残業代を支払わない場合の効果|訴訟なしでの差押の可能性も

企業が従業員に残業をさせる場合、法律に基づいて残業代を支払う義務があります。
しかし、固定残業代の誤解や管理職制度の適用ミスなどにより、残業代を適切に支払っていないケースもあります。
本記事では、残業代を未払いにした場合のリスクについて解説します。

残業代に関する基本的な法制度

36協定

労働基準法では、原則として1日8時間を超える労働は認められていません。ただし、労使間で36協定(サブロク協定)を締結することで、一定の範囲内で残業を合法化できます。
36協定がない状態での残業は違法となりますが、違法な残業であっても企業には残業代の支払い義務が発生します。

残業代の計算方法

法律では、通常の労働時間を超える労働については割増賃金を支払う義務があります。基本的な残業代の計算式は以下のとおりです。
 1時間あたりの賃金 = 時給単価 × 1.25
例えば、時給が1,200円の場合、残業代は1,500円(1,200円 × 1.25)となります。

遅延損害金

賃金の支払いが遅れた場合、以下の遅延損害金が発生します。

  • 在職中:年3%
  • 退職後:年14.6%(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項)

賃金債権の時効

賃金の時効は3年(労働基準法附則第143条3項)ですが、近いうちに5年に延長される予定です(労働基準法115条)。

付加金

賃金(残業代を含む)が支払われない場合には、支払うべき賃金と同一額の付加金の支払を命じられる場合があります(労働基準法114条)。
つまり、もともと支払うべき残業代の2倍の金額を支払うリスクがあります。

従業員側の請求戦術

上記法制度を前提に従業員側で、最大限有利に残業代請求を行う方法を検討してみましょう。

残業代未払いに不満を持った従業員は、転職活動をしながら証拠を集めることが多いです。証拠として有効なのは以下のようなものです。

  • パソコンの使用履歴(ログイン・ログアウト時間)
  • 定期券やIC乗車券の利用履歴
  • メールの送受信履歴

未払いが発生している企業では、残業時間の管理が甘いケースが多いため、従業員が以下のような方法で勤務時間を増やすことができます。

  • 仕事をゆっくり進める
  • 必要のない残業を行う
  • 仕事量を増やす

これらの方法で勤務時間が増えていても、企業側が不要な残業であることを証明できなければ、全額支払う必要が生じます。
(なお、不要な残業であることの勤務は非常に困難です。)

そして、転職が決まったら退職して、直ちに時効にかかっていない3年分の残業代を請求します。
勤務期間が短い場合には、時効直前まで請求を遅らせることで、遅延損害金(14.6%)を増やすことも考えられます。
これによって、最大限の未払残業代の請求を行うことができます。

訴訟の期間と支払額

請求をされて訴訟になった場合には、通常は1~2年間の期間を要します。
この期間中は遅延損害金が加算されていき、従業員が退職しているので利率は前述の通り14.6%になります。
つまり、訴訟で争っている期間に約30%の遅延損害金が加算されます。
さらに、付加金の加算がされることも考慮すると、最大で本来の約230%の残業代を支払うことになります。
 本来の残業代(100%)+遅延損害金(約30%)+付加金(最大100%)=約230%
この支払は、一括で支払うことになるため、会社のキャッシュに大きな影響を与えます。

訴訟なしでの差押(先取特権に基づく差押)

さらに賃金債権(残業代を含む)については、訴訟を経ることなく差押をすることができます。

先取特権に基づく差押

賃金債権は労働者の生活の基盤となる債権であるため先取特権という特別の権利が定められています(民法306条2号)。
これは、債務者の支払い能力が足りない場合でも、他の債権者よりも優先的に弁済を受けられるという担保権です(民法303条)。

この先取特権がある場合には、訴訟提起をしなくても差押を行うことができます(民事執行法181条1項2号ハ)。
差押の対象は財産であれば何でもよく、銀行預金、不動産、高価な動産、債権などなんでも差し押さえられます。

会社に対する影響

通常であれば、請求や訴訟がなされてから差押がなされるため、その間に弁済をしたり、差押に対する対応を考えることができます。
一方で、先取特権に基づく差押で訴訟などの全長がなく差し押さえられるため会社にとっての影響が大きくなります。
例えば、

  • 工場や営業車を差し押さえられると、事業遂行に直ちに支障が生じます
  • 支払用の預貯金口座を差し押さえられると、資金繰りに支障が出たり、信用に影響が出て借り入れに支障が生じる場合があります
  • 売掛金債権を差し押さえられると、取引先からの信用に影響を与え、売り上げに支障が生じる場合もあります

まとめ

残業代その他の賃金未払いは、企業にとって訴訟リスク・資金繰り・信用問題・従業員のモチベーションなど、多方面に悪影響を及ぼします。
労働時間の管理、賃金制度の設計や運用は十分に注意して行うようにしましょう。

※ 厳密には法定内残業、法定外残業の区別、時間外手当、休日手当、深夜割増など細かい区別が必要ですがこのページでは省略しています。

「名ばかり管理職」のリスクとは?管理監督者制度からの未払い残業代の請求を防ぐポイント

「管理職=残業代なし」と考えている企業経営者は少なくありません。しかし、実際には「名ばかり管理職」と判断されるケースが多く、その場合、未払い残業代の請求を受けるリスクがあります。本記事では、管理監督者の法的基準や裁判例をもとに、適切な労務管理のポイントを解説します。未払い残業代による財務リスクをコントロールするための参考にしてください。

管理職なら残業代を支払わなくてもよいのか?

労働基準法では、労働者が1日8時間・週40時間を超えて働いた場合、残業代を支払う義務があります。しかし、「管理監督者」に該当する場合には、残業代の支払い義務が免除されると規定されています(労働基準法41条2号)。

このルールを聞いて、「すべての従業員を管理職にすれば、残業代を支払わずに長時間労働をさせられるのでは?」と考える人もいるかもしれません。
そこまではいかなくても、部署のリーダーを管理職扱いとしている会社は多いです。
しかし、単に会社が「管理職」と名付けただけでは、労働基準法の管理監督者には該当しません。

管理監督者と認められる基準

裁判所は、残業規制の適用除外となる「管理監督者」について、以下の基準を示しています。(東京地方裁判所:平17(ワ)26903号など)

労務管理上、使用者と一体的な立場にあること会社の経営方針や人事に関与しているか
経営層と同等の裁量権を持っているか
労働時間の管理を受けていないこと出退勤時間などの厳格な管理を受けていないか
自由な働き方をできるか  
地位にふさわしい処遇を受けていること基本給や手当が一般の従業員より十分に高い水準であるか

分かりやすく言うと、経営層と同じような立場で、自由な働き方ができ、その責任に見合った高額な給与を受け取っている場合に「管理監督者」と認められます。
中小企業であれば、役員クラスでなければ管理監督者と認められにくいです。

「名ばかり管理職」とは?

「管理職」として扱っているものの、実態としては上記の要件を満たさない場合を「名ばかり管理職」と呼んでいます。
たとえば、以下のようなケースは「名ばかり管理職」と判断されやすいです。

  • 店舗責任者だが、労働時間の管理を受けている
  • 部下の指揮監督を行っているが、経営判断に関与していない
  • 役職手当は支給されているが、一般社員と大差ない給与水準である

名ばかり管理職と認定された場合のリスク

「名ばかり管理職」と認定されると、企業は未払い残業代を支払う義務を負います。
次の理由から、このリスクはかなり大きなものとなります。

残業時間が長くなりやすい  残業代が発生しない前提で働かせるため、長時間労働になりやすい
その結果、未払い残業代が膨らむ  
従業員が退職時にまとめて請求するリスク  従業員が「退職時に未払い分を請求しよう」と考えるケースが多い
3年分の未払い残業代を一括請求されることも  
財務上・信用上の影響  企業の信用低下や、SNS・口コミによる影響
採用や取引における悪影響
残業代の一括払いによる資金繰りの圧迫  

労働者が取る対応

自身が「名ばかり管理職」であると考える場合には労働者としては次の対応を取ります。

勤務時間の保存何時から何時まで働いているかを記録します
タイムカードがなければ、日記に書き留めたり、電話やメールの履歴、通勤用のICカードの乗車履歴の保存などでも構いません
専門家に相談弁護士に相談して対応を検討します
直ちに請求したり辞めたりしなくてもよく、しばらく勤務して「残業代がたまってから請求」することも考えられます

会社が取るべき対策

上記のように「名ばかり管理職」と認定されることのダメージは大きく、従業員としても請求額が大きくなるように準備をします。
このため、従業員が文句を言わないからと「名ばかり管理職」の状態を続けることは大きなリスクがあります。
会社としては、「名ばかり管理職」のリスクを避けるために、以下の対策を講じる必要があります。

管理監督者の要件を満たすか精査する役職の名称ではなく、実態が管理監督者となるようにします
管理監督者に該当するかを弁護士に相談し、適切な制度設計をします
制度の適用自体を見直す管理監督者制度の適用自体を見直し、残業代を支払う制度に改めることも検討します

まとめ

「管理職にすれば残業代を支払わなくてもよい」と安易に考えるのは非常に危険です。
裁判所は、役職の名称ではなく、実態をもとに「管理監督者」かどうかを判断します。「名ばかり管理職」と認定されると、未払い残業代の請求が発生し、企業にとって大きな財務負担となる可能性があります。

自社の管理職の定義が適切かどうか、専門家のアドバイスを受けながら慎重に検討することが重要です。労務管理に不安がある場合は、弁護士や社労士に相談し、適切な対策を講じましょう。

固定残業代を導入するには|効果と要件について解説|適切な導入方法とリスク

固定残業代制度は、働き方改革の一環として採用されることが多いですが、導入には法的要件を満たす必要があります。本記事では、固定残業代の効果、要件、リスクについて詳しく解説します。

固定残業代の効果

判例上、「基本給の中に残業代を含む」という制度自体は認められています。ただし、以下の点に注意が必要です。

実際の残業代が固定残業代を超えた場合、差額を支払う義務がある例:固定残業代として毎月10万円を支給する制度を導入していた場合
実際の残業代が15万円 → 差額5万円を追加で支給する必要がある
固定残業代を導入しても、残業代の支払い総額を減らすことはできない想定よりも残業時間が少ない場合は、実際の残業代よりも多く支払うことになる
想定よりも残業時間が多い場合は、実際の残業代の支払い義務が発生する

つまり「固定残業代を設定することで、企業が残業代の支払いを削減できるわけではない。」という点を理解することが重要です。

固定残業代制度の適法要件

固定残業代制度を有効にするためには、以下の要件を満たす必要があります。

 基本給と残業代部分の区別が明確であること

固定残業代を導入しても、実際の残業代が固定残業代を超える場合には追加の残業代を支払う必要があります。
このため判例では、「基本給部分」と「残業代部分」を明確に区別できることが必要とされています。
適切な制度設計の例は次の通りです。

  • 基本給25万円+固定残業代5万円
  • 月給30万円(ただし5万円分の固定残業代を含む)

不適切な設計の例は次の通りです。

  • 月給30万円(残業代を含む)

⇒この定め方の場合にはどこまでが基本給でどこからが残業代かを区別できません。

要件を満たしていない場合のリスク

固定残業代の制度が無効と判断された場合、「残業代が支払われていない」と見なされます。
このため、支払っていない残業代を追加で支払う必要があります。
さらに、固定で支払われていた金額はすべて基本給として扱われ、その基本給をもとに残業代が計算されます。

つまり、次のような計算になります。
例:「月給30万円(残業代を含む)」という規程だった場合
(所定労働時間:176時間 残業時間20時間として算定)

基本給時給単価割増賃金残業代合計
会社の想定25万円1420円1776円3万5511円
(5万円固定)
30万円
実際の計算30万円1705円2131円4万2614円34万2614円

固定残業代制度のメリット

財務的なメリットは限定的

固定残業代制度には、財務的なメリットは限定的です。その理由は以下の通りです。

労働時間の管理が必要固定残業代を導入しても、労働時間を管理し、固定残業代を超えた場合は差額を支払う必要がある このため、労働時間の管理コストを削減することもできない
適切な設計をしないと、法的リスクが高まる要件を満たしていない場合、未払い残業代請求のリスクが発生し、企業にとって大きな負担となる可能性がある

労働者のモチベーションを高めるメリットがある

効率化のインセンティブを高められる「残業をしなくても残業代を得られる。」ことで業務を効率化することのインセンティブが高まり、従業員の能力向上につながる
やる気や健康を維持しやすくなる同様に、長時間労働によるやる気や健康の低下を避けることができる

まとめ

固定残業代制度は、労働者の収入を安定させる効果はあるものの、企業が残業代の支払いを減らす手段にはなりません。
導入する場合、「基本給」と「固定残業代」を明確に区別することが必要です。
要件を満たさない場合、固定残業代は無効となり、結果的に企業の負担が増加するリスクがあります。
固定残業代を適切に運用するには、法律の要件を正しく理解し、企業の実情に合わせた設計を行うことが重要です。

悪質なネット書き込みへの対応策|削除請求・発信者特定・損害賠償

1 悪質なネット書き込みへの対応の必要性

インターネット上に虚偽の情報が書き込まれた場合,信用が毀損され売り上げに重大な影響が出ることがあります。
また,虚偽の書き込み恐れてクレーマーに対して適切な対応をできなくなっている事業者もいるのではないでしょうか。
上記のような事態を避けるために,悪質なネット上の書き込みに対する対応は知っておくべきでしょう。

2 悪質な書き込みの削除請求

悪質な書き込みに対しては,発信者,サーバ管理者,サイト運営者など「削除が可能な地位にある者」に対して,削除請求を行うことになります。
この請求は,交渉で請求することもあれば,訴訟で請求することもあります。
後述の発信者特定や損害賠償請求を行わず,削除請求のみを行うこともできます。

3 発信者の特定

ネット上の通信は,匿名のように見えますが,実際には,どこのサーバやパソコンからアクセスしていたかなどの記録(ログ)が残ります。このログをたどることで,発信者を特定することが可能となります。
このログをたどるためには,
① サイトを管理しているサーバ運営者に対して,発信者が利用していたアクセスプロバイダを開示するよう請求する

② アクセスプロバイダに対して,発信者の端末を開示するよう請求する

という最低でも2段階の手続きが必要になります。
サーバ管理者もプロバイダも,正当な理由なく開示をしてしまうと,発信者との関係で不法行為等が成立してしまうため,通常は判決が出なければ開示をしてくれません。
このため,2回の訴訟が必要となります。これが「発信者を特定するだけで100万円かかる。」といわれる理由です。

4 発信者に対する損害賠償請求

発信者を特定することができれば,当該発信者に対して不法行為に基づいて損害賠償請求を行います。
ネットで書き込みを行う人は,「バレない。」と思って書き込んでいることが多いため,特定されて訴状が到達したという事実は,大きな意味を持ちます。

ハンコ廃止の現状と法律の観点から考える|代替手段と今後の対応

コロナ禍での働き方改革も合わさってハンコ文化からの脱却が話題になっています。
ハンコの廃止について法律との兼ね合いから検討してみます。

1 ハンコの役割

そもそもハンコは何のために押すのでしょうか

⑴ 本人が作った文書であると証明するため

例えば,訴訟において契約書を証拠として提出する場合には,その契約書を本人(またはその指示を受けた人)が作成したと証明する必要があります。
この証明において,本人の印章(ハンコ)による印影がある場合には,本人が作成したと推定されます(民事訴訟法228条4項)。
これは,他の方法で証明しても構いませんが,ハンコが押されている場合には証明が容易になるというものです。

⑵ 法律上の要請

例えば,取締役会の議事録については,出席した取締役は議事録に署名又は記名押印しなければなりません(会社法369条3項)。
ただし,同時に電磁的記録による書面作成と電子署名が置かれていることが多いです(例えば同条4項)。

⑶ 相手方の要請

相手方から上記理由でハンコを押すことを要請されるものです。
実際には,相手方も本当にハンコが必要かを検討しておらず慣例に基づいてハンコを要請しているケースも多いでしょう。

2 ハンコに代わる手段

上記役割を代替できる手段を検討してみます。

⑴ 証明の観点

本人が作った文書であると証明するためのハンコであれば,他の方法で証明することができればハンコは不要といえます。
また,そもそも紙の文書を作る必要があるかという点も疑う必要があるでしょう。

紙の契約書であればハンコではなく署名(サイン)でも構いません(むしろ世界的にはそちらが普通です)。
さすがに,署名も押印もない場合には契約の有効性が争われるので,紙で作成する場合はこれ以上の省略は困難でしょう。

データで契約書を作るのであれば,電子署名という方法があります。
要件を満たした電子署名がなされている場合には,ハンコが押されている場合と同様に本人が作成したと推定されます(電子署名法3条)。
ただし,契約書の電子化には「相手もシステムを導入している」という条件が付いてしまいます。

稟議書などの社内文書についてはどうでしょうか。
これらは,そもそも紙にする必要があるか,ハンコを押す必要があるかという観点から検討が必要です。
これらには実印ではなく三文判の認印が使われることも多く,ハンコが押されているとしても,本人が作った文書ではないという反証が容易です。
社内で各人が閲覧して承認したことを示すのであれば,専用のシステムを作ったり,メールを利用すれば,手間も時間も費用も少なくて済むでしょう(本人以外が送受信できないシステムであれば送受信履歴を証拠とできます)。

⑵ 法律上の要請の観点

紙の書面を作って署名・押印をすることが法律で定められている文書については,ハンコを廃止することはできません。
ただし,多くの書面については,紙の書面に代わる電子的記録を作成し,電子署名を行うことで代用できると定められています。

⑶ 相手方からの要請の観点

上記代替方法があることを相手方に説明して納得してもらうことができれば廃止することが可能です。
実際には,相手方次第なので無駄でも廃止できないことが多いでしょう。
むしろ,相手方からハンコの廃止を提案してきたときに対応できる準備をしておくべきでしょう。

3 ハンコを廃止についての考え方

このように考えると,
 契約書などの社外との文書 = 完全な廃止は困難
 社内文書 = ほぼ廃止可能
となるでしょう。

社内文書で紙の書類やハンコが多い場合には余分な手間や保管スペースが必要となっている可能性が高いので見直してみてください(手間=人件費,保管スペース=設備費と考えると小さくないコストといえます)。

将来的には,行政や大手企業が積極的にハンコを廃止し,電子署名での対応を求めてくることが考えられます。
その時に備えて,早めにシステムの調査や準備を始めておくべきでしょう。

経営者保証の外し方|金融庁の方針と具体的な対策

金融庁が示す「経営者保証」見直しの方針とは?

金融庁は、金融機関が経営者保証を要求する場合、保証を要求する理由の明示や保証を不要とする条件の説明を義務付ける方針を発表しました。この方針は、以下のような目的を持っています
起業の促進
・事業承継の円滑化

これにより、中小企業が経営者保証に縛られず、積極的な経営や事業の引き継ぎがしやすくなることが期待されています。

経営者保証とその背景

経営者保証とは

 中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者自身を連帯保証人にすることが一般的です。これは主に次の目的があります
・経営者の放漫経営を防止する
・会社財産の不正使用を抑止する

経営者保証には経営者の行動を監視する機能を持たせることで、金融機関が融資を行いやすくなるという側面があります。

一方で、経営者保証は次のような負の側面をもたらしています
・経営者が投資に消極的になる
・起業や事業引き継ぎが難しくなる

事業に失敗すれば借金苦に陥ってしまうという状況を作ることで、リスクを負ってでも挑戦するという選択を取り難くなっています。

経営者保証ガイドラインの概要

経営者保証の悪影響を抑えるため、金融庁は「経営者保証ガイドライン」を策定し、一定の条件を満たせば保証を求めないよう金融機関に要請しています。
具体的な条件は以下の3つです:

・法人と経営者の区分・分離が明確であること
・法人の資産・収益力で返済が可能であること
・適時適切な財務情報の開示が行われていること

これらの条件を満たすことで、経営者保証の回避が可能になります。

経営者保証ガイドラインの実情と金融庁方針の意味

 現状では、ガイドラインに基づく運用が進んでいないのが実情です。金融機関が理由なく経営者保証を求めるケースが多く見られます。

金融庁の新方針の意義
今回の方針の明示により、金融機関は経営者保証を求める際に理由を明示する義務が生じます。これにより、不適切な経営者保証要求の抑止が期待されます。

中小企業として取るべき具体的対応

金融機関の「理由説明」への対応

金融機関から経営者保証を求められた場合には、「理由の説明」を求めましょう。
その上で、経営者保証を求める理由が示された場合には、次の対応が重要です
・理由の適切性を検証する
・事実誤認があれば訂正を求める
・融資申請段階からガイドラインを意識した融資申請書を作成する

経営改善とガイドラインへの適合

経営者としては、ガイドラインの要件を満たすための経営基盤を構築する必要があります。
特に、事業承継が関わる場合、次の準備が求められます
・法人と経営者個人の財産の分離
・公表を意識した適切な財務情報の管理
・経営基盤・収益力の向上

いずれも、会社が成長するためには重要な要素ですので、専門家のサポートを受けながら少しずつ実現していきましょう。

まとめ:経営者保証からの解放が中小企業の未来を拓く

金融庁の方針を受け、経営者保証ガイドラインの遵守は今後ますます重要になります。
・起業のハードルを下げる
・事業承継を円滑化する

中小企業が適切に対応することで、事業の成長や次世代へのスムーズな事業引き継ぎが可能となります。

会社から経営者保証を外す要望を出さないのに、金融機関から外そうと言ってくれることはありません。
まずは、会社から金融機関あてに経営者保証を外すことを要望してみましょう。