継続的な運送業務の請負では、書面の契約書を取り交わさないまま運送業務を行うことは珍しくありません。そのような状況下で荷主とトラブルになると、契約書がないことを理由に支払いを拒まれることがあります。このような場合に、運賃を回収する方法はあるのでしょうか。
この記事では、契約書がない場合の運賃債権の法的な取り扱いや、回収のために必要な対応について解説します。運賃の未回収でお困りの場合は、弁護士への相談もご検討ください。
全国どこでも、ご自宅から、オンラインで相談・依頼をお受けしています。
※オンライン相談はお使いのPCまたはスマートフォンで可能です。
目次
運賃債権と運送契約に関する法律上の基本知識
運送契約とは
運送契約とは、運送人が荷送人から物品を受け取り、これを運送して荷受人に引き渡すことを約束し、荷送人がその対価として運送賃(運賃)を支払うことを約束する契約です(商法第570条)。つまり、運送業者が荷物を運ぶ義務を負い、荷主がその対価を支払う義務を負うという、双方に義務が発生する契約になります。
運送契約は法律上「諾成契約」に分類されます。諾成契約とは、当事者間の合意(意思の合致)のみで成立する契約のことです。したがって、運送契約は口頭のやり取りだけでも有効に成立し、必ずしも書面の契約書を作成する必要はありません。
運賃債権とは
運賃債権とは、運送人(運送業者)が荷送人(荷主)に対して有する運賃の支払いを求める権利のことです。運送業者が荷主の依頼に基づいて荷物を運送した場合、その仕事の完成に対する報酬として運賃を請求する権利が発生します。
商法第573条第1項は、運送賃は運送品の引渡しと同時に支払わなければならない旨を定めています。したがって、原則として、荷物の引渡しが完了した時点で、荷主には運賃を支払う義務が生じます。なお、この支払時期は契約で変更することが可能ですので、配達後一定期間内の支払期日を定めることが一般的です。
なお、運賃請求権(運送人の債権)には、商法第586条に基づき1年間の消滅時効が適用されます。運送が完了してから1年を経過すると、時効により請求できなくなるので、注意が必要です。
契約書がなくても運賃を請求できる
運送契約は諾成契約であり、口頭の合意だけで成立します。そのため、契約書がない場合であっても、運送契約が成立していれば、運送業者は荷主に対して運賃を請求する権利があります。
「契約書がないから契約は成立していない」という主張は、法律上は正しくありません。実際に荷物の運送を依頼し、運送業者がこれを引き受けて運送を完了した場合には、たとえ契約書が存在しなくても、運送契約は有効に成立しています。
また、商法第512条は、商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができると定めています。運送業者が荷主の依頼に基づいて運送を行った場合、少なくとも合理的な額の報酬を請求できることになります。
契約書がない場合に生じる実務上の課題
契約書がないまま運賃を請求する場合、主に次のような課題が生じます。
第一に、運賃の金額についての立証が困難になります。口頭で合意した金額を証明できなければ、荷主との間で金額について紛争になりやすくなります。
第二に、契約の成立そのものを争われる可能性があります。荷主が「そもそも運送を依頼していない」と主張した場合、契約書以外の証拠で運送の依頼があったことを立証する必要があります。
第三に、附帯業務の範囲や支払条件が不明確であるため、荷主から想定外の反論を受けることがあります。たとえば、「その金額には附帯作業の費用も含まれているはずだ」などの主張がなされることがあります。
これらの問題を解決するためには、契約書以外の証拠をできるだけ多く確保することが重要です。
運賃債権を回収するために取るべき対応
契約書がない状態で運賃を回収するためには、まず運送の事実と合意内容を裏付ける証拠を整理することが最も重要です。配車表や運行記録、荷主とのメールやLINEなどのやり取り、FAXでの発注記録、請求書や納品書の控え、過去の取引で入金があった際の振込記録など、手元にある資料をすべて集めてください。
証拠がそろったら、まず荷主に対して書面(請求書や催告書)を送付し、支払いを求めます。支払いに応じない場合は、内容証明郵便を送付して正式に請求する方法も有効です。内容証明郵便は、請求を行った事実と日付を公的に証明できるため、後の紛争に備える意味でも有用です。
それでも支払いがなされない場合には、支払督促や少額訴訟、通常訴訟などの法的手続きを検討することになります。運賃の消滅時効は1年と比較的短いため、放置せず早めに対応することが大切です。証拠の収集や法的手続きの選択に不安がある場合は、弁護士に相談されることをおすすめします。
契約書作成の必要性
契約書がなくても請求ができるとは言っても、契約書を作成することは会社経営の基本です。取引基本契約書などの契約書をしっかりと作成するようにしましょう。
まとめ
運送契約は口頭でも成立する諾成契約であり、契約書がなくても運賃を請求することができます。ただし、契約書がない場合は立証の難度が上がるため、メールや配車表、運行記録などの証拠を早い段階で整理しておくことが重要です。また、運賃請求権の消滅時効は1年と短いため、迅速な対応が必要です。証拠の整理や請求の方法、法的手続きの選択に迷われる場合は、弁護士にご相談いただくことで、適切な方針のもとで回収を進めることができます。
-3-150x150.png)
この記事の執筆者
寺岡法律事務所
弁護士 寺岡健一(大阪弁護士会)
※弁護士紹介ページはこちら
全国どこでも、ご自宅から、オンラインで相談・依頼をお受けしています。
※オンライン相談はお使いのPCまたはスマートフォンで可能です。