リスクとコストの違いを解説|経営判断に必要な視点とは?

コストとリスクは、似たような意味で使われますが全く違う概念です。
経営を行うに当たっては、この二つの違いを意識する必要があります。

リスクとは

リスクとは、「目的に対する不確かさの影響」と言います(ISO31000)

分かりにくい言い方ですが、要は「どうなるか分からないこと。」だと理解すればよいでしょう。

コストとは

一方で、コストとは文字通り出ていくお金のことです。

固定費や変動費として発生する支出と理解すればよいでしょう。

リスクとコスト

例えば、固定費が大きく、変動費が小さい事業を考えます。
この場合には、売上が小さくても大きなコストが発生するため損失が大きいが、売上が大きくなってもコストが増えないため利益が大きくなりやすいので、「リスクが大きいがリターンも大きい」ということができます。

逆に、固定費が小さく、変動費が小さい事業を考えます。
この場合には、売上が小さい場合にはコストも小さいため損失は小さくなりますが、売上に比例しコストも増えるため利益が大きくなりにくく、「リスクが小さいがリターンも小さい」ということができます。

リスクとコストという考え方をする場面

リスクとコストを分けて考えると、経営判断を行いやすくなります。

例えば、1年契約と1か月ごとの契約(1年契約であれば安くなる場合)を比較した場合、1年契約であればコストが小さいがリスクが大きいのに対して、1か月契約であればコストが大きいがリスクが小さいと言えます。

その上で、リスクとコストのどちらを優先したいかという観点から経営判断を行うことになります。

ライドシェア解禁で話題の「白タク」とは?違法性と法律のポイント

ライドシェア解禁の検討で「白タク」という言葉をよく聞きます。
今回は「白タク」とは何かについて解説します。

旅客運送業

法律的にはタクシーは旅客運送業に該当します。

旅客運送業を行うには行政の許可が必要になります。
(許可手続きについては行政書士にご相談ください)

また、ドライバーには二種免許も必要となります。
今回ライドシェア検討されているのは、この二種免許の要件が重いためです。

ナンバープレートの色

旅客運送業の免許を受けると、緑色のナンバープレートが発行されます。
町中でタクシーやバスを見ると緑色のナンバープレートが付いているのが分かると思います。

一方で、普通の乗用車や営業車を見ると白色のナンバープレートが付いているのが分かると思います。

つまり
緑ナンバー=旅客運送業の許可を受けている
白ナンバー=旅客運送業の免許を受けていない
ということになります。

白タクって?

したがって、
白ナンバーのタクシー=無許可のタクシー=違法
ということになります。

このように、「白色のナンバープレートでタクシー業を行う違法行為」を俗に「白タク」と呼んでいます。

試用期間と本採用拒否

労働者を雇用する際、試用期間を設ける場合があります。
しかし、この試用期間の利用を間違うと大きなトラブルに発展する場合があります。

試用期間の制度設計

試用期間を設ける場合には、定期雇用を利用します。
一般的には、3か月くらいの定期雇用として、その期間の働き方によって本採用をするか否かを決めることが多いです。

本採用拒否の適法性

しかし、裁判所は本採用拒否については実質的には解雇に当たると判断しています。このため、本採用拒否にも合理的な理由が必要になります。

ここでの合理的事情については、選考中に知り得なかった事情のうち、本採用拒否をすることが合理的であるといえる事情が要求されます。
知り得なかったことが重要であり、単なる調査不足で知らなかった場合には認められません。

具体的には、犯罪歴を隠していた場合や、ミスが多いうえに改善の見込みがないような場合に限られると思った方がいいでしょう。

選考時に抱いていた懸念が現実化しただけの場合は許されません。
もちろん、「定時で帰ろうとするから」などという理由で本採用拒否をすることはできません。

本採用拒否が違法である場合

本採用拒否が違法であった場合、違法な解雇として無効となります。
つまり、解雇期間中の賃金請求をされることになります。
訴訟には2年ほどの期間がかかるため、2年分の賃金を請求されることになります。

試用期間を設けているからといって、選考時を簡略化したり、試用期間を利用して安易に解雇しようとしないように注意する必要があります。

節税対策の落とし穴|逸失利益やローン審査への影響とは?

収入が増えると節税対策を考え始めます。
一般的な方法は、経費を多くして利益を減らすことでしょう。
しかし、利益が減るということはそれによって損失が発生するリスクがあります。

働けなくなった時の逸失利益

交通事故に遭うなどして働けなくなった場合、休業日数に応じた損害(逸失利益)が発生します。
この逸失利益は加害者に請求することができます。

逸失利益を算定するに当たっては、元々の収入を算定する必要があります。
サラリーマンの場合には、給与明細などを利用してもともとの収入を算定します。

一方で経営者の場合には納税の申告書などで収入を算定します。
節税対策のために利益を減らしていた場合には、減らした後の利益を元に逸失利益が算定されます。
このため、節税対策のために利益を0円などにしていると、事故に遭った際に逸失利益の賠償を受けられないというリスクが発生します。

もちろん、他の証拠を用いて「実際の収入はもっと多かった。」と主張することも考えられます。
しかし、裁判所は、自ら少ない金額で申告していた以上、他の証拠でより多い収入を認定することに消極的です。

このため、節税対策で収入を減らしていたような場合には、事故発生時の逸失利益が減額されると考えておいた方がよいでしょう。

他にも、見かけ上の収入が少ない場合には、ローンを組みにくくなるなどの問題も発生します。
節税対策を行う場合には、見かけ上の利益が少ないことによるリスクが存在することを知っておきましょう。

しつこい営業を撃退する方法|不退去の罪と警察通報のポイント

自宅やオフィスに押し掛けて来るしつこい営業はきっぱり断るのが大事です。

しかし、きっぱり断っているのにしつこく営業をしてくる悪質な営業マンもいます。
そのような場合にはどのように対応するべきでしょうか。

悪質営業については事後的な救済手段がありますが、その場合には手間や費用が掛かりますし、業者が逃げてしまえばお金を取り返すことは難しくなります。
その場で断る方法を知っておきましょう。

不退去の罪

刑法には不退去の罪(刑法130条後段)というものがあります。
「(権限のある者から)要求を受けたにもかかわらずこれらの場所(住居など)から退去しなかった」場合には住居侵入と同じ罪が成立します。

しつこい営業マンに対して、退去を命じたのに退去しない場合には不退去の罪が成立します。

警察は民事不介入?

不退去の罪が成立するということは、刑事事件になります。
民事事件ではないため「民事不介入」とはなりません。

つまり警察通報を行うことができることになります。

悪質営業マンの追い返し方

悪質な営業マンがしつこい場合には、まずは退去を促しましょう。

それでも退去しない場合には「警察通報する意思。」を伝えます。
多くの場合はそれで退去しますが中には悪質性の高い営業マンもいます。
ある会社では、警察を呼ぶと言われても退去するな。」と指示されていたこともあるようです。

そのような悪質な営業マンについては本当に警察通報を行いましょう。

残業代を支払わない場合の効果|訴訟なしでの差押の可能性も

企業が従業員に残業をさせる場合、法律に基づいて残業代を支払う義務があります。
しかし、固定残業代の誤解や管理職制度の適用ミスなどにより、残業代を適切に支払っていないケースもあります。
本記事では、残業代を未払いにした場合のリスクについて解説します。

残業代に関する基本的な法制度

36協定

労働基準法では、原則として1日8時間を超える労働は認められていません。ただし、労使間で36協定(サブロク協定)を締結することで、一定の範囲内で残業を合法化できます。
36協定がない状態での残業は違法となりますが、違法な残業であっても企業には残業代の支払い義務が発生します。

残業代の計算方法

法律では、通常の労働時間を超える労働については割増賃金を支払う義務があります。基本的な残業代の計算式は以下のとおりです。
 1時間あたりの賃金 = 時給単価 × 1.25
例えば、時給が1,200円の場合、残業代は1,500円(1,200円 × 1.25)となります。

遅延損害金

賃金の支払いが遅れた場合、以下の遅延損害金が発生します。

  • 在職中:年3%
  • 退職後:年14.6%(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項)

賃金債権の時効

賃金の時効は3年(労働基準法附則第143条3項)ですが、近いうちに5年に延長される予定です(労働基準法115条)。

付加金

賃金(残業代を含む)が支払われない場合には、支払うべき賃金と同一額の付加金の支払を命じられる場合があります(労働基準法114条)。
つまり、もともと支払うべき残業代の2倍の金額を支払うリスクがあります。

従業員側の請求戦術

上記法制度を前提に従業員側で、最大限有利に残業代請求を行う方法を検討してみましょう。

残業代未払いに不満を持った従業員は、転職活動をしながら証拠を集めることが多いです。証拠として有効なのは以下のようなものです。

  • パソコンの使用履歴(ログイン・ログアウト時間)
  • 定期券やIC乗車券の利用履歴
  • メールの送受信履歴

未払いが発生している企業では、残業時間の管理が甘いケースが多いため、従業員が以下のような方法で勤務時間を増やすことができます。

  • 仕事をゆっくり進める
  • 必要のない残業を行う
  • 仕事量を増やす

これらの方法で勤務時間が増えていても、企業側が不要な残業であることを証明できなければ、全額支払う必要が生じます。
(なお、不要な残業であることの勤務は非常に困難です。)

そして、転職が決まったら退職して、直ちに時効にかかっていない3年分の残業代を請求します。
勤務期間が短い場合には、時効直前まで請求を遅らせることで、遅延損害金(14.6%)を増やすことも考えられます。
これによって、最大限の未払残業代の請求を行うことができます。

訴訟の期間と支払額

請求をされて訴訟になった場合には、通常は1~2年間の期間を要します。
この期間中は遅延損害金が加算されていき、従業員が退職しているので利率は前述の通り14.6%になります。
つまり、訴訟で争っている期間に約30%の遅延損害金が加算されます。
さらに、付加金の加算がされることも考慮すると、最大で本来の約230%の残業代を支払うことになります。
 本来の残業代(100%)+遅延損害金(約30%)+付加金(最大100%)=約230%
この支払は、一括で支払うことになるため、会社のキャッシュに大きな影響を与えます。

訴訟なしでの差押(先取特権に基づく差押)

さらに賃金債権(残業代を含む)については、訴訟を経ることなく差押をすることができます。

先取特権に基づく差押

賃金債権は労働者の生活の基盤となる債権であるため先取特権という特別の権利が定められています(民法306条2号)。
これは、債務者の支払い能力が足りない場合でも、他の債権者よりも優先的に弁済を受けられるという担保権です(民法303条)。

この先取特権がある場合には、訴訟提起をしなくても差押を行うことができます(民事執行法181条1項2号ハ)。
差押の対象は財産であれば何でもよく、銀行預金、不動産、高価な動産、債権などなんでも差し押さえられます。

会社に対する影響

通常であれば、請求や訴訟がなされてから差押がなされるため、その間に弁済をしたり、差押に対する対応を考えることができます。
一方で、先取特権に基づく差押で訴訟などの全長がなく差し押さえられるため会社にとっての影響が大きくなります。
例えば、

  • 工場や営業車を差し押さえられると、事業遂行に直ちに支障が生じます
  • 支払用の預貯金口座を差し押さえられると、資金繰りに支障が出たり、信用に影響が出て借り入れに支障が生じる場合があります
  • 売掛金債権を差し押さえられると、取引先からの信用に影響を与え、売り上げに支障が生じる場合もあります

まとめ

残業代その他の賃金未払いは、企業にとって訴訟リスク・資金繰り・信用問題・従業員のモチベーションなど、多方面に悪影響を及ぼします。
労働時間の管理、賃金制度の設計や運用は十分に注意して行うようにしましょう。

※ 厳密には法定内残業、法定外残業の区別、時間外手当、休日手当、深夜割増など細かい区別が必要ですがこのページでは省略しています。

国が認めた借金減額手段って何?|任意整理

インターネットを閲覧していると「国が認めた借金減額手段」などという広告が出てくることがあります。
これはいったいどういうものでしょうか?

借金と返済額

100万円の借金を毎月2万円ずつ返すと返済には何年かかるでしょうか?

100÷2で50か月とはなりません。

返済中にも利息が付くので、実際には77か月かかって約155万円を返済することになります。
逆に、先に期間を決めて、例えば

5年間で完済しようとすると、約2.4万円返済する必要があります。

任意整理

そこで登場するのが任意整理です。

これは、月々の返済額と返済期間を合意することで、その約束通りに返済している間は利息が発生しないようするというものです。

この場合、100万円を5年間で返す場合には、月々1.7万円返済することになります。

任意整理をしない場合と比較して約7000円返済額が減っています。
総返済額については、普通に5年間で返済する場合と比較して約30万円減ることになります。

国が認めた?

広告で「国が認めた」などと書かれていることがありますが、特に政府が積極的に推奨している制度というわけではありません。
単に「国が禁止していない」くらいの意味ととらえた方がいいでしょう。

他にも「国が認めた●●」という広告を見ることがありますが、あくまでも国が禁止していないだけであり、国が推奨しているというものではないと考えた方がいいでしょう。

「名ばかり管理職」のリスクとは?管理監督者制度からの未払い残業代の請求を防ぐポイント

「管理職=残業代なし」と考えている企業経営者は少なくありません。しかし、実際には「名ばかり管理職」と判断されるケースが多く、その場合、未払い残業代の請求を受けるリスクがあります。本記事では、管理監督者の法的基準や裁判例をもとに、適切な労務管理のポイントを解説します。未払い残業代による財務リスクをコントロールするための参考にしてください。

管理職なら残業代を支払わなくてもよいのか?

労働基準法では、労働者が1日8時間・週40時間を超えて働いた場合、残業代を支払う義務があります。しかし、「管理監督者」に該当する場合には、残業代の支払い義務が免除されると規定されています(労働基準法41条2号)。

このルールを聞いて、「すべての従業員を管理職にすれば、残業代を支払わずに長時間労働をさせられるのでは?」と考える人もいるかもしれません。
そこまではいかなくても、部署のリーダーを管理職扱いとしている会社は多いです。
しかし、単に会社が「管理職」と名付けただけでは、労働基準法の管理監督者には該当しません。

管理監督者と認められる基準

裁判所は、残業規制の適用除外となる「管理監督者」について、以下の基準を示しています。(東京地方裁判所:平17(ワ)26903号など)

労務管理上、使用者と一体的な立場にあること会社の経営方針や人事に関与しているか
経営層と同等の裁量権を持っているか
労働時間の管理を受けていないこと出退勤時間などの厳格な管理を受けていないか
自由な働き方をできるか  
地位にふさわしい処遇を受けていること基本給や手当が一般の従業員より十分に高い水準であるか

分かりやすく言うと、経営層と同じような立場で、自由な働き方ができ、その責任に見合った高額な給与を受け取っている場合に「管理監督者」と認められます。
中小企業であれば、役員クラスでなければ管理監督者と認められにくいです。

「名ばかり管理職」とは?

「管理職」として扱っているものの、実態としては上記の要件を満たさない場合を「名ばかり管理職」と呼んでいます。
たとえば、以下のようなケースは「名ばかり管理職」と判断されやすいです。

  • 店舗責任者だが、労働時間の管理を受けている
  • 部下の指揮監督を行っているが、経営判断に関与していない
  • 役職手当は支給されているが、一般社員と大差ない給与水準である

名ばかり管理職と認定された場合のリスク

「名ばかり管理職」と認定されると、企業は未払い残業代を支払う義務を負います。
次の理由から、このリスクはかなり大きなものとなります。

残業時間が長くなりやすい  残業代が発生しない前提で働かせるため、長時間労働になりやすい
その結果、未払い残業代が膨らむ  
従業員が退職時にまとめて請求するリスク  従業員が「退職時に未払い分を請求しよう」と考えるケースが多い
3年分の未払い残業代を一括請求されることも  
財務上・信用上の影響  企業の信用低下や、SNS・口コミによる影響
採用や取引における悪影響
残業代の一括払いによる資金繰りの圧迫  

労働者が取る対応

自身が「名ばかり管理職」であると考える場合には労働者としては次の対応を取ります。

勤務時間の保存何時から何時まで働いているかを記録します
タイムカードがなければ、日記に書き留めたり、電話やメールの履歴、通勤用のICカードの乗車履歴の保存などでも構いません
専門家に相談弁護士に相談して対応を検討します
直ちに請求したり辞めたりしなくてもよく、しばらく勤務して「残業代がたまってから請求」することも考えられます

会社が取るべき対策

上記のように「名ばかり管理職」と認定されることのダメージは大きく、従業員としても請求額が大きくなるように準備をします。
このため、従業員が文句を言わないからと「名ばかり管理職」の状態を続けることは大きなリスクがあります。
会社としては、「名ばかり管理職」のリスクを避けるために、以下の対策を講じる必要があります。

管理監督者の要件を満たすか精査する役職の名称ではなく、実態が管理監督者となるようにします
管理監督者に該当するかを弁護士に相談し、適切な制度設計をします
制度の適用自体を見直す管理監督者制度の適用自体を見直し、残業代を支払う制度に改めることも検討します

まとめ

「管理職にすれば残業代を支払わなくてもよい」と安易に考えるのは非常に危険です。
裁判所は、役職の名称ではなく、実態をもとに「管理監督者」かどうかを判断します。「名ばかり管理職」と認定されると、未払い残業代の請求が発生し、企業にとって大きな財務負担となる可能性があります。

自社の管理職の定義が適切かどうか、専門家のアドバイスを受けながら慎重に検討することが重要です。労務管理に不安がある場合は、弁護士や社労士に相談し、適切な対策を講じましょう。

独立・起業前に注意すべき法的リスク|競業・退職金・訴訟対策

法務はある程度事業が大きくなってからと考える事業者が多いですが,実際はかなり早い段階から考える必要があります。 今回は,独立前から注意すべき事項を紹介します。

1 退職前に会社を設立し,あいさつ回りをすること

⑴ 副業禁止規定との問題

最近は副業を許容する会社も増えてきていますが,依然として就業規則で副業を禁止している企業が多くあります。

もし,就業規則で副業を禁止している場合には,会社設立やあいさつ回りは禁止された副業に当たるとして懲戒処分がされる可能性があります。仮に,減給や解雇がされた場合には,収入が途絶えて独立後の資金計画に影響を与える可能性があります。

ここで,副業禁止規定が有効かという問題があります。

勤務時間以外の私生活上の時間は労働者が自由に利用できるため,勤務に支障をきたすなどの合理的な理由がなければ副業を禁止することはできません。

勤務時間外に仕事に差し支えない範囲で行う場合には,副業禁止規定との関係では許容されるといえるでしょう。

⑵ 競業禁止との問題

競業については,就業規則に規定がなくても禁止されると解釈されています。

したがって,行おうとしている業種が勤務先と競業する場合には,たとえ勤務時間外であっても営業活動と解釈されうるような行為は避けたほうがよいでしょう。 単に登記のみを行ったり,独立の予定を伝えるのみで営業活動を行わないのであれば適法とされる余地がありますが,勤務先との紛争リスクを抱えるという問題が生じます。

2 同僚を引き抜くこと

従業員の引き抜きについては,引き抜きが違法であるとして元勤務先から損害賠償請求をされる場合があります。

ただし,引き抜かれる従業員にも職業選択の自由があるため,引き抜き行為は原則として違法とはなりません。

勤務時間中に勧誘を行う,執拗な勧誘を行う,あえて勤務先を害するような退職方法をとらせるなどの事情があると違法とされるような場合があります。

3 退職金

会社によっては「退職後に競業他社に就職した場合には退職金を支給しない。」と規定されていることがあります。

就業規則にこのような規定があり,行おうとしている事業が競業する場合には退職金が支給されないケースがあります。

裁判上,このような規定は,一定の範囲の減額については許されるが全額の不支給は許されないと判断されることが多いです。

自社の退職金規定を確認し,退職金が不支給となったり減額される可能性があるかを調べ,不支給や減額された場合でも資金計画に支障が生じないかを検討する必要があります。

4 訴訟リスク

法的に問題がないように注意して開業準備をしていったとしても,勤務先から何らかの法的主張をされる可能性は残ります。

例えば,退職した後に,元勤務先が「競業避止義務に違反したから退職金を一切支払わない。」という扱いをした場合を想定します。

この場合,訴訟を提起して勝訴判決を得ることで退職金の支払いを受けられる可能性が高いです。しかし,判決を得るまでに短くても1年程度の期間がかかり,訴訟費用も別途必要になります。

このため,「退職金を営業開始後1年間の経費と生活費に充てる。」という予定は崩れてしまうので,この期間の資金を別途用意する方法を検討する必要があります。

このように,法的問題点の判断だけでなく,トラブル発生の可能性と対応に要するコストも併せて検討する必要があります。

固定残業代を導入するには|効果と要件について解説|適切な導入方法とリスク

固定残業代制度は、働き方改革の一環として採用されることが多いですが、導入には法的要件を満たす必要があります。本記事では、固定残業代の効果、要件、リスクについて詳しく解説します。

固定残業代の効果

判例上、「基本給の中に残業代を含む」という制度自体は認められています。ただし、以下の点に注意が必要です。

実際の残業代が固定残業代を超えた場合、差額を支払う義務がある例:固定残業代として毎月10万円を支給する制度を導入していた場合
実際の残業代が15万円 → 差額5万円を追加で支給する必要がある
固定残業代を導入しても、残業代の支払い総額を減らすことはできない想定よりも残業時間が少ない場合は、実際の残業代よりも多く支払うことになる
想定よりも残業時間が多い場合は、実際の残業代の支払い義務が発生する

つまり「固定残業代を設定することで、企業が残業代の支払いを削減できるわけではない。」という点を理解することが重要です。

固定残業代制度の適法要件

固定残業代制度を有効にするためには、以下の要件を満たす必要があります。

 基本給と残業代部分の区別が明確であること

固定残業代を導入しても、実際の残業代が固定残業代を超える場合には追加の残業代を支払う必要があります。
このため判例では、「基本給部分」と「残業代部分」を明確に区別できることが必要とされています。
適切な制度設計の例は次の通りです。

  • 基本給25万円+固定残業代5万円
  • 月給30万円(ただし5万円分の固定残業代を含む)

不適切な設計の例は次の通りです。

  • 月給30万円(残業代を含む)

⇒この定め方の場合にはどこまでが基本給でどこからが残業代かを区別できません。

要件を満たしていない場合のリスク

固定残業代の制度が無効と判断された場合、「残業代が支払われていない」と見なされます。
このため、支払っていない残業代を追加で支払う必要があります。
さらに、固定で支払われていた金額はすべて基本給として扱われ、その基本給をもとに残業代が計算されます。

つまり、次のような計算になります。
例:「月給30万円(残業代を含む)」という規程だった場合
(所定労働時間:176時間 残業時間20時間として算定)

基本給時給単価割増賃金残業代合計
会社の想定25万円1420円1776円3万5511円
(5万円固定)
30万円
実際の計算30万円1705円2131円4万2614円34万2614円

固定残業代制度のメリット

財務的なメリットは限定的

固定残業代制度には、財務的なメリットは限定的です。その理由は以下の通りです。

労働時間の管理が必要固定残業代を導入しても、労働時間を管理し、固定残業代を超えた場合は差額を支払う必要がある このため、労働時間の管理コストを削減することもできない
適切な設計をしないと、法的リスクが高まる要件を満たしていない場合、未払い残業代請求のリスクが発生し、企業にとって大きな負担となる可能性がある

労働者のモチベーションを高めるメリットがある

効率化のインセンティブを高められる「残業をしなくても残業代を得られる。」ことで業務を効率化することのインセンティブが高まり、従業員の能力向上につながる
やる気や健康を維持しやすくなる同様に、長時間労働によるやる気や健康の低下を避けることができる

まとめ

固定残業代制度は、労働者の収入を安定させる効果はあるものの、企業が残業代の支払いを減らす手段にはなりません。
導入する場合、「基本給」と「固定残業代」を明確に区別することが必要です。
要件を満たさない場合、固定残業代は無効となり、結果的に企業の負担が増加するリスクがあります。
固定残業代を適切に運用するには、法律の要件を正しく理解し、企業の実情に合わせた設計を行うことが重要です。