解決事例(相続)

相談内容

Xさんは、お母さま(Aさん)が所有するマンションで、Aさんの介護をしながら二人で暮らしていました。
Xさんにはお兄さん(Zさん)がいますが、ZさんはたびたびXさんやAさんのもとを訪れては金銭を無心するなど、二人を困らせていました。

そうした状況の中、Aさんは90代まで長生きされましたが、ついに亡くなられました。
Xさんは、しっかりと葬儀を執り行い、Aさんを見送った後、預貯金やマンションの名義変更などの相続手続きを進めようとしました。
しかし、ここで問題が生じました。
相続手続きを行うには、共同相続人であるZさんと連絡を取り、二人で手続きを進める必要があります。
Zさんの連絡先や住所はわかっているものの、これまでの経緯を踏まえると、連絡を取れば再び金銭を無心されることが予想され、何よりもZさんと連絡を取ること自体がXさんにとって大きな精神的負担となってしまいます。

そこでXさんは、弁護士に相談しようと考え、私のもとを訪れました。

解決までの流れ

ご相談を受けて、私は「法的には難しくないものの、実際の手続きの面では非常に複雑になりそうだ」という印象を持ちました。

まず、Zさんとは裁判所以外で交渉を行うべきではないと判断しました。
これまでの経緯を踏まえると、たとえ何らかの法的合意ができたとしても、Zさんがそれを無視して再び金銭を無心してくる可能性があると考えられたからです。
そこで、裁判所という公的な場で手続きを行うことで、Zさんに対して「後から蒸し返すことはできない」という強い印象を与えることを目指しました。

まずは、Aさんの遺産を整理するために、預貯金や不動産に関する資料の収集を開始しました。
幸いにも、Aさんは生前からとても几帳面な方で、財産を分かりやすく整理してくださっていたため、この作業は2~3か月ほどで完了しました。

ところが、その途中で問題が発生しました。
弁護士からの受任通知を受け取ったZさんが、突然弁護士事務所を訪れ、「早く金が欲しい」と主張してきたのです。
もちろん、弁護士としてそのような要求に応じることはできません。
その場で、事務所に直接押しかけて金銭を要求するような行為は場合によっては犯罪となり得ることを警告し、正式な手続きを経るように、すなわち調停の申立てを待つよう指示しました。

このように、Zさんの突然の来訪というトラブルはあったものの、無事に弁護士から家庭裁判所へ調停申立てを行うことができました。
調停が始まってからは、Aさんの生前のご意向も踏まえ、相続分に応じて財産を公平に分割することで合意に至りました。

そして、Xさんが懸念していた「今後もZさんが金銭を無心しに来るのではないか」という不安にも対応する必要がありました。
そこで、調停合意の条件として、Zさんから「今後Xさんに直接接触しないこと。もし連絡が必要な場合は、必ず弁護士を通すこと」といった誓約を取り付けました。

このようにして、XさんとZさんが顔を合わせることなく、無事に調停を成立させ、預貯金や不動産の名義変更も滞りなく行うことができました。

弁護士のコメント

遺産分割について弁護士に相談するのは、「分割方法をめぐって揉めている場合」と思われがちですが、実際にはそうとは限りません。
他の相続人と連絡が取れない、取りたくない、あるいは連絡を取りにくいといった理由でご依頼いただくケースも少なくありません。
法的な争いがない場合でも、弁護士にご相談・ご依頼いただくことで、遺産相続の手続きをよりスムーズに進められることがあります。