共同親権と民法改正

2024年5月17日に、共同親権を導入する民法改正が成立し、2026年までに施行されることになりました。

1 現在の制度

現在の制度は、ご存じのように単独親権となっています。
このため、両親が離婚した場合には、子供の親権はどちらかの親が持つことになります。

ここでのポイントは、離婚後の関係や監護の現状に関係なく、単独親権になっていることです。

例えば、虐待やDVがなくても、共同して子育てをできていても、単独親権になります。
実際にも、離婚後もある程度良好な関係を維持している人や、共同で子育てをしている人が多数います。
それを考えると、単独親権の制度は現状に合っていないといえるでしょう。

2 改正後の制度

改正によって、共同親権が認められますが、共同親権に支障がある場合には単独親権とすることができます。

ここでのポイントは、原則が共同親権になることです。
共同親権が導入されただけではなく、原則が共同親権になるということで、制度が180°変わることになります。

懸念されているような、虐待やDVなどの事情がある場合には、単独親権とすることができます。
今後の制度としては、裁判所がこれをどのように運用するかが重要になっていくでしょう。

3 共同親権に変更するには

改正前に離婚していた人は、改正後も単独親権のままとなります。

これを共同親権に変更するためには、裁判所に親権者変更の調停を申し立てることになります。
(残念ながら、共同親権に変更するための簡易の手続きは設定されていません。)

この調停がどのようになるかも、裁判所の運用がどのようになるかが重要です。

虐待やDVなどの特別な事情がない限り、共同親権に変更されるという運用をするのか
共同親権に変更すべき特別な理由がある場合に限り、単独親権から共同親権に変更するという運用をするのか
改正直後の裁判所の運用に注目することになります。
(個人的には、原則が共同親権になった以上は、前者にすべきだと考えていますが、、、)

パワハラ問題の対応

パワハラ問題の難しさ

法律相談に行くと,労働者の側からは法律上明らかにパワハラに当たらない行為(単に叱られただけなど)についてパワハラを受けていると相談を受けたり,逆に,使用者の側からは明らかにパワハラに当たる行為をパワハラになるわけがないと主張されるなど,人や立場によって認識に大きな違いがあると感じます。

特に,スタートアップ事業者の場合には,人を雇うことが初めてであったり慣れていない,経営者自身は優秀な人間であるなどの理由から指導が厳しくなりパワハラが発生してしまうように感じます。
パワハラの問題を考えるにあたっては,自分ならパワハラだと感じるか,自分なら苦痛であるかではなく,法律上パワハラに当たると認定されるかという観点から考える必要があります。

会社にとってのパワハラ問題のリスク

パワハラの問題が顕在化した場合には以下のようなリスクが発生します。
⑴ ハラスメントによって従業員に対して発生した精神的損害の賠償責任(慰謝料),負傷や精神疾患が発生した場合の治療費などの賠償責任が生じます。
仮に,パワハラが原因で自殺などが発生した場合には,多額の損害賠償が発生します。
⑵ パワハラ問題が世間に知られることによって,不買につながったり,労働者の採用が困難になったりすることがあります。
⑶ パワハラによる精神疾患などが労災と認定された場合には,企業が支払う労災保険料が増額される場合があります。

パワハラの定義

⑴ 定義
労働施策総合推進法第30条の2第1項では事業主の雇用管理上の措置の義務が定められており,それを参考にするとパワハラの定義については以下のように捉えることができます。

① 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③ その雇用する労働者の就業環境が害されるもの

①「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」は,仕事の都合上,相手のいうことを聞かざるを得ない状況で行われる言動であることです。使用者と被用者という関係である以上は,職場外であっても該当すると考えて行動すべきといえます。

②「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」は,個人の受け取り方によっては不満を感じても,業務上必要かつ相当である限りはパワハラに当たらないことを示しています。


③「その雇用する労働者の就業環境が害される」は,次のような行為が該当するといわれています。

a 暴行・傷害(身体的な攻撃)
b 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
c 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
d 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
e 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
f 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

⑵ 運用
①はほぼ該当すると考えてよく,②の判断は簡単ではないことを考えると,③に該当する行為は避けるようにし,該当するかもしれない行為を行う必要がある場合には専門家の意見を聞きに行くべきでしょう。

謹賀新年

明けましておめでとうございます

本年も
すべての人が法的サポートを受けることのできる社会を作り
地域社会の活性化に貢献できるよう尽力してまいります

新たな一年が
皆様にとって素晴らしい一年であることを
心より祈念しております

解雇時の注意点

従業員を雇用していると、解雇せざるを得ないケースが発生します。
従業員を解雇する際には、どのような点に注意すべきでしょうか?

解雇無効の効果

労働者を解雇する場合には、後述するように厳しい要件が要求されています。
要件を満たしていない場合には、解雇は無効となります。

判決で解雇無効と判断された場合には、解雇から判決までの期間の賃金を支払う義務が生じます。

裁判の準備から判決には1~2年くらいの期間がかかります。
このため、約2年分の賃金を支払うことになります。
年収500万円の労働者であれば、合計1000万円ほどの支出ということになります。

解雇の要件

判例および法律は解雇の要件として
 ① 合理的な理由
 ② 社会的相当性
の2つを要求しています。
さらに、この要件を満たしていることは使用者の側で立証する必要があります。

解雇時の注意点

このため、どうしても従業員を解雇する必要が生じたような場合には
 ① 要件を満たしているか
 ② それを立証できるか
という2つの観点から検討する必要があります。

もちろん、解雇すると決めた場合には、立証のための証拠を保存することも必要になります。

リスクとコストの違いを解説|経営判断に必要な視点とは?

コストとリスクは、似たような意味で使われますが全く違う概念です。
経営を行うに当たっては、この二つの違いを意識する必要があります。

リスクとは

リスクとは、「目的に対する不確かさの影響」と言います(ISO31000)

分かりにくい言い方ですが、要は「どうなるか分からないこと。」だと理解すればよいでしょう。

コストとは

一方で、コストとは文字通り出ていくお金のことです。

固定費や変動費として発生する支出と理解すればよいでしょう。

リスクとコスト

例えば、固定費が大きく、変動費が小さい事業を考えます。
この場合には、売上が小さくても大きなコストが発生するため損失が大きいが、売上が大きくなってもコストが増えないため利益が大きくなりやすいので、「リスクが大きいがリターンも大きい」ということができます。

逆に、固定費が小さく、変動費が小さい事業を考えます。
この場合には、売上が小さい場合にはコストも小さいため損失は小さくなりますが、売上に比例しコストも増えるため利益が大きくなりにくく、「リスクが小さいがリターンも小さい」ということができます。

リスクとコストという考え方をする場面

リスクとコストを分けて考えると、経営判断を行いやすくなります。

例えば、1年契約と1か月ごとの契約(1年契約であれば安くなる場合)を比較した場合、1年契約であればコストが小さいがリスクが大きいのに対して、1か月契約であればコストが大きいがリスクが小さいと言えます。

その上で、リスクとコストのどちらを優先したいかという観点から経営判断を行うことになります。

ライドシェア解禁で話題の「白タク」とは?違法性と法律のポイント

ライドシェア解禁の検討で「白タク」という言葉をよく聞きます。
今回は「白タク」とは何かについて解説します。

旅客運送業

法律的にはタクシーは旅客運送業に該当します。

旅客運送業を行うには行政の許可が必要になります。
(許可手続きについては行政書士にご相談ください)

また、ドライバーには二種免許も必要となります。
今回ライドシェア検討されているのは、この二種免許の要件が重いためです。

ナンバープレートの色

旅客運送業の免許を受けると、緑色のナンバープレートが発行されます。
町中でタクシーやバスを見ると緑色のナンバープレートが付いているのが分かると思います。

一方で、普通の乗用車や営業車を見ると白色のナンバープレートが付いているのが分かると思います。

つまり
緑ナンバー=旅客運送業の許可を受けている
白ナンバー=旅客運送業の免許を受けていない
ということになります。

白タクって?

したがって、
白ナンバーのタクシー=無許可のタクシー=違法
ということになります。

このように、「白色のナンバープレートでタクシー業を行う違法行為」を俗に「白タク」と呼んでいます。

節税対策の落とし穴|逸失利益やローン審査への影響とは?

収入が増えると節税対策を考え始めます。
一般的な方法は、経費を多くして利益を減らすことでしょう。
しかし、利益が減るということはそれによって損失が発生するリスクがあります。

働けなくなった時の逸失利益

交通事故に遭うなどして働けなくなった場合、休業日数に応じた損害(逸失利益)が発生します。
この逸失利益は加害者に請求することができます。

逸失利益を算定するに当たっては、元々の収入を算定する必要があります。
サラリーマンの場合には、給与明細などを利用してもともとの収入を算定します。

一方で経営者の場合には納税の申告書などで収入を算定します。
節税対策のために利益を減らしていた場合には、減らした後の利益を元に逸失利益が算定されます。
このため、節税対策のために利益を0円などにしていると、事故に遭った際に逸失利益の賠償を受けられないというリスクが発生します。

もちろん、他の証拠を用いて「実際の収入はもっと多かった。」と主張することも考えられます。
しかし、裁判所は、自ら少ない金額で申告していた以上、他の証拠でより多い収入を認定することに消極的です。

このため、節税対策で収入を減らしていたような場合には、事故発生時の逸失利益が減額されると考えておいた方がよいでしょう。

他にも、見かけ上の収入が少ない場合には、ローンを組みにくくなるなどの問題も発生します。
節税対策を行う場合には、見かけ上の利益が少ないことによるリスクが存在することを知っておきましょう。

しつこい営業を撃退する方法|不退去の罪と警察通報のポイント

自宅やオフィスに押し掛けて来るしつこい営業はきっぱり断るのが大事です。

しかし、きっぱり断っているのにしつこく営業をしてくる悪質な営業マンもいます。
そのような場合にはどのように対応するべきでしょうか。

悪質営業については事後的な救済手段がありますが、その場合には手間や費用が掛かりますし、業者が逃げてしまえばお金を取り返すことは難しくなります。
その場で断る方法を知っておきましょう。

不退去の罪

刑法には不退去の罪(刑法130条後段)というものがあります。
「(権限のある者から)要求を受けたにもかかわらずこれらの場所(住居など)から退去しなかった」場合には住居侵入と同じ罪が成立します。

しつこい営業マンに対して、退去を命じたのに退去しない場合には不退去の罪が成立します。

警察は民事不介入?

不退去の罪が成立するということは、刑事事件になります。
民事事件ではないため「民事不介入」とはなりません。

つまり警察通報を行うことができることになります。

悪質営業マンの追い返し方

悪質な営業マンがしつこい場合には、まずは退去を促しましょう。

それでも退去しない場合には「警察通報する意思。」を伝えます。
多くの場合はそれで退去しますが中には悪質性の高い営業マンもいます。
ある会社では、警察を呼ぶと言われても退去するな。」と指示されていたこともあるようです。

そのような悪質な営業マンについては本当に警察通報を行いましょう。

国が認めた借金減額手段って何?|任意整理

インターネットを閲覧していると「国が認めた借金減額手段」などという広告が出てくることがあります。
これはいったいどういうものでしょうか?

借金と返済額

100万円の借金を毎月2万円ずつ返すと返済には何年かかるでしょうか?

100÷2で50か月とはなりません。

返済中にも利息が付くので、実際には77か月かかって約155万円を返済することになります。
逆に、先に期間を決めて、例えば

5年間で完済しようとすると、約2.4万円返済する必要があります。

任意整理

そこで登場するのが任意整理です。

これは、月々の返済額と返済期間を合意することで、その約束通りに返済している間は利息が発生しないようするというものです。

この場合、100万円を5年間で返す場合には、月々1.7万円返済することになります。

任意整理をしない場合と比較して約7000円返済額が減っています。
総返済額については、普通に5年間で返済する場合と比較して約30万円減ることになります。

国が認めた?

広告で「国が認めた」などと書かれていることがありますが、特に政府が積極的に推奨している制度というわけではありません。
単に「国が禁止していない」くらいの意味ととらえた方がいいでしょう。

他にも「国が認めた●●」という広告を見ることがありますが、あくまでも国が禁止していないだけであり、国が推奨しているというものではないと考えた方がいいでしょう。

独立・起業前に注意すべき法的リスク|競業・退職金・訴訟対策

法務はある程度事業が大きくなってからと考える事業者が多いですが,実際はかなり早い段階から考える必要があります。 今回は,独立前から注意すべき事項を紹介します。

1 退職前に会社を設立し,あいさつ回りをすること

⑴ 副業禁止規定との問題

最近は副業を許容する会社も増えてきていますが,依然として就業規則で副業を禁止している企業が多くあります。

もし,就業規則で副業を禁止している場合には,会社設立やあいさつ回りは禁止された副業に当たるとして懲戒処分がされる可能性があります。仮に,減給や解雇がされた場合には,収入が途絶えて独立後の資金計画に影響を与える可能性があります。

ここで,副業禁止規定が有効かという問題があります。

勤務時間以外の私生活上の時間は労働者が自由に利用できるため,勤務に支障をきたすなどの合理的な理由がなければ副業を禁止することはできません。

勤務時間外に仕事に差し支えない範囲で行う場合には,副業禁止規定との関係では許容されるといえるでしょう。

⑵ 競業禁止との問題

競業については,就業規則に規定がなくても禁止されると解釈されています。

したがって,行おうとしている業種が勤務先と競業する場合には,たとえ勤務時間外であっても営業活動と解釈されうるような行為は避けたほうがよいでしょう。 単に登記のみを行ったり,独立の予定を伝えるのみで営業活動を行わないのであれば適法とされる余地がありますが,勤務先との紛争リスクを抱えるという問題が生じます。

2 同僚を引き抜くこと

従業員の引き抜きについては,引き抜きが違法であるとして元勤務先から損害賠償請求をされる場合があります。

ただし,引き抜かれる従業員にも職業選択の自由があるため,引き抜き行為は原則として違法とはなりません。

勤務時間中に勧誘を行う,執拗な勧誘を行う,あえて勤務先を害するような退職方法をとらせるなどの事情があると違法とされるような場合があります。

3 退職金

会社によっては「退職後に競業他社に就職した場合には退職金を支給しない。」と規定されていることがあります。

就業規則にこのような規定があり,行おうとしている事業が競業する場合には退職金が支給されないケースがあります。

裁判上,このような規定は,一定の範囲の減額については許されるが全額の不支給は許されないと判断されることが多いです。

自社の退職金規定を確認し,退職金が不支給となったり減額される可能性があるかを調べ,不支給や減額された場合でも資金計画に支障が生じないかを検討する必要があります。

4 訴訟リスク

法的に問題がないように注意して開業準備をしていったとしても,勤務先から何らかの法的主張をされる可能性は残ります。

例えば,退職した後に,元勤務先が「競業避止義務に違反したから退職金を一切支払わない。」という扱いをした場合を想定します。

この場合,訴訟を提起して勝訴判決を得ることで退職金の支払いを受けられる可能性が高いです。しかし,判決を得るまでに短くても1年程度の期間がかかり,訴訟費用も別途必要になります。

このため,「退職金を営業開始後1年間の経費と生活費に充てる。」という予定は崩れてしまうので,この期間の資金を別途用意する方法を検討する必要があります。

このように,法的問題点の判断だけでなく,トラブル発生の可能性と対応に要するコストも併せて検討する必要があります。