転職の活発化と営業秘密の保護

 制度上も労働者の意識上も終身雇用がなくなり、転職が一般化しています。
  それに伴って、転職時に前職の営業秘密を持ち出すというトラブルが増えており、会社としては営業秘密を保護するための方策が求められます。

1 不正競争防止法

⑴  秘密として保護される要件

不正競争防止法は、
 ① 秘密として管理されている
 ② 事業活動に有用な情報である
 ③ 公然と知られていない
という条件を満たす情報について保護を与えており、そのような情報を不正に取得したり、不正に取得した情報を利用する行為を禁止しています。

⑵  企業としての対応

企業としては、営業秘密が流出しないように注意を払うことはもちろん、仮に流出した場合に法律上の保護を受けられるように、不正競争防止法上の営業秘密の要件を満たすようにする必要があります。

具体的には、営業秘密に当たる情報について、秘密であることを明示する、特定の従業員以外は閲覧できないようにするなどの方法で管理することで、「秘密として管理されている」という要件を満たすようにしておく必要があります。

2 労働者との合意

 不正競争防止法によって流した後の事後的な救済を受けることができますが、そもそも流出しないように対策を講じる必要があります。
 近年は転職が活発になっており、転職した労働者によって営業秘密を持ち出されるケースが増えています。
 そこで、転職した労働者によって営業秘密が流出しないように対策を講じる必要があります。

⑴ 秘密保持契約

 労働者が在職中や退職後に秘密情報を持ち出さないよう、秘密保持契約を締結させる必要があります。
 一般的な労働契約書にも秘密保持条項が含まれている場合が多いですが、労働者の認識不足による持ち出しが発生する可能性があります。
 そこで、労働者に秘密保持義務を認識させるため、意識的に労働契約とは別に秘密保持契約を締結することが推奨されます。

⑵ 競業避止契約

労働者が競業他社に就職した場合には、ノウハウなどの形のない情報を利用して顧客を奪われる可能性があります。
 そこで、退職後に競業他社に就職してはならないという競業避止契約を締結したり、労働契約書にそのような内容が記載されている場合が多いです。
 ただし、労働者には就職の自由や営業の自由があるため、競業避止義務はかなり限られた範囲でのみ認められます。
 このため、競業避止義務で営業の秘密を守ることには限界があります。