中小企業であってもある日突然労働組合から団体交渉を申し入れられることがあります。
このページでは、団体交渉の基本から、申し入れを受けた際の初動対応、拒否の可否、交渉の進め方、注意点まで詳しく解説します。
目次
団体交渉とは?
団体交渉とは、労働組合が代表者を通じて使用者(企業側)と労働条件について交渉することを指します。憲法第28条で保障されている労働基本権の一つであり、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否することは違法とされています(労働組合法第7条第2号)。
団体交渉の申し入れを受けたら最初にすべきこと
申し入れを行った労働組合の性質を調査
中小企業の場合には社内に労働組合がないケースも多く、労働者が「●●ユニオン」などのような外部の労働組合に加入して、その組合から申し入れがあるケースがほとんどです。このような外部の労働組合であっても「労働組合」に該当します。
外部の労働組合の場合にはホームページなどを設置している場合も多いので、まずはインターネットで検索をして性質や傾向を調べてみます。攻撃的な性質が強い労働組合や、政治団体としての性質が強い労働組合の場合には特に対応を考える必要があります。
適法な団体交渉の申し入れか確認
使用者が正当な団体交渉を拒絶することは違法となります(労働組合法7条2号)。
一方で、法律上の団体交渉の要件を満たさない場合には交渉を拒絶することが許されます。
そこで、団体交渉を拒否できるケースに該当するかを確認します。
団体交渉を拒否できるケース
①「労働者」に該当しない場合
団体交渉の申し入れを行うためには労働組合法上の「労働者」(労働組合法3条)に該当することが必要です。労働組合法上の「労働者」は、労働基準法などの労働者とは異なる場合があります。
自社の従業員や、従業員であった者であれば当然に「労働者」に該当します。
雇用契約ではなく業務委託などの場合であっても、労働組合法上の「労働者」に該当する場合がありますので慎重に検討する必要があります。
詳しくは労働組合法上の労働者について解説したこちらの投稿をご参照ください。
②団体交渉の対象にならない場合
団体交渉は労使間の交渉なので、その交渉対象は労働条件に関わるものと、労使間の交渉方法などに関わるもので、使用者が決定できるものに限られます。
交渉対象になる例 | 賃金、休暇などの労働条件、解雇の撤回など 会社の合併に伴う人員整理など |
交渉対象にならない例 | 労働関連法規の改正など 会社の合併の反対など |
拒否する場合の注意点
団体交渉を拒否する場合には、本当に拒否が許される場合に当たるか否かを慎重に検討する必要があります。
必ず専門家に相談しながら行うようにしましょう。
団体交渉の進め方
交渉の方法を交渉する
団体交渉を進める際には、まず交渉の方法を決めるための事前協議を行います。主に次の点を決定します。
交渉の日時 | 所定労働時間外に行なう 1回●時間以内で行なう など |
交渉の場所 | 外部の会議室を借りる 使用料は折半する など |
交渉の出席者 | 双方●人以内とする 弁護士の同席を認める など |
記録の方法 | それぞれで録音する、議事録を作成するなど |
団体交渉で注意すべきポイント
実際の交渉では次の点に注意しましょう。
誠実に交渉する | 会社は形式的に交渉に出席するだけではなく誠実な交渉をする義務があります。 理由も示さずに要求を拒否したり、根拠資料を示さずに要求を拒否したりすると団体交渉を拒否したと認定される場合があります。 |
曖昧な回答をしない | 直ちに決められないこと、その場で分からないことについてはあいまいな回答をせず次回の回答として構いません。 曖昧なまま回答しても会社としての正式な見解と評価されます。 |
感情的にならない | 団体交渉では双方がヒートアップしていくことがあります。この時に会社として不用意な発言をしたりすると、そのことが不法行為になることがあります。 相手方が感情的になるほど、こちらは冷静な対応をするように意識しましょう。 |
記録を残す | 双方の間で決まったことはその都度記録に残すようにします。 ヒートアップしての不用意な発言を控える抑止力にもなります。 |
粘り強く交渉する | 誠実な交渉をしても合意ができない場合には交渉を打ち切ることも許されます。 しかし、交渉を打ち切った場合には争議行為や訴訟に移行することも多く、手間としても結果としても交渉よりも負担が大きくなる可能性があります。 1回や2回では終わらず長期間の交渉になることを見据えて粘り強い交渉をしましょう。 |
まとめ
初めて団体交渉の申し入れを受けると、対応方法が分からず不安になることが多いですが、適切に対応すれば過度に恐れる必要はありません。
特に中小企業では団体交渉の経験が少ないことが多いため、専門家のサポートを受けながら慎重に進めることが重要です。
適切な交渉方法を学び、冷静かつ誠実に対応することで、労使双方にとって適切な解決を図ることができます。