上げ、当事者が内容を確認して署名・捺印を行います。費用の負担については当事者間で合意しておくとよいでしょう。

公正証書作成前にとるべき対応

相手方から公正証書の作成を求められた場合には、次のような対応をとることが考えられます。

まず、支払金額自体に納得しているかを改めて検討します。不貞慰謝料の金額は事案によって異なりますが、請求額がそのまま妥当とは限りません。公正証書を作成する前に、金額について交渉の余地がないか検討することが重要です。

次に、相手方から提示された公正証書の原案がある場合には、その内容を一つ一つ確認します。支払金額・支払方法、強制執行認諾文言の有無、清算条項の範囲、期限の利益喪失条項の条件、不貞行為の特定の仕方など、確認すべきポイントは多岐にわたります。

また、強制執行認諾文言を入れることに同意する場合には、その見返りとして、慰謝料の減額や分割払いへの変更など、自分に有利な条件を求めることも交渉材料となり得ます。一方的に不利な条件を受け入れるのではなく、双方にとって納得できる内容にすることが大切です。

公正証書の条項は法的に重要な意味を持つため、内容に不安がある場合や交渉の進め方に迷う場合には、弁護士に相談することも選択肢の一つです。

まとめ

公正証書は、強い証拠力を持ち、強制執行認諾文言を付すことで裁判を経ずに強制執行が可能となる強力な書面です。支払う側にとっては一般的に不利な面がありますが、清算条項による紛争の蒸し返し防止や、強制執行認諾と引き換えに分割払いを認めてもらえる可能性があるなど、メリットも存在します。
重要なのは、公正証書の内容を十分に確認し、自分にとって一方的に不利な内容になっていないかを精査することです。支払金額、支払方法、強制執行認諾文言、清算条項の範囲、期限の利益喪失条項の条件など、確認すべきポイントは多岐にわたります。

公正証書の条項は法的に重大な効果を持つため、内容の確認や交渉に不安がある場合には弁護士に相談するようにしましょう。

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この記事の執筆者
 寺岡法律事務所
 弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
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