放火は重罪

放火事件の裁判について
「殺すつもりはなかった、と言えば殺人にならないのですか?」
という質問を受けることがあります。

回答としては、半分は正しい、半分は間違いということになります。

殺意の認定

まず、殺意がなければ殺人罪は成立しません。
しかし、「殺すつもりがない。」とだけ言えば殺意が否定されるわけではありません。
裁判ではいろいろな事実関係を考慮して殺意の認定がされます。
現に人がいる建物にガソリンなどを巻いて火をつけていれば殺意が認定される可能性が高いでしょう。

殺意がなくても

むしろ、刑や罪の重さという意味では殺意の認定がされなくても違いはありません。

殺人罪の刑は次のようになっています。
 死刑又は無期若しくは五年以上の懲役(拘禁)

一方で現住建造物等放火の刑も次のようになっています。
 死刑又は無期若しくは五年以上の懲役(拘禁)

つまり、刑罰という意味では、殺人罪でも現住建造物等放火でも変わらないということになります。

ここで注意してほしいのが、普段人が住んでいる建物に放火すれば現住建造物等放火が成立することです。
例えば、建物の中を確認して誰もいないことを確認してから火をつけた場合でも、普段人が住んでいれば現住建造物等放火が成立します。

言い方を変えると、「絶対に人が死なない」状況で放火をしても殺人と同じ重さということになります。

「殺意がなければ殺人にならない。」というよりも、
「殺意がなくても殺人と同じ」重い罪というイメージが正しいでしょう。

白タクとは?

ライドシェア解禁の検討で「白タク」という言葉をよく聞きます。
今回は「白タク」とは何かについて解説します。

旅客運送業

法律的にはタクシーは旅客運送業に該当します。

旅客運送業を行うには行政の許可が必要になります。
(許可手続きについては行政書士にご相談ください)

また、ドライバーには二種免許も必要となります。
今回ライドシェア検討されているのは、この二種免許の要件が重いためです。

ナンバープレートの色

旅客運送業の免許を受けると、緑色のナンバープレートが発行されます。
町中でタクシーやバスを見ると緑色のナンバープレートが付いているのが分かると思います。

一方で、普通の乗用車や営業車を見ると白色のナンバープレートが付いているのが分かると思います。

つまり
緑ナンバー=旅客運送業の許可を受けている
白ナンバー=旅客運送業の免許を受けていない
ということになります。

白タクって?

したがって、
白ナンバーのタクシー=無許可のタクシー=違法
ということになります。

このように、「白色のナンバープレートでタクシー業を行う違法行為」を俗に「白タク」と呼んでいます。

試用期間と本採用拒否

労働者を雇用する際、試用期間を設ける場合があります。
しかし、この試用期間の利用を間違うと大きなトラブルに発展する場合があります。

試用期間の制度設計

試用期間を設ける場合には、定期雇用を利用します。
一般的には、3か月くらいの定期雇用として、その期間の働き方によって本採用をするか否かを決めることが多いです。

本採用拒否の適法性

しかし、裁判所は本採用拒否については実質的には解雇に当たると判断しています。このため、本採用拒否にも合理的な理由が必要になります。

ここでの合理的事情については、選考中に知り得なかった事情のうち、本採用拒否をすることが合理的であるといえる事情が要求されます。
知り得なかったことが重要であり、単なる調査不足で知らなかった場合には認められません。

具体的には、犯罪歴を隠していた場合や、ミスが多いうえに改善の見込みがないような場合に限られると思った方がいいでしょう。

選考時に抱いていた懸念が現実化しただけの場合は許されません。
もちろん、「定時で帰ろうとするから」などという理由で本採用拒否をすることはできません。

本採用拒否が違法である場合

本採用拒否が違法であった場合、違法な解雇として無効となります。
つまり、解雇期間中の賃金請求をされることになります。
訴訟には2年ほどの期間がかかるため、2年分の賃金を請求されることになります。

試用期間を設けているからといって、選考時を簡略化したり、試用期間を利用して安易に解雇しようとしないように注意する必要があります。

節税対策の落とし穴

収入が増えると節税対策を考え始めます。
一般的な方法は、経費を多くして利益を減らすことでしょう。
しかし、利益が減るということはそれによって損失が発生するリスクがあります。

働けなくなった時の逸失利益

交通事故に遭うなどして働けなくなった場合、休業日数に応じた損害(逸失利益)が発生します。
この逸失利益は加害者に請求することができます。

逸失利益を算定するに当たっては、元々の収入を算定する必要があります。
サラリーマンの場合には、給与明細などを利用してもともとの収入を算定します。

一方で経営者の場合には納税の申告書などで収入を算定します。
節税対策のために利益を減らしていた場合には、減らした後の利益を元に逸失利益が算定されます。
このため、節税対策のために利益を0円などにしていると、事故に遭った際に逸失利益の賠償を受けられないというリスクが発生します。

もちろん、他の証拠を用いて「実際の収入はもっと多かった。」と主張することも考えられます。
しかし、裁判所は、自ら少ない金額で申告していた以上、他の証拠でより多い収入を認定することに消極的です。

このため、節税対策で収入を減らしていたような場合には、事故発生時の逸失利益が減額されると考えておいた方がよいでしょう。

他にも、見かけ上の収入が少ない場合には、ローンを組みにくくなるなどの問題も発生します。
節税対策を行う場合には、見かけ上の利益が少ないことによるリスクが存在することを知っておきましょう。

悪質営業マンの追い返し方

自宅やオフィスに押し掛けて来るしつこい営業はきっぱり断るのが大事です。

しかし、きっぱり断っているのにしつこく営業をしてくる悪質な営業マンもいます。
そのような場合にはどのように対応するべきでしょうか。

悪質営業については事後的な救済手段がありますが、その場合には手間や費用が掛かりますし、業者が逃げてしまえばお金を取り返すことは難しくなります。
その場で断る方法を知っておきましょう。

不退去の罪

刑法には不退去の罪(刑法130条後段)というものがあります。
「(権限のある者から)要求を受けたにもかかわらずこれらの場所(住居など)から退去しなかった」場合には住居侵入と同じ罪が成立します。

しつこい営業マンに対して、退去を命じたのに退去しない場合には不退去の罪が成立します。

警察は民事不介入?

不退去の罪が成立するということは、刑事事件になります。
民事事件ではないため「民事不介入」とはなりません。

つまり警察通報を行うことができることになります。

悪質営業マンの追い返し方

悪質な営業マンがしつこい場合には、まずは退去を促しましょう。

それでも退去しない場合には「警察通報する意思。」を伝えます。
多くの場合はそれで退去しますが中には悪質性の高い営業マンもいます。
ある会社では、警察を呼ぶと言われても退去するな。」と指示されていたこともあるようです。

そのような悪質な営業マンについては本当に警察通報を行いましょう。

残業代を払わないとどうなるのか

従業員に残業をさせると、当然残業代を支払う義務があります。
では、支払わなかったらどうなるでしょうか?

もちろん、後から請求されるわけですが、「それなら実際に請求されてから対応すればいいのではないか?」というわけにはいきません。

請求時期と請求額

賃金の時効は3年です。
このため、多くの場合は、従業員が退職するときに3年分をまとめて請求することになります。

遅延損害金

さらに従業員の退職後は14.6%という大きい遅延損害金が発生します。
この遅延損害金は訴訟継続中も溜まっていきます。

また、訴訟には一般に1~2年かかります。
このため、訴訟終了までの間に、本来の支払額の30%ほどの遅延損害金が付くことになります。

付加金

さらに付加金という制度があります。
裁判所は未払残業代と同じ額の付加金の支払いを命じることができます。

分かりやすく言うと、残業代が支払われていなかったことの罰則として、本来の金額の2倍の金額を支払わせることができます。

残業代請求額を増やすテクニック

また、退職を決めた従業員が残業代を増やすテクニックがあります。

例えば、意味もなくたくさん残業したり、ゆっくり仕事をしたり、仕事を増やしたりすることがあり得ます。
仕事がないのに大量に残業をしても、本来は残業代の支払義務はありません。
しかし、残業代を支払っておらず、残業時間の管理をしていないような会社の場合には、そのことの立証は困難になります。

さらに、残業が美徳の会社になっていると、従業員のそのような行為を、「やる気を出し始めた。」と誤信してしまう場合もあります。

残業代の未払は大きな法的リスクになる上に、従業員のやる気にも関わります。
さらに、そのような情報が拡散されると従業員の確保にも支障をきたします。

従業員を雇用する場合には、労働時間や残業代の管理は十分に行いましょう。

国が認めた借金減額手段?

インターネットを閲覧していると「国が認めた借金減額手段」などという広告が出てくることがあります。
これはいったいどういうものでしょうか?

借金と返済額

100万円の借金を毎月2万円ずつ返すと返済には何年かかるでしょうか?

100÷2で50か月とはなりません。

返済中にも利息が付くので、実際には77か月かかって約155万円を返済することになります。
逆に、先に期間を決めて、例えば

5年間で完済しようとすると、約2.4万円返済する必要があります。

任意整理

そこで登場するのが任意整理です。

これは、月々の返済額と返済期間を合意することで、その約束通りに返済している間は利息が発生しないようするというものです。

この場合、100万円を5年間で返す場合には、月々1.7万円返済することになります。

任意整理をしない場合と比較して約7000円返済額が減っています。
総返済額については、普通に5年間で返済する場合と比較して約30万円減ることになります。

国が認めた?

広告で「国が認めた」などと書かれていることがありますが、特に政府が積極的に推奨している制度というわけではありません。
単に「国が禁止していない」くらいの意味ととらえた方がいいでしょう。

他にも「国が認めた●●」という広告を見ることがありますが、あくまでも国が禁止していないだけであり、国が推奨しているというものではないと考えた方がいいでしょう。

管理監督者と名ばかり管理職

労働者を8時間を超えて働かせると残業代を支払う義務があります。
しかし、管理職であればこの義務がありません(労働基準法41条2号)。

このように聞くと
「従業員をすべて管理職にすれば、残業代を支払わずに定額働かせ放題になる。」
と考える人が出てきます。

しかし、会社が管理職だと定めればすべて管理職になるわけではありません。
裁判所は、残業規制における管理監督者について次のような考え方をしています。

① 労務管理上,使用者と一体的な立場にあること
② 労働時間管理を受けていないこと
③ 基本給や手当の面でその地位にふさわしい処遇を受けていること

分かりやすく言うと、実質的に経営者側であり、働き方も自由であり、それに見合った給料をもらっている、
という場合に管理職と認められるということになります。
中小企業であれば、役員クラスでなければ管理職と認められないとイメージするとよいでしょう。

管理職扱いにして残業代を支払っていなかったものの、実態としては管理職に当たらないといえるような場合を、いわゆる名ばかり管理職と呼んでいます。

名ばかり管理職と認定されると、支払っていなかった残業代を支払う義務が発生します。
しかも、残業代規制がない前提で働いていると、通常よりも長時間の残業を行っている場合が多いです。
さらに、従業員としても「3年くらい働いて辞める時にまとめて請求しよう。」という発想になります。
このため、会社には3年分の残業代がまとめて請求されることになります。
この支出は会社にとってかなり重い支出になります。

このため、自社の雇用内容が管理監督者に該当するか否かは慎重に検討する必要があります。

独立前の法的注意点

法務はある程度事業が大きくなってからと考える事業者が多いですが,実際はかなり早い段階から考える必要があります。 今回は,独立前から注意すべき事項を紹介します。

1 退職前に会社を設立し,あいさつ回りをすること

⑴ 副業禁止規定との問題

最近は副業を許容する会社も増えてきていますが,依然として就業規則で副業を禁止している企業が多くあります。

もし,就業規則で副業を禁止している場合には,会社設立やあいさつ回りは禁止された副業に当たるとして懲戒処分がされる可能性があります。仮に,減給や解雇がされた場合には,収入が途絶えて独立後の資金計画に影響を与える可能性があります。

ここで,副業禁止規定が有効かという問題があります。

勤務時間以外の私生活上の時間は労働者が自由に利用できるため,勤務に支障をきたすなどの合理的な理由がなければ副業を禁止することはできません。

勤務時間外に仕事に差し支えない範囲で行う場合には,副業禁止規定との関係では許容されるといえるでしょう。

⑵ 競業禁止との問題

競業については,就業規則に規定がなくても禁止されると解釈されています。

したがって,行おうとしている業種が勤務先と競業する場合には,たとえ勤務時間外であっても営業活動と解釈されうるような行為は避けたほうがよいでしょう。 単に登記のみを行ったり,独立の予定を伝えるのみで営業活動を行わないのであれば適法とされる余地がありますが,勤務先との紛争リスクを抱えるという問題が生じます。

2 同僚を引き抜くこと

従業員の引き抜きについては,引き抜きが違法であるとして元勤務先から損害賠償請求をされる場合があります。

ただし,引き抜かれる従業員にも職業選択の自由があるため,引き抜き行為は原則として違法とはなりません。

勤務時間中に勧誘を行う,執拗な勧誘を行う,あえて勤務先を害するような退職方法をとらせるなどの事情があると違法とされるような場合があります。

3 退職金

会社によっては「退職後に競業他社に就職した場合には退職金を支給しない。」と規定されていることがあります。

就業規則にこのような規定があり,行おうとしている事業が競業する場合には退職金が支給されないケースがあります。

裁判上,このような規定は,一定の範囲の減額については許されるが全額の不支給は許されないと判断されることが多いです。

自社の退職金規定を確認し,退職金が不支給となったり減額される可能性があるかを調べ,不支給や減額された場合でも資金計画に支障が生じないかを検討する必要があります。

4 訴訟リスク

法的に問題がないように注意して開業準備をしていったとしても,勤務先から何らかの法的主張をされる可能性は残ります。

例えば,退職した後に,元勤務先が「競業避止義務に違反したから退職金を一切支払わない。」という扱いをした場合を想定します。

この場合,訴訟を提起して勝訴判決を得ることで退職金の支払いを受けられる可能性が高いです。しかし,判決を得るまでに短くても1年程度の期間がかかり,訴訟費用も別途必要になります。

このため,「退職金を営業開始後1年間の経費と生活費に充てる。」という予定は崩れてしまうので,この期間の資金を別途用意する方法を検討する必要があります。

このように,法的問題点の判断だけでなく,トラブル発生の可能性と対応に要するコストも併せて検討する必要があります。

クレーマー対応(実践)

店舗を経営すると悪質クレーマー対応に悩まされることがあります。
今回は事例に合わせて対応を紹介します。

クレーム発生時

クレーム発生時の目標は本社対応にすることです。

本社対応にできれば弁護士に相談しながら対応できます。

まずは謝罪して大丈夫です。
謝ったからすべての要求を認めたことにはなりません。
「謝ったから相手が悪い!」と主張する人はいますが、訴訟では認められません。

次は連絡先を交換して帰ってもらいます。

ある程度文句は聞いても構いませんが、5分まで等と時間を区切りましょう。
決めたを超えたら帰らせましょう。

帰宅を促しても帰らない場合や、暴言、暴行、脅迫がされた場合は警察通報します。

やってはダメな対応

「納得いただけるまで丁寧に説明する。」という対応はしてはいけません。
どれだけ丁寧にしっかり説明しても納得しない人は納得しません。

「悪質クレーマーには毅然な対応」「正当な権利主張には丁寧に対応」などと対応を分けることもやってはいけません。

現場でどちらに当たるかを判断することはできません。
この判断を従業員に強いると大きなストレスになります。
現場の従業員には判断も責任も負わせないようにします。

本社対応にした後

本社対応にすればほとんど勝利です。
弁護士と相談しながら粛々と進めましょう。

弁護士が代理人についただけで諦めるクレーマーも多いです。

クレーマー対応は普段からの準備が重要です。
従業員やほかのお客さんを守るために、事前にしっかりとした準備をしておきましょう。