近年、企業が従業員を労働契約から業務委託契約(個人事業主)に変更する動きが活発化しています。企業側は社会保険料や人件費の削減、従業員側は柔軟な働き方の実現といったメリットが注目される一方、両契約の法的性質は大きく異なります。安易な契約変更は法的リスクや労働基準法違反につながる恐れがあるため、専門家による正確な制度設計と契約書作成が必要です。
本記事では、労働契約と業務委託契約の基本的な違い、具体的なメリット・デメリット、そして実務上の注意点を弁護士×社労士が解説します。
目次
労働契約と業務委託契約の基本的な違い
労働契約とは?
労働契約は、使用者が従業員に対して「指揮監督」を行い、業務遂行に応じた賃金を支払う契約です。(労働契約法6条)
特徴:
・勤務時間に基づく賃金支払い
・使用者が業務の指導・監督を行える
・労働法や社会保険の適用対象
業務委託契約とは?
業務委託契約は、仕事の完成を委託し、仕事の完成に対して報酬を支払う契約です(民法632条)。
特徴:
・業務の成果物に対して固定報酬が支払われる
・受託者は自律的に業務を遂行
・使用者による「指揮監督」は行えない
労働契約と業務委託契約の比較
労働契約 | 業務委託契約 | |
---|---|---|
指揮監督 | 可 | 不可 |
労働法の適用 | 適用 | 不適用 |
社会保険料の負担 | 企業が負担 | 負担なし |
報酬の支払 | 勤務時間に対応 | 業務の完成に対応 |
労働契約と業務委託契約のメリット・デメリット
【労働契約の場合】
メリット:
企業が従業員に対して指揮監督を行い、業務進捗や納期を柔軟に管理可能
デメリット:
労働基準法に基づく残業代の支払い、労働時間管理などの法的義務、社会保険の負担が発生
【業務委託契約の場合】
メリット:
報酬が固定され、残業などの追加コストが発生しにくい
受託者が自律的に業務を遂行できるため、効率化を期待できる
デメリット:
指揮監督ができず、進捗管理や品質のコントロールが難しい
フリーランス法による一定の配慮義務が存在する
違法な業務委託契約とその法的リスク
労働契約と認定されるケース
業務委託契約を「定額働かせ放題」として労働法の規制を回避しようとする場合、実態が労働契約と判断されるリスクが高まります。裁判例や厚生労働省の指針では、「指揮監督の有無」と「報酬の労働対償性」が重要な判断基準とされています。
※厚生労働省のガイドライン
労働契約と認定された場合の影響
実態が労働契約であると認定されると、労働基準法による残業代支払い義務、解雇規制、さらに労働基準監督署の指導対象となり、企業に大きな法的リスクが生じます。
業務委託契約制度導入時の注意点
①労働法の回避手段として利用しない
業務委託契約は、あくまで業務効率化や柔軟な働き方を実現するための手段であり、労働法の抜け道としては利用できません。
②適切な契約書の作成
個別契約書や取引基本契約書には、委託内容、報酬額、報酬支払時期、成果物の帰属など必要な項目を明確に記載することが重要です。
外部の業者に委託する場合に定めている条項を適切に定めるように意識しましょう。
③指揮監督の限界を認識する
業務委託契約では、受託者に対する日常的な指導や監督ができないため、業務内容や指揮系統を明確に分ける必要があります。
社内の従業員と同じような指示を行わないように注意しましょう。
④報酬設定の適正化
報酬が仕事の完成に対して算定されるような条件を整え、労働時間に基づく賃金体系とならないよう注意が必要です。
まとめ
労働契約と業務委託契約は、それぞれ異なる法的性質とリスクを持ちます。
企業が契約形態を変更する際は、弁護士や社労士と連携し、法的リスクや実務上の注意点を十分に検討することが不可欠です。正確な制度設計と適切な契約書作成により、リスク回避と業務効率化の両立を目指しましょう。