デジタル遺産の相続

インターネット上で財産を管理できるようになり、最近はデジタル遺産の相続が発生する機会も増えています。
このページではデジタル遺産の相続について解説します。

デジタル遺産とは?

デジタル遺産とは、一般的には、故人がデジタル形式で保存していた財産のことを言います。
決まった定義があるわけではなく、インターネットバンクなどのように財産的な価値があるものに限定して言及されたり、ウェブ上に保管した記念写真などのように財産的な価値がないものも含めて言及される場合があります。

デジタル遺産の例

デジタル遺産の例としては次のものがあげられます。

財産的な価値のあるもの

  • インターネットバンキング口座
  • ネット証券口座
  • 暗号資産(ビットコインなど)
  • 電子マネー(ICOCAの先払いなど)

財産的な価値のないもの

  • インターネット上に保存した写真などのデータ
  • サブスクリプションなどの月額利用契約

デジタル遺産が相続の対象になるか

相続では、故人のすべての財産関係が相続の対象になります。
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も引き継ぎます。
また、故人と誰かとの間の契約関係も引き継ぎます。

このため、サブスクリプション契約なども含めてデジタル遺産は相続の対象になります。

デジタル遺産の相続の手続き

それでは、財産の種類ごとにデジタル遺産の相続の手続きを紹介します。

インターネットバンキング

インターネットバンキングでは、次のような手続きの流れとなります。通常の銀行とほとんど違いはありません。
ログインパスワードなどが分からなくても大丈夫です(パスワードが分かる場合でも手続きをせずに引き出しなどを行ってはいけません。)。

・銀行に連絡
・手続き書類の受け取り
・書類の記入と必要書類(戸籍の写し、印鑑証明、遺産分割協議書など)の提出
・預貯金の払い戻し

主要なインターネットバンキングの相続手続きのリンクを記載します。
(リンクは執筆時のものになります。)

ネット証券口座

ネット証券口座は、インターネットバンキングと同様の流れとなります。

主要なネット証券会社の相続手続きのリンクを記載します。
(リンクは執筆時のものになります。)

暗号資産

暗号資産取引であっても、ほとんどは暗号資産用の取引業者に口座を開設して取引をしています。
このため、この取引業者に連絡をして相続手続きを行うことになります。
銀行や証券会社と同じですが、それらと比べて手続き窓口が見つけにくくなっています。

主要な取引業者の相続手続きのリンクを記載します。
(リンクは執筆時のものになります。)

電子マネー

各会社に連絡をして、払い戻しなどの手続きを行うことになります。

主要な電子マネー会社の相続手続きのリンクを記載します。
(リンクは執筆時のものになります。)

インターネット上の写真データなど

ログインをしてデータをダウンロードした上でアカウントの削除をします。
アカウント作成時に本人確認などがされないため、ログインアカウントやパスワードが分からない場合には手続き不可能な場合が多いです。

サブスクリプション契約など

多くの場合は、クレジットカードや銀行の引き落としで契約が判明することになります。

運営会社に連絡をして利用停止をするか、ログインして利用停止をします。
どちらの手続きもできない場合には、クレジットカード会社や銀行に連絡をして引き落としを停止します。

生前の対策(被相続人の準備)

デジタル遺産は相続人に存在を気付かれず失われてしまったり、代金を支払い続けたりしてしまうことがあります。
デジタル遺産に限ったことではないですが、相続人のために次の作業をしておきましょう。

  • 財産や契約関係のリスト化
  • ログイン情報の保存
  • 各財産の相続時の手続きの確認

ビットトレント(BitTorrent)を利用したことによる開示請求や損害賠償請求が増えています

ビットトレント利用をめぐる発信者情報開示請求とは

近年、「ビットトレント(BitTorrent)」を利用したことで発信者情報開示請求を受けたという相談が増えています。特に、アダルトビデオ業界が積極的に発信者情報開示を進めており、本来の賠償額を大きく超える金額を支払ってしまったというケースも散見されます。ここでは、ビットトレントの仕組みと発信者情報開示請求の特徴、そして適切な対応について解説します。


ビットトレントとは

一般的に、違法アップロード・ダウンロードと言えば、誰かがサーバへデータをアップロードし、別のユーザーがそこからダウンロードする形が想定されます。アップロードした人物には故意が明らかで、責任追及もしやすい構造です。

一方、ビットトレントはファイル共有の仕組みが根本的に異なります。データが小さく分割され、利用者同士が直接やり取りする点が特徴です。ユーザーは作品をダウンロードすると同時に、その断片を他のユーザーへ自動的に提供(アップロード)する状態になります。つまり、ひとつの作品の流通に多数のユーザーが同時に関与する仕組みです。この点が、後述する発信者情報開示請求にも大きく影響します。


違法になるのか

ビットトレントというシステム自体は違法ではありません。しかし、実際には著作物を違法にアップロード・ダウンロードする手段として用いられることが多く、権利者が法的措置を取る事例が増えています。とくに「自分はアップロードしたつもりがない」という認識の利用者でも、仕組み上、自動的にアップロードに協力してしまう点が問題になります。


最近増えているトラブル

特にアダルトビデオ業界では、ダウンロードを理由とする発信者情報開示請求が活発です。作品データが断片化されているため、10分程度の作品でも数十人単位のユーザーが「アップロードに関与した」として請求対象となることがあります。
さらに、「家族や勤務先に知られたくない」という心理につけ込み、数十万円〜百万円程度の高額な示談金を提示され、そのまま支払ってしまうケースも珍しくありません。


適切な対応とは何か

① 発信者情報開示請求への対応

まずは、開示請求に対して適切に対応することが重要です。争う姿勢を示すことで、開示が認められない可能性も十分にあります。実際、証拠が不十分なケースや、権利侵害が明らかでないケースでは、開示が否定される例もあります。
早期に弁護士へ相談し、法的に妥当な反論を行うことが重要です。

② 請求への向き合い方

多数の相手に一斉請求を行い、一部が支払ってくれればよい——という対応をしている権利者も存在します。弁護士が代理人として争う姿勢を示すことで、請求側が態度を軟化させる、あるいは請求自体を断念することもあります。


まとめ

発信者情報開示請求を受けたからといって、請求額をそのまま支払う必要はありません。安易に示談に応じてしまうと、本来負う必要のない高額な金銭を支払う結果につながります。まずは仕組みを理解し、適切な法的対応を行うことが何より重要です。


費用

ビットトレント(BitTorrent)関連の開示請求の対応については、特殊性を踏まえて通常よりも低めの料金設定を用意しております。

開示請求対応・意見書文案作成:5.5万円
・意見対応の代理:11万円
損害賠償請求対応・受任時:11万円~(税込)
・終了時:減額した15.4%(税込)
・訴訟移行時:+22万円(税込)
・期日日当:3.3万円/日

【解決事例】困った親族との接触を避けつつ遺産分割を完了させた事案

相談内容

Xさんは、お母さま(Aさん)が所有するマンションで、Aさんの介護をしながら二人で暮らしていました。
Xさんにはお兄さん(Zさん)がいますが、ZさんはたびたびXさんやAさんのもとを訪れては金銭を無心するなど、二人を困らせていました。

そうした状況の中、Aさんは90代まで長生きされましたが、ついに亡くなられました。
Xさんは、しっかりと葬儀を執り行い、Aさんを見送った後、預貯金やマンションの名義変更などの相続手続きを進めようとしました。
しかし、ここで問題が生じました。
相続手続きを行うには、共同相続人であるZさんと連絡を取り、二人で手続きを進める必要があります。
Zさんの連絡先や住所はわかっているものの、これまでの経緯を踏まえると、連絡を取れば再び金銭を無心されることが予想され、何よりもZさんと連絡を取ること自体がXさんにとって大きな精神的負担となってしまいます。

そこでXさんは、弁護士に相談しようと考え、私のもとを訪れました。

解決までの流れ

ご相談を受けて、私は「法的には難しくないものの、実際の手続きの面では非常に複雑になりそうだ」という印象を持ちました。

まず、Zさんとは裁判所以外で交渉を行うべきではないと判断しました。
これまでの経緯を踏まえると、たとえ何らかの法的合意ができたとしても、Zさんがそれを無視して再び金銭を無心してくる可能性があると考えられたからです。
そこで、裁判所という公的な場で手続きを行うことで、Zさんに対して「後から蒸し返すことはできない」という強い印象を与えることを目指しました。

まずは、Aさんの遺産を整理するために、預貯金や不動産に関する資料の収集を開始しました。
幸いにも、Aさんは生前からとても几帳面な方で、財産を分かりやすく整理してくださっていたため、この作業は2~3か月ほどで完了しました。

ところが、その途中で問題が発生しました。
弁護士からの受任通知を受け取ったZさんが、突然弁護士事務所を訪れ、「早く金が欲しい」と主張してきたのです。
もちろん、弁護士としてそのような要求に応じることはできません。
その場で、事務所に直接押しかけて金銭を要求するような行為は場合によっては犯罪となり得ることを警告し、正式な手続きを経るように、すなわち調停の申立てを待つよう指示しました。

このように、Zさんの突然の来訪というトラブルはあったものの、無事に弁護士から家庭裁判所へ調停申立てを行うことができました。
調停が始まってからは、Aさんの生前のご意向も踏まえ、相続分に応じて財産を公平に分割することで合意に至りました。

そして、Xさんが懸念していた「今後もZさんが金銭を無心しに来るのではないか」という不安にも対応する必要がありました。
そこで、調停合意の条件として、Zさんから「今後Xさんに直接接触しないこと。もし連絡が必要な場合は、必ず弁護士を通すこと」といった誓約を取り付けました。

このようにして、XさんとZさんが顔を合わせることなく、無事に調停を成立させ、預貯金や不動産の名義変更も滞りなく行うことができました。

弁護士のコメント

遺産分割について弁護士に相談するのは、「分割方法をめぐって揉めている場合」と思われがちですが、実際にはそうとは限りません。
他の相続人と連絡が取れない、取りたくない、あるいは連絡を取りにくいといった理由でご依頼いただくケースも少なくありません。
法的な争いがない場合でも、弁護士にご相談・ご依頼いただくことで、遺産相続の手続きをよりスムーズに進められることがあります。

初めて団体交渉の申し入れを受けた場合の対応

中小企業であってもある日突然労働組合から団体交渉を申し入れられることがあります。
このページでは、団体交渉の基本から、申し入れを受けた際の初動対応、拒否の可否、交渉の進め方、注意点まで詳しく解説します。

団体交渉とは?

団体交渉とは、労働組合が代表者を通じて使用者(企業側)と労働条件について交渉することを指します。憲法第28条で保障されている労働基本権の一つであり、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否することは違法とされています(労働組合法第7条第2号)。

団体交渉の申し入れを受けたら最初にすべきこと

申し入れを行った労働組合の性質を調査

中小企業の場合には社内に労働組合がないケースも多く、労働者が「●●ユニオン」などのような外部の労働組合に加入して、その組合から申し入れがあるケースがほとんどです。このような外部の労働組合であっても「労働組合」に該当します。
外部の労働組合の場合にはホームページなどを設置している場合も多いので、まずはインターネットで検索をして性質や傾向を調べてみます。攻撃的な性質が強い労働組合や、政治団体としての性質が強い労働組合の場合には特に対応を考える必要があります。

適法な団体交渉の申し入れか確認

使用者が正当な団体交渉を拒絶することは違法となります(労働組合法7条2号)。
一方で、法律上の団体交渉の要件を満たさない場合には交渉を拒絶することが許されます。
そこで、団体交渉を拒否できるケースに該当するかを確認します。

団体交渉を拒否できるケース

①「労働者」に該当しない場合

団体交渉の申し入れを行うためには労働組合法上の「労働者」(労働組合法3条)に該当することが必要です。労働組合法上の「労働者」は、労働基準法などの労働者とは異なる場合があります。

自社の従業員や、従業員であった者であれば当然に「労働者」に該当します。
雇用契約ではなく業務委託などの場合であっても、労働組合法上の「労働者」に該当する場合がありますので慎重に検討する必要があります。
詳しくは労働組合法上の労働者について解説したこちらの投稿をご参照ください。

②団体交渉の対象にならない場合

団体交渉は労使間の交渉なので、その交渉対象は労働条件に関わるものと、労使間の交渉方法などに関わるもので、使用者が決定できるものに限られます。

交渉対象になる例賃金、休暇などの労働条件、解雇の撤回など
会社の合併に伴う人員整理など
交渉対象にならない例労働関連法規の改正など
会社の合併の反対など

拒否する場合の注意点

団体交渉を拒否する場合には、本当に拒否が許される場合に当たるか否かを慎重に検討する必要があります。
必ず専門家に相談しながら行うようにしましょう。

団体交渉の進め方

交渉の方法を交渉する

団体交渉を進める際には、まず交渉の方法を決めるための事前協議を行います。主に次の点を決定します。

交渉の日時所定労働時間外に行なう
1回●時間以内で行なう
 など
交渉の場所外部の会議室を借りる
使用料は折半する
 など
交渉の出席者双方●人以内とする
弁護士の同席を認める
 など
記録の方法それぞれで録音する、議事録を作成するなど

団体交渉で注意すべきポイント

実際の交渉では次の点に注意しましょう。

誠実に交渉する会社は形式的に交渉に出席するだけではなく誠実な交渉をする義務があります。
理由も示さずに要求を拒否したり、根拠資料を示さずに要求を拒否したりすると団体交渉を拒否したと認定される場合があります。
曖昧な回答をしない直ちに決められないこと、その場で分からないことについてはあいまいな回答をせず次回の回答として構いません。
曖昧なまま回答しても会社としての正式な見解と評価されます。
感情的にならない団体交渉では双方がヒートアップしていくことがあります。この時に会社として不用意な発言をしたりすると、そのことが不法行為になることがあります。
相手方が感情的になるほど、こちらは冷静な対応をするように意識しましょう。
記録を残す双方の間で決まったことはその都度記録に残すようにします。
ヒートアップしての不用意な発言を控える抑止力にもなります。
粘り強く交渉する誠実な交渉をしても合意ができない場合には交渉を打ち切ることも許されます。
しかし、交渉を打ち切った場合には争議行為や訴訟に移行することも多く、手間としても結果としても交渉よりも負担が大きくなる可能性があります。
1回や2回では終わらず長期間の交渉になることを見据えて粘り強い交渉をしましょう。

まとめ

初めて団体交渉の申し入れを受けると、対応方法が分からず不安になることが多いですが、適切に対応すれば過度に恐れる必要はありません。
特に中小企業では団体交渉の経験が少ないことが多いため、専門家のサポートを受けながら慎重に進めることが重要です。
適切な交渉方法を学び、冷静かつ誠実に対応することで、労使双方にとって適切な解決を図ることができます。

【解決事例】家賃収入の行方が不明な不動産相続を遺産分割調停で円満に解決した事例

ご相談内容

ご相談者のXさんは、2年前にお母さまを亡くされました。
相続人は、Xさんとご兄弟のZさんのお二人です。

お母さまの相続財産には、預貯金のほか、複数の不動産が含まれており、その一部は他人に賃貸して家賃収入が発生していました。
しかし、お母さまのご逝去後、家賃の振込が止まり、入金の行き先が分からない状態となっていました。

XさんはZさんに家賃の状況を確認しましたが、回答が得られず、不動産相続と遺産分割の進め方に不安を感じ、当事務所へご相談に来られました。

弁護士による対応と解決の流れ

まず、弁護士が相続財産の全体像を明らかにするため、

  • 不動産の登記事項の調査
  • お母さま名義の預貯金口座の取引履歴の取得
  • 不動産の評価額(時価)の調査

を行いました。

その後、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、家賃収入の行方についての開示を求めました。
調停の結果、家賃はZさんが受け取っていたことが判明。
一方で、Zさんは建物の修繕・管理費用を負担していたため、合理的な管理費用については相続財産から差し引くこととしました。

最終的に、以下の内容で遺産分割の合意が成立しました。

  • 不動産・預貯金・家賃収入から合理的な管理費用を控除した金額を相続財産とする
  • 相続財産を2分の1ずつ分ける
  • Xさんは現金で、Zさんは不動産と預貯金で受け取る

これにより、Xさんは遠方のN県へ出向くことなく、相続手続きをすべて完了することができました。

弁護士からのコメント

相続人の一方が財産を管理していて、他の相続人が内容を把握できないケースは珍しくありません。
しかし、弁護士が調査を行うことで、正確な財産の内容や家賃収入の流れを明らかにし、公平な遺産分割を実現することが可能です。

「相手が財産を開示してくれない」「家賃収入の管理状況が不明」など、
不動産相続に関するお悩みがある方は、ぜひ一度ご相談ください。

労働契約と業務委託契約の違いと法的リスク|弁護士×社労士が解説

近年、企業が従業員を労働契約から業務委託契約(個人事業主)に変更する動きが活発化しています。企業側は社会保険料や人件費の削減、従業員側は柔軟な働き方の実現といったメリットが注目される一方、両契約の法的性質は大きく異なります。安易な契約変更は法的リスクや労働基準法違反につながる恐れがあるため、専門家による正確な制度設計と契約書作成が必要です。
本記事では、労働契約と業務委託契約の基本的な違い、具体的なメリット・デメリット、そして実務上の注意点を弁護士×社労士が解説します。

労働契約と業務委託契約の基本的な違い

労働契約とは?

労働契約は、使用者が従業員に対して「指揮監督」を行い、業務遂行に応じた賃金を支払う契約です。(労働契約法6条)

特徴:
・勤務時間に基づく賃金支払い
・使用者が業務の指導・監督を行える
・労働法や社会保険の適用対象

業務委託契約とは?

業務委託契約は、仕事の完成を委託し、仕事の完成に対して報酬を支払う契約です(民法632条)。

特徴:
・業務の成果物に対して固定報酬が支払われる
・受託者は自律的に業務を遂行
・使用者による「指揮監督」は行えない

労働契約と業務委託契約の比較

労働契約業務委託契約
指揮監督不可
労働法の適用適用不適用
社会保険料の負担企業が負担負担なし
報酬の支払勤務時間に対応業務の完成に対応

労働契約と業務委託契約のメリット・デメリット

【労働契約の場合】

メリット:
企業が従業員に対して指揮監督を行い、業務進捗や納期を柔軟に管理可能

デメリット:
労働基準法に基づく残業代の支払い、労働時間管理などの法的義務、社会保険の負担が発生

【業務委託契約の場合】

メリット:
報酬が固定され、残業などの追加コストが発生しにくい
受託者が自律的に業務を遂行できるため、効率化を期待できる

デメリット:
指揮監督ができず、進捗管理や品質のコントロールが難しい
フリーランス法による一定の配慮義務が存在する

違法な業務委託契約とその法的リスク

労働契約と認定されるケース

業務委託契約を「定額働かせ放題」として労働法の規制を回避しようとする場合、実態が労働契約と判断されるリスクが高まります。裁判例や厚生労働省の指針では、「指揮監督の有無」と「報酬の労働対償性」が重要な判断基準とされています。
厚生労働省のガイドライン

労働契約と認定された場合の影響

実態が労働契約であると認定されると、労働基準法による残業代支払い義務、解雇規制、さらに労働基準監督署の指導対象となり、企業に大きな法的リスクが生じます。

業務委託契約制度導入時の注意点

①労働法の回避手段として利用しない
業務委託契約は、あくまで業務効率化や柔軟な働き方を実現するための手段であり、労働法の抜け道としては利用できません。

②適切な契約書の作成
個別契約書や取引基本契約書には、委託内容、報酬額、報酬支払時期、成果物の帰属など必要な項目を明確に記載することが重要です。
外部の業者に委託する場合に定めている条項を適切に定めるように意識しましょう。

③指揮監督の限界を認識する
業務委託契約では、受託者に対する日常的な指導や監督ができないため、業務内容や指揮系統を明確に分ける必要があります。
社内の従業員と同じような指示を行わないように注意しましょう。

④報酬設定の適正化
報酬が仕事の完成に対して算定されるような条件を整え、労働時間に基づく賃金体系とならないよう注意が必要です。

まとめ

労働契約と業務委託契約は、それぞれ異なる法的性質とリスクを持ちます。
企業が契約形態を変更する際は、弁護士や社労士と連携し、法的リスクや実務上の注意点を十分に検討することが不可欠です。正確な制度設計と適切な契約書作成により、リスク回避と業務効率化の両立を目指しましょう。

業務委託契約と労働組合|労働者と認定される基準・企業の対応策

業務委託契約だからといって「労働者」に該当しないとは限りません。
労働組合法では、経済的従属性が高い場合、直接雇用でなくても「労働者」と認定される可能性があります。労働者と認定されると、企業は団体交渉に応じる義務を負い、労働者はストライキ権の行使も認められます。
本記事では、労働組合法における「労働者」の定義、認定基準、企業が取るべき対策について解説します。

法律における「労働者」の定義|労働基準法と労働組合法の違い

労働基準法や労働組合法は「労働者」に対して様々な保護を与えています。このため、「労働者」に該当するか否かは重要な要素になります。
「労働者」としての認定基準は法律によって異なります。労働基準法と労働組合法では適用範囲が異なるため、注意が必要です。

⑴ 労働基準法上の「労働者」

労働基準法や労働契約法などの労働条件を定めることを目的とする法律では、「指揮監督されて労務を提供する者」が「労働者」に該当するとされています(労働基準法9条、労働契約法2条1項など)。
名目上は委任や請負契約であっても、「指揮監督」が行われている場合には「労働者」に該当し、残業代の支払義務などが発生することになります。
詳しくは労働契約と業務委託契約について解説したこちらのページもご参考ください。

⑵ 労働組合法上の「労働者」

労働組合法では「賃金(またはそれに準じる収入)を得て生活をする者」が「労働者」に該当するとされています(労働組合法3条)。これは、使用者に対する経済的な従属性を重視するものです。
 基準が異なっているため、労働基準法では「労働者」に該当しない者が、労働組合法では「労働者」に該当する場合があります。
 有名なところでは、プロ野球選手は労働基準法上の「労働者」には該当しませんが、労働組合法上の「労働者」に該当します(東京地方裁判所:平16(ヨ)21153号)。

より詳しくは次のような基準で判断されます(最高裁判所:平21(行ヒ)473号など)。

基本的な判断要素(経済的従属性)

  • 労働者が事業組織に組み入れられているか
  • 契約内容が使用者により一方的に決定されているか
  • 報酬が労務に対する対価としての性格を持つか

これらの要素が認められる場合には、労働組合法上の労働者性が認められます。

補充的な判断要素(人的従属性)

  • 業務の依頼に対する許諾の自由がない
  • 時間や場所などの拘束性(指揮監督要素)

これらが認められる場合にも労働者性を認められやすくなりますが、あくまでも上記3つが主な判断要素であり、こちらは補充的な判断要素になります。

特別な考慮要素(事業者性)

  • 独立的判断で経営判断をして収益活動をしている

一見すると経済的従属性や人的従属性が認められても、明らかに独立した事業者というべき特段の事情があるような場合には労働者性が否定されます。

分かりやすい言い方をすると、従業員に仕事を配転するのと同じような感覚で業務委託をしているような場合には「労働者」と認定される可能性が高くなります。

労働組合法上の「労働者」と認定された例

プロ野球選手(東京地方裁判所:平16(ヨ)21153号)
ウーバーイーツの配達員(東京都労委令和2年(不)第24号)

労働組合法上の「労働者」に該当した場合の効果

労働組合法上の「労働者」に該当する場合には主に次のような効果が発生します。

①組合加入を妨げることができない労働組合に加入したことで不利益に取り扱ったり、加入しないことを条件に契約を締結すると違法となります。
②団体交渉の席に着く義務がある労働組合として団体交渉を申し入れられた場合、交渉を拒絶すると違法となります
③労働者はストライキを行う権利があるストライキ(履行の拒絶)によって生じた損害の賠償請求をできなくなります

企業が取るべき対策|リスク回避と適切な対応

「労働者」と認定されないようにする

一つ目の対応は、「労働者」と認定されないように注意しながら業務委託などを行うことです。
この場合次のような点を注意します。

  • 契約の独立性を明確にする(業務内容や報酬内容を、対等な事業者として個別に交渉する)
  • 業務委託先に裁量を持たせる(指揮監督を行わず、独立の受託業者として裁量に基づいて業務を行わせる)

一方で次のような場合には「労働者」と認定されやすくなります

  • すべての委託先に一律の契約を一方的に適用する
  • 委託を拒絶した人を不利益に扱う(一度断ると依頼をしなかったり報酬が下がるなど)

「労働者」として団体交渉などに対応する

上記対応を徹底すると、事業の実態や必要性と乖離する場合があります。
ウーバーイーツなどが「労働者」と認定されているように、労働組合法上の「労働者」の範囲はかなり広く認定されます。建築や内装業界で一般的な一人親方の場合には、労働者性を否定できるような契約形態とすることが困難な場合もあります。
そこで、労働組合法上の「労働者」であることを前提に団体交渉などに応じることも考えられます。
団体交渉には、組合加入者全体との取引内容を一括で交渉することができたり、ある程度知識がある人が代表して交渉に来てもらえるなど、会社側にとっても一定のメリットがあります。

まとめ

いずれの場合でも、労働組合としての交渉などを申し込まれた場合には、法的な観点からも経営戦略的な観点からも専門の弁護士に相談して対応するようにしましょう。

転職者による営業秘密の流出防止|企業が知るべき法的対応策

近年、制度や労働者の意識の変化により、終身雇用の概念が薄れ、転職が一般化しています。
それに伴い、転職時に前職の営業秘密を持ち出すといったトラブルが増加しており、企業は営業秘密の保護を講じる必要があります。
不正競争防止法を中心に営業秘密の保護について解説するとともに、企業が実施すべき対策について詳しく説明します。

不正競争防止法による営業秘密の保護

営業秘密の保護

不正競争防止法では、営業秘密の保護を定めています。
このため、営業秘密を不正に流出、取得、利用された場合には(2条1項)について差止請求(3条)や損害賠償請求(4条)をすることができます。
さらにこれらの行為について刑事罰(21条)も定められており、法定刑も「10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金」とかなり重くなっています。

営業秘密の要件

このような営業秘密としての保護を受けるためには、次の3つの要件を満たしている必要があります。

  • 秘密管理性:企業が適切な管理を行い、秘密として保持されていること
  • 有用性:事業活動にとって有益な情報であること
  • 非公知性:一般に公然と知られていないこと

企業にとっては、営業秘密を「秘密管理性」が認められるように適切に管理する必要があります。

企業が取るべき対応策

企業は、営業秘密が流出しないよう万全の対策を講じるとともに、万が一流出した場合にも法的保護を受けられるよう、以下の点に注意して管理を行う必要があります。

秘密管理の明確化営業秘密に該当する情報には「機密」のラベルを張るなど、秘密として管理していることを明示します。
アクセス制限特定の従業員のみが営業秘密にアクセスできるようにし、適切な権限管理を行います。
鍵付きの棚に入れる、データにパスワードをかける、特定の端末のみでアクセス閲覧できるようにするなどの方法が考えられます。
ログ管理機密情報へのアクセス履歴を記録し、不正な持ち出しを検知できるようにします。
アクセスした端末を記録するシステムや、閲覧時に記名を行う方法なども考えられます。
従業員教育営業秘密の重要性や法的リスクについて定期的に研修を実施し、意識を高めます。
上記のような対策を講じていることについても説明します。

これらの方法を複合的に実施することで、営業秘密の持ち出しを難しくするとともに、従業員に対して「持ち出してはいけない」という理解をしてもらいます。
また、仮に流出が発生した場合には、これらの対策を十分に講じている事実を「秘密管理性」の証拠として訴訟で提出します。

その他の営業秘密の流出防止策

不正競争防止法以外にも営業秘密の流出防止の対策手段が考えられます。
これらの手段もあわせて実施することで営業秘密の流出リスクを最小化することができます。

秘密保持契約(NDA)の締結

在職中および退職後における営業秘密の持ち出しを防ぐため、秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)を締結することが有効です。
締結と活用に当たっては次の点を意識するとより有効になります。

雇用契約とは別に独立した契約として締結する一般的な労働契約にも秘密保持条項が含まれている場合が多いですが、これだけでは従業員の認識不足による持ち出しが発生する可能性があります。
労働契約とは別に秘密保持契約を締結することで、従業員に持ち出してはいけないという意識付けをすることができます。
契約内容の明確化秘密保持の範囲や違反時のペナルティを明確に定め、従業員に周知徹底します。
昇進時などの更新昇進や移動などでより重要な秘密にアクセス可能になるごとに改めて秘密保持契約を締結させます。
これによって、持ち出してはいけない重要な秘密にアクセスしているという意識を徹底することができます。
退職時の確認退職手続き時に営業秘密の持ち出しがないかチェックし、改めて秘密保持契約の内容を確認させます。

持ち出された場合のペナルティよりも、「持ち出してはいけない。」という認識を持たせることが重要です。

競業避止契約の締結

退職した従業員が競業他社に転職し、営業秘密を利用して顧客を奪うリスクを軽減するため、競業避止契約を締結することも有効です。
ただし、労働者の「職業選択の自由」が憲法で保障されているため、過度に広範な競業避止義務を課すことは違法で無効と判断される可能性があります。そのため、適切な範囲で競業避止契約を設計することが求められます。
そこで、次のような点に注意して内容を定めます。

競業避止義務の範囲の限定無制限に競業他社への就職を禁止すると無効になる可能性が高くなるため、ある程度限定して定める必要があります。
営業秘密を利用して顧客を奪うことができるような地位に就くことを禁止するにとどめます。
期間:一般的に1~2年程度が適切
地域:企業の事業エリアに限定する
職務内容:管理者や経営者など重要な業務・役職に限定する
補償の提供職業選択の自由を制限するため、一定の補償を提供することが望ましい。
競業避止契約を締結する際に、それと引き換えに賃金や退職金が増えていることを説明します。

まとめ

転職が一般化する現代において、企業は営業秘密の保護に向けた対策を強化する必要があります。
適切な管理措置を講じることで、従業員の転職時における営業秘密の流出リスクを最小限に抑えることができます。
企業が取るべき具体的な対策として、

  • 営業秘密の管理体制を強化する
  • 従業員への教育を徹底する
  • 秘密保持契約や競業避止契約を適切に運用する

といった点が挙げられます。
営業秘密の流出は企業にとって大きな損失となるため、転職時のリスクに備えた万全の対策を講じましょう。

労働基準監督署(労基)の調査が来たらどうすればいい?

「労基が来た」と聞くと、驚いたり不安になったりする方も多いのではないでしょうか。労働基準監督署(通称「労基」)は、労働法令の遵守を監督する中立的な行政機関です。本記事では、労基がどのような場合に調査に来るのか、その目的や調査の流れ、事業所として適切な対応方法について、わかりやすく解説します。

労働基準監督署(労基)とは?

労働基準監督署(以下「労基」)は、厚生労働省の機関で、労働基準法をはじめとする労働関係法令の違反防止や是正を目的として、企業に対する調査・指導・監督を行う行政機関です。
また、労災の認定や給付に関する手続きも担当しています。

労基の調査は、労働基準法に基づく調査権限により実施され、違反が認められた場合には指導や是正勧告が行われます。

労基が調査に来る理由とは?

労基による調査には、主に以下の3つの種類があります。

① 定期監督
無作為に選ばれた事業所を対象に行われる調査で、特に違反の疑いがあるわけではなく、労働法令の順守状況を確認する目的があります。

② 災害時監督
労働災害が発生した際に、その原因や再発防止策の確認を行うための調査です。

③ 申告監督
労働者から「違法な残業をさせられている」などの申告があった場合に行われる調査です。法令違反の申告があって調査がされているので、企業側としては慎重な対応が求められます。

調査の後はどうなる?

調査の結果、労働基準法違反が認められると、以下のような行政指導が行われます。

  • 違法な残業の是正
  • 賃金未払いの支払い指導

これらの指導や是正勧告は、あくまで「是正を促す」ものであり、法的強制力はありません。
裁判所の判決のような法的拘束力はなく、労働者が強制的に権利を主張するには民事訴訟が必要です。
民事訴訟では労基の判断と異なる結論が出る可能性もあります。

ポイントは、事業所にとっては労基の調査の結果直ちに重大な影響が発生するわけではなく、労基の調査に対して敵対的に対応する必要はないということです。

労基の調査の流れ

調査は以下の2パターンで実施されます。

  • 立ち入り調査(事業所への訪問)
  • 呼び出し調査(労基署での聞き取り)

調査の一般的な流れは以下の通りです。
①労働基準監督官が事業所を訪問し、帳簿の確認や関係者への聞き取りを実施(呼び出しの場合は労基署に出頭して聞き取り調査)
②法令違反が認められた場合は指導・是正勧告
③事業所が改善報告を提出し、再調査などにより是正状況を確認
(立ち入り検査は予告なく行われる場合もあります)

調査が入った場合の対応

調査に協力する義務

事業所には労基署の調査に協力する義務があります。
このため、調査を妨害したり、出頭要請を拒絶したり、虚偽の事実を述べたりした場合には刑事罰を科される場合があります(労働基準法120条)。
また、調査に非協力的な場合には労基の心証も悪くなるため、積極的に調査に協力するようにしましょう。

準備

事前に立ち入り検査の予定などを告知された場合には適切な準備を行います。
調査時に閲覧されることになる帳簿を出しやすいように整理しておいたり、質問に回答できるように雇用環境などを確認しておきましょう。
資料を隠したり、口裏合わせを行うことなどは厳禁です。
弁護士や社労士などの立ち合いをできないか相談してみることも重要です。

当日

調査当日は労働基準監督官が帳簿の閲覧を行ったり、使用者や労働者に対して質問を行います。
いずれの場合も協力的に対応するべきであり、事実を隠蔽したり虚偽を述べることは厳禁です。

調査後の対応

調査の結果、法令違反が認められれば指導や是正勧告が行われます。
この指導は、あくまでも事実上の指導であり、何らかの強制力があるわけではありません。
とはいっても法令違反の状況がある以上は、是正の上で報告を行う必要があります。
どのような事実について、どのような法令に違反したと認定されたのかを確認し、どのようにすれば法令違反の状態を改善できるのかを検討します。
弁護士や社労士などの専門家と相談しながら対応を行いましょう。

事実認定や法的判断に誤りがある場合には是正報告の中でその旨の主張を行います。
なお、裁判で指導の取り消しを求めるなどの法的手続きは用意されていません。これは、指導自体に法的な効果がないので、それを法的に取り消す必要がないためです。

まとめ

労基は敵ではなく、労働者と使用者の間に立つ中立の監督機関です。
調査には誠実かつ協力的に対応することが、会社の利益にとって最も望ましい対応です。
不安がある場合は、専門家に相談して適切な対応を準備しましょう。

悪質クレーマー・カスハラ対策|会社と従業員を守るための対策ガイド

近年、悪質クレーマーによる会社や従業員への圧力が問題視されています。
適切な知識を持つことで、会社と従業員を守ることが可能です。この
記事では、悪質クレーマーへの効果的な対策を解説します。

対応方針と基礎知識

会社として統一した対応を取る

  • マニュアルを作成し、対応方法を明確化
  • 責任は会社が負い、従業員を守る体制を整備

悪質クレーマー対応で最も重要なのは、会社として一貫した対応をすることです。
クレーマー対応において、従業員は「クレーマーの行為に対する不安」と「会社から責任を問われる不安」の双方を感じています。
そこで、この不安を解消するために、マニュアルを作成するとともに、会社が責任を取り従業員には責任が及ばないことを徹底して理解してもらう必要があります。

「訴訟を恐れない」姿勢を持つ

  • 法定利率は3%(2025年時点)
  • 交渉より裁判の方が楽

悪質クレーマーの典型的な脅し文句として、「訴える」「今払わないと高額の請求をする」などがあります。これらに動揺すると、クレーマーの思うつぼになります。
民法上の法定利率は年3%であり、支払が遅れたからといって金額が大きく増えることはありません。(※法務省
むしろ、クレーマーとの交渉よりも、中立の裁判所で訴訟を行う方が負担が少ないとも言えます。
法的知識を持つことで、不当な要求に屈しない姿勢を貫きましょう。

不退去の罪を理解する

  • 退去を求めても帰らない場合は「不退去の罪」が成立する
  • 警察に通報し、刑事事件として対応可能

店舗やオフィスに居座るクレーマーには、「不退去罪」(刑法130条)が成立します。
「警察は民事不介入」と言われますが、不退去の罪は刑事事件なので、警察が対応することができます。
クレーマーが退去を命じても帰らない場合には警察通報を行いましょう。

ネット上の誹謗中傷への対策

  • 悪質な投稿は削除可能(プロバイダ責任制限法)
  • 匿名投稿者を特定可能(プロバイダ責任制限法)
  • 名誉毀損・業務妨害で損害賠償が請求(民法719条)

クレーマー対応では、インターネット上で事実無根の悪評を書かれることの不安もあります。
適切な対策を知っておくことで、風評被害を最小限に抑えられます。
これらの手段を知っておくことで、「ネットに書き込むぞ!」という脅しにも冷静に対応できます。

まとめ

重要なのは「悪質クレーマーの脅迫手段には法的な対応が可能である。」ということです。
これらの対応をして多くことで、毅然とした対応を行うことが可能になります。

具体的な対応

マニュアルの作成

クレーム対応の基本は、その場で解決しようとせず「本社で対応する」ことです。
悪質クレーマー問題を現場で解決することは困難ですし、正当な権利主張であればなおさら本社で賠償などの手配を行う必要があります。
そこで、次の方針でマニュアルを作成しましょう。

  • 初動では謝罪しても問題ない(謝罪=責任の認定にはならない)
  • 本社から連絡すると伝えた上で連絡先を確認する
  • 時間制限を設け、必要以上に対応しない(例:5分まで)
  • 決めた時間を超えた場合は退去を命じる
  • 退去に応じない場合や暴行・脅迫があれば直ちに警察通報
  • マニュアルに従ったことで問題が生じても従業員に責任が及ばないことを明示しておく
  • 弁護士などの専門家のサポートを受けながら対応する

本社対応に持ち込めば、弁護士と相談しながら適切に処理できます。
また、法律の専門家が介入することで、悪質クレーマーの大半は諦める傾向にあります。

絶対に避けるべき対応

やってはいけない対応として次の2種類があります。

  • 「納得するまで丁寧に説明する」
  • 「正当な権利主張には丁寧に対応、悪質クレーマーには毅然と対応」

悪質クレーマーはどれだけ説明しても納得しませんので、納得するまで説明していては何時間も拘束されることになります。
説明を続けることによるストレスから従業員を守るようにしましょう。

「正当な権利主張には丁寧に対応、悪質クレーマーには毅然と対応」というのは一見すると普通の対応のように感じますが、現場の従業員が「正当な権利主張」か「悪質クレーマー」かを判断することは困難です。
この判断を強いることによる不安から従業員を守るためにも本社対応とすることを目指しましょう。

まとめ

悪質クレーマー対策には、事前の準備と知識の共有が不可欠です。
会社として統一した対応を決め、従業員が安心して働ける環境を整えることで、被害を最小限に抑えることができます。
クレーム対応に困ったら、弁護士に相談することをおすすめします。
法的手段を適切に活用し、企業の利益を守りましょう。