労働組合法上の「労働者」

 東京都労働委員会がウーバーイーツの配達員を労働組合法上の「労働者」に該当するという判断をしました。
 労働組合法上の「労働者」に該当する場合には、団体交渉に応じる義務などが発生します。
 他方で、労働基準法などの「労働者」に該当するとの判断ではないため、必ずしも残業代などの支払義務が発生するわけではありません。
  委任や請負などで仕事を外注したり、ウーバーのようなマッチングサービスを提供する場合には「労働者」に該当するか否か考慮する必要があります。

1 法律における「労働者」の定義

 労働基準法などの法律は「労働者」に対して様々な保護を与えており、「労働者」に該当するかは重要な要素になります。
 この「労働者」の定義は法律によって異なります。

⑴ 労働基準法上の「労働者」

 労働基準法や労働契約法などの労働条件の改善を目的とする法律では、「指揮監督されて労務を提供する者」が「労働者」に該当するとされています。
 名目上は委任や請負契約であっても、「指揮監督」が行われている場合には「労働者」に該当し、残業代の支払義務などが発生することになります。

⑵ 労働組合法上の「労働者」

 労働組合法では「賃金(またはそれに準じる収入)を得て生活をする者」が「労働者」に該当するとされています。これは、使用者に対する経済的な従属性を重視するものです。
 基準が異なっているため、労働基準法では「労働者」に該当しない者が、労働組合法では「労働者」に該当する場合があります。
 有名なところでは、プロ野球選手は労働基準法上の「労働者」には該当しませんが、労働組合法上の「労働者」に該当します。

2 労働組合法上の「労働者」に該当した場合の効果

労働組合法上の「労働者」に該当する場合には主に次のような効果が発生します。
 ① 会社は組合加入を防ぐことができない
 ② 会社は組合との団体交渉の席に着く義務がある
 ③ 労働者はストライキを行う権利がある(会社はストライキによる損害を賠償請求できない)

 会社としては、「労働者」に該当する場合には団体交渉に応じるなどの適切な対応をするか、そもそも「労働者」に該当すると認定されないように契約や取引の管理を適切に行う必要があります。

転職の活発化と営業秘密の保護

 制度上も労働者の意識上も終身雇用がなくなり、転職が一般化しています。
  それに伴って、転職時に前職の営業秘密を持ち出すというトラブルが増えており、会社としては営業秘密を保護するための方策が求められます。

1 不正競争防止法

⑴  秘密として保護される要件

不正競争防止法は、
 ① 秘密として管理されている
 ② 事業活動に有用な情報である
 ③ 公然と知られていない
という条件を満たす情報について保護を与えており、そのような情報を不正に取得したり、不正に取得した情報を利用する行為を禁止しています。

⑵  企業としての対応

企業としては、営業秘密が流出しないように注意を払うことはもちろん、仮に流出した場合に法律上の保護を受けられるように、不正競争防止法上の営業秘密の要件を満たすようにする必要があります。

具体的には、営業秘密に当たる情報について、秘密であることを明示する、特定の従業員以外は閲覧できないようにするなどの方法で管理することで、「秘密として管理されている」という要件を満たすようにしておく必要があります。

2 労働者との合意

 不正競争防止法によって流した後の事後的な救済を受けることができますが、そもそも流出しないように対策を講じる必要があります。
 近年は転職が活発になっており、転職した労働者によって営業秘密を持ち出されるケースが増えています。
 そこで、転職した労働者によって営業秘密が流出しないように対策を講じる必要があります。

⑴ 秘密保持契約

 労働者が在職中や退職後に秘密情報を持ち出さないよう、秘密保持契約を締結させる必要があります。
 一般的な労働契約書にも秘密保持条項が含まれている場合が多いですが、労働者の認識不足による持ち出しが発生する可能性があります。
 そこで、労働者に秘密保持義務を認識させるため、意識的に労働契約とは別に秘密保持契約を締結することが推奨されます。

⑵ 競業避止契約

労働者が競業他社に就職した場合には、ノウハウなどの形のない情報を利用して顧客を奪われる可能性があります。
 そこで、退職後に競業他社に就職してはならないという競業避止契約を締結したり、労働契約書にそのような内容が記載されている場合が多いです。
 ただし、労働者には就職の自由や営業の自由があるため、競業避止義務はかなり限られた範囲でのみ認められます。
 このため、競業避止義務で営業の秘密を守ることには限界があります。

経営者保証ガイドラインと説明義務

 金融庁は、金融機関に対して、経営者保証を要求する場合に保証を求める理由や不要とする条件などを明示することを義務付ける方針を発表しました。 経営者保証を減らすことで、起業を促進したり、事業承継を円滑化させることを目的としています。

1 経営者保証とガイドライン

⑴ 経営者保証と目的

 中小企業が金融機関から融資を受ける場合には、経営者を連帯保証人にすることが一般的です。
 これは、経営者と会社を運命共同体とすることで、経営者が放漫経営を行ったり、会社財産を使い込んだりすることを防ぐことを主な目的としています。
 逆に、会社から回収できない場合に経営者から回収するという、保証契約本来の効果には期待していないことが多いでしょう。

 一方で、経営者保証は、経営上の投資に消極的にさせて競争力向上を妨げたり、起業や事業の引き受けに消極的にさせている側面があります。

⑵ 経営者保証ガイドライン

 このような経営者保証の悪影響を緩和するため、金融庁では経営者保証ガイドラインを定めて、一定の条件の下では経営者保証を求めないように金融機関に要請しています。

具体的には、
  法人と経営者が明確に区分・分離
  法人のみの資産や収益力で返済が可能
  金融機関に対して適時適切に財務情報を開示
という3つの条件を満たす場合には経営者保証を求めないように要請しています。

2 ガイドラインの実情と今回の方針の意味

 しかし、実際にはガイドラインに従った運用はされておらず、特に理由なく経営者保証を求められているのが実情です。
 今回の金融庁の方針は、金融機関が経営者保証を求める際に理由の説明を行わせることで、理由のない経営者保証の要求を抑止するものといえます。

3 中小企業としての対応

⑴ 「理由説明」に対する対応

 金融機関から経営者保証を求める「理由」を開示された場合には、その理由が適切なものであるか、自社の実態に照らして検証する必要があります。
 検証の結果、事実誤認がある場合には、それを訂正する必要があります。
 また、融資申請の段階から、ガイドラインを意識した融資申請書を作成する必要があります。

⑵ 経営においての対応

 経営者としては、経営者保証ガイドラインの要件を満たす経営状況を作り出す必要があります。
 特に、事業承継を控えている会社においては、事業承継を円滑に行えるよう、引継ぎ後の経営者が経営者保証なしでの融資を受けられる状況を作り出すことが求められます。